テンセントの爱奇艺買収失敗と本格参入

中国インターネットは20年という時間を費やしてBATという三つ巴の勢力図を作り上げた。彼らはこの寡占的な地位を保つため、常に自らの業務の境界をどんどん広げていった。

「ある意味でこれはBATを中心とした世界大戦である」と易凯资本の创始人王冉はこのギャンブルを評する。重要な戦場は2つあった。一つはO2Oを主とした利用シーンの争奪戦、そしてもうひとつはトラフィックの入り口の争奪戦だ。動画サイトは後者、すなわちトラフィック争奪戦の一つの焦点だった。

アリババは优酷に対して一株当たり26.6ドルという、動画サイト業界における今までの過去のいかなる取引の価格をも上回った価格を提示したという。しかしこの投資家は古永锵に焦って回答しないようにと言った。「あなた方はこの価格に対してさらに1ドル上乗せした一株あたり27.6ドルという価格で他の会社と交渉すればいい」。

ここで言う「他の会社」とはアリババの古きライバル、テンセントだった。その時まさにテンセントは自らのテンセントビデオと業界トップクラスの動画サイトを合併させ一定比率の株を取得することを考えていた。

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2011年に成立したテンセントビデオは長きにわたって、 防御的(訳注:消極的な、積極的に成長を探るわけではない)なプロダクトだった。「ユーザーたちが動画を見たいというニーズがあることがわかったので、まあまず動画サイトを作ってみよう」といったノリだったとテンセントビデオ研究開発チームの元メンバーは言う。当時の优酷の毎日4000万人を超えるDAU(デイリーアクティブユーザー)に対してテンセントビデオは2014年になって初めて1000万人を超えた程度だった。

テンセントは优酷の前にすでに爱奇艺と接触しており、龚宇(爱奇艺 CEO)は前向きだった。彼の条件は非常に明確で 、WeChat からトラフィック流入がもらえること、そしてSNSとしての機能の便益を得ることが合併の前提だった。しかしテンセントはこれに同意しなかった。

動画サービスを放出すべきかはテンセントの内部においても様々な意見があった。优酷と交渉を行っているその時、テンセントビデオの総経理孙忠怀はチームを連れて香港に飛んだ(訳注:ここもテンセント本部のある深圳ではなく香港である理由は明確に書かれていない。何らかの事情で例えばトップのポニー・マーが香港にいたのか、テンセントビデオの本部が香港にあるとは考えづらいが)。その場で彼はひとつの誓いを立てた。一定の期限内にテンセントビデオの市場シェアをトップ2にまで押し上げるというのだ。

テンセントにとって動画というのはひとつの出口だった。孙忠怀のチームは一昼夜かけてテンセントの総経理オフィスの上層部とテンセントビデオの未来をどのようにすればいいかということについて討論した。結果テンセントは最終的には売り出すことをとりやめることになる。

优酷にとってもテンセントが買収を望むかどうかはこの時点で重要ではなくなっていた。优酷の眼にはアリババが急接近していたことが見えていた。だから振り向いてこの大物に一言「もしあなたがあと1ドル出してくれれば状況を安定する」と言いさえすればよかったのだ。「テンセントのオファーはアリババのよりも20%も安かった」とこのディールの関係者は言う。

このようにして、爱奇艺、优酷とテンセントビデオはそれぞれ百度とアリババ、テンセントの威光を背負うことになった。

2015年はテンセントが再び息を吹き返し戦争の炎が燃え上がった年だった。テンセントビデオはこの時「优酷の業績を超えて業界の1位になる」という明確な目標を持っていた。「テンセントビデオの初めての責任者、刘春宁の口癖は『コーナーで追い抜く』ことだった。どう抜くか、誰を超えるか、そんなことは討論したこともなかった」と当時の在籍者は言う。

优酷の買収を諦めた後、テンセントビデオはよりフォーカスされた戦術を設定した。①製品を磨き上げること。②多種に渡る版権を獲得し、多くのユーザーの需要に応えること③グループ全体が持つトラフィックのリソースを得ること、だ。

その時副総裁を務めていた黄海が加わったことも一つの大きな作用だった。彼は以前テンセントのモバイル製品、ネットメディア製品と広告プラットフォーム も取り扱っていた。テンセントニュースのモバイル版を立ち上げた経験もあったので、彼が加入することでテンセントビデオは1億DAUを擁するテンセントニュースのサポートを受けることができるようになった。

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幹部の決心がより明確になるにつれて、テンセントビデオは「弱者」というラベルから徐々に抜け出していった。QQと微信という2つのスーパーアプリもまたそのトラフィックの提供元に加わった。そしてテンセントビデオ自身もまた大量の資金を投じて外部トラフィックを買うようになった。

一つの時代背景がテンセントビデオの成長を加速させたといえる。国内のモバイルトラフィックの調達コストは持続的に下がり続け、2015年には40%にまで落ちた。トラフィックはひとつの爆発的な成長を迎える時代になり、ブロードバンドは経済・社会のさまざまな領域への全面的な浸透が見られた。

テンセントビデオのDAUは2014年初頭のようやく1000万に達するくらいところから、たった1年ちょっとの間、2015年の初めには5,000万という業界一位の水準に達した。それに比べて优酷のDAUは同じ1年でたった500万程度増えただけだった。

テンセントはお金を使うことにひるまなかった。以前彼らは1話あたり80万元のコストを投じてドラマ「宫 2」の版権を買った。そしてライバルである优酷の版権責任者が休暇を取っている隙を狙って、「笑傲江湖」の新シリーズの版権の値段を釣りあげて奪い取った。

テンセントはまたHBOの持つ海外版権も引き入れた。スポーツコンテンツにおいては毎年1億ドルを支払って5年間の NBA の権利を獲得した。「これは割にあう価格だった。テンセントは2年目に既に5億元稼いだから」とある有名なビデオプラットフォームの 社員はいう。

それぞれのプラットフォームには自作の「警報機」があった。競合が新しいコンテンツを手に入れたり何かのコンテンツを公開したりといったことが起こるとアラームがすぐに鳴り響いた。「他のプラットフォームから遅れないために、当時は24時間3交代制で監視していた」とテンセントの版権業務に関わったことがある社員は言う。例えば ある衛星テレビ局のライブイベントにおいて、上層部にそれぞれの演目が終わって遅くとも5分以内にそのサイト上で見れるようにしろと要求されたりもした。

2016年、テンセントと优酷が如懿传(訳注:当年2位158.8億回放送されたドラマ)の放送を持ち掛けられた時、当初双方共に冷静で友好的な態度を保っていた。彼らは製作費3億元以上のこの古代劇にそれぞれ6億元のコストを支払い放送の権利を分け合った。

しかしすぐに状況は変化を迎えた。テンセント派「如懿传」がきっと11年に全ネットユーザーが見ていた「甄嬛传」のような作品になるかもしれないと思いなおし13億元という価格を提示し、独占権を奪い去っていった。記者が得ることができた内部データによると、「扶摇」と「如懿传」という二つの有名ドラマによってテンセントビデオは2018年に2,000万人近い会員を獲得することができた。