新勢力と大手の足踏み

2018年になる頃には抖音、快手、ビリビリ動画が急速に存在感を示し始めた。QuestMobile社のデータによると、2018年のショートビデオの総使用時間は前年同期比1.7倍もの成長を示し、いわゆる動画を全面的に追い越して SNS に続く2番目の分野となった。この新勢力たちは大手動画サイトのユーザーを奪い去っただけではなく、さらに彼らの核心に迫っていた。

「動画サイトたちはあれだけの血のにじむような努力を重ねていたが、一夜にしてここまでゲームが変わってしまうとは思っていなかった」易凯资本の创始人兼首席执行官である王冉はいう。

認知を変えることが最も難しい。

2020年初めにずっとテンセントビデオでショート動画プラットフォームに携わってきた経営幹部は「我々のユーザーは 本当に抖音と快手にあるような笑える内容を見たいのだろうか」と言ったことがある。「Thirty (孙忠怀、テンセントビデオの責任者)は『プロダクトの技術に関して私はよくわからない。あなたがたは私の要求を実現すればそれでいい』と言っていた。動画サイトにとってショート動画は生死を分けるようなものではなかった」

优酷にも「来疯」というライブ配信アプリがあった。彼らはかなり早い時期からショート動画プロダクトであるMusical.lyを認識し、大きな機会だと思っていた。当時の責任者は、その時中心だったライブバラエティ番組中継を止めて半年の時間を使ってショート動画サービスを開発した。しかし最後にチームが研究レポートを上層部に提出した後、このプロジェクトは直接俞永福と杨伟东から否決された。彼ら内部の利害関係は既に固着し、打破することが難しい状況になっていた。そしてそれがイノベーションの誕生を阻害していた。

「トラフィックとリソースをどのように分配すればいいのか」「誰が意思決定を行うのか」「誰がリスクを担うのか」「もし新しいことをして現在の KPI を達成できなかった時誰が責任を取るのか」そういったことばかりが問題にされ、結局最後には誰も何かをする勇気をなくしていった。

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ここで話は冒頭に戻る。2020年4月テンセントビデオのチームは Netflix + YouTube と言う 変化の提案をCOO 任宇昕に提出し、しかしすぐに否決された。なぜならばその案がテンセントビデオの背後に潜む技術的な、或いはチーム編成の問題への大作を含む徹底的なものとして仕上がっていなかったからだ。

チームは最終的に折衷案のような方法を取るしかなかった。大局に影響を与えない、ひとつの独立したチームを作ったのだ。編集部の調べによればテンセントビデオの产品技術部総経理、何毅が主導する一つの「特区」のようなものだった。特区内ではアルゴリズム、プロダクト、技術、全ての権限が一人の人物に所属した。彼はその中でテンセントビデオの未来の変化についての可能性について探るというのだ。

爱奇艺の焦り、10年を経て再びはじまる再編

优酷とテンセントビデオの背後には大物がいた。爱奇艺はそんな中で背景とする百度の衰えにより最も焦っていた。

爱奇艺のCEO 龚宇は高額の版権を購入し続けることは難しいということにとっくに気付いていた。だから爱奇艺はこの3社の中で最もイノベーションを追い求めていた。だからこそ爱奇艺は自主製作、有料会員制、その後スマホゲームやアニメといった領域にいち早く取り組んだのだ。

経営陣はゲーム事業を非常に重視しており、一時期は売上比率20-30%を目指すなどと言っていたこともある。しかしその当時の経営陣はゲーム事業立ち上げのために巨額の初期投資が必要であることを理解していなかったと語る従業員もいる。「当時アリババゲームスの総裁史仓健が10億元と3年の時間を使ってゲーム事業を立ち上げると発言した時、みなうらやましがったものさ」と彼は言う。爱奇艺の資金調達力からすれば、こうした非主流の事業にそこまでのんびりとした投資を行う余力はなかったといってよい。しかも爱奇艺の戦略は「ゲームと映画の連動」だった。これは要するにゲームの 開発が映画の製作の進行状況にペースを合わせなければいけないということになる。それは明らかにまともなプロダクト開発のロジックからは離れざるを得なかった。

2017年から爱奇艺、优酷,テンセントビデオには冷たい風が吹いていた。自由を享受していた爱奇艺の製作チームですらも、「内容がいくらよかったとしても事前に協賛が決定していない限りキックオフしてはならぬ」と指示を受けるなど、以前ほどリラックスした環境ではなくなっていた。「その頃、ある工作室は1年まるまる何のプロジェクトも行われていなかった」とあるプロデューサーは語る。

「この動画戦争ではみな広告や有料会員の収入に頼り切っている。そしていずれも大型コンテンツに頼っている。投資を続けることだけが、このストーリーを継続させることができる。」

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2020年6月になってロイター通信がテンセントは爱奇艺の最大株主になる交渉を行っていると報じた時、株価は40%も上昇した。マーケットは楽観的な見方を示し、もしこの交渉が成立をすれば中国最大の二つの動画プラットフォームが業界に対する絶対的コントロール権を得るだろうと考えたのだ。

編集部が知るところによると実はこれより前、アリババも実は交渉のテーブルに臨んでいた。過去一年いくつかのプレイヤー同士の交渉は非常に頻繁になっていった。

2020年、爱奇艺、优酷、テンセント3社の動画戦争はもう10年目に差し掛かっていた。

「一般的にはどのような株主もひとつの業務分野の黒字化に10年、もしくはもっと長い時間を使うことなど許さない。しかしBATという存在があり、この状態は保たれた」と 王冉はいう。

動画プラットフォームには二つの意味がある。ひとつはトラフィックの重要な入り口、ふたつ目はコンテンツエコノミーだ。エンターテイメントのマネタイズには時間がかかる。だから我慢して継続することが必要で、資金の豊富な大手しかやりつづけることはできない。

誰も一回進んだ後に退きたいと思わない。それはエンタメ業界から最も遠いアリババとて例外ではない。

「もしある日突然マネタイズが大爆発して成功の軌道に乗った時、もしそこに少しの陣地も持っていなかったら誰が責任を取るというのだ」と优酷の社員はいう。优酷はいまリバウンド待ちのような状態で、爱奇艺が将来どこかでダメになればすかさず2位になれるということに希望を託している。

优酷がアリババ集団入りし2016年から17年にかけての2年間の統合期間を過ぎても、ユーザー滞在時間は常に下がり続け、DAUは5000万前後を維持していた。「こんなにダメに見えるだろうが、少なくとも死んではおらず、ROIから見れば実はかなり好調だ」。

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テンセントビデオの部門責任者たちは今では2週間あるいは1か月ごとにテンセントCOOであり、プラットフォーム及びコンテンツ事業群(PCG)のトップである任宇昕の査問を受ける必要がある。

テンセントビデオの最新の改革の中には三つの重点がある。まずテンセントビデオはチャンネルごとに分けず、PGC、PUGC、UGCといったコンテンツをパーソナライズしてレコメンドすること。ふたつめがクリエイターアカウントによるエコサイクルを打ち立て、ショートビデオユーザの浸透率を80%以上にすること。そして最後が核心業務である動画分野においてゆっくりとでもスーパーIPを積み重ねることだ。

「任宇昕の現在の重点はテンセントのコンテンツ部門をディズニーのように仕立て上げること、そしてPCG の 中台化(訳注:抽象的な概念で説明が難しいが、前台=フロントエンドと后台=バックエンドをシームレスに統合するという意味)と技術のアップデートが成功することだ」という。

しかし改革は一夜にしては成らない。

チームは以前レポートの際フォロワー1万以上の大型アカウント1000人程度に補助金を出すべきだと主張した。しかし任宇昕はこの定量的指標を見た後すぐにこれを却下した。任は今はまだKPI を追い求めるべきではな、まず基礎的なことをきちんとやることが重要だと考えていた。

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2019年、樊路远もまた优酷で陣容の入れ替えを行っていた。彼はその任に就いた1日目の朝オフィスにつき、そこが空っぽであることに気づき激怒した。次の日彼は全員の出勤時間を9時半に定めた。

P9以上の管理職は次々と自らの部門の成績などについての報告を求められた。2019年6月にこの人材棚卸が済んだ後、少なくない部門が30%ものの人員をカットしていた。そしてその中の多くが30歳以上の P 6、35歳以上の P 7を含んでいた。

「老樊は着任した後优酷の全体がわかるデータ指標へのアクセスレベルをさらに絞った」と関係者は言う。彼は优酷の縮みきったデータがスタッフの指揮へ与える悪影響を心配していた。

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爱奇艺は3社の中でもっともはやく変化に対応したといえる。2020年にショート動画サービス「随刻」を開始、重要戦略に位置付けた。そしてQ2には「迷雾剧场」というサスペンスを主にしたショートドラマと、会員からの売り上げを増やすための「星钻会员」を開始した。

「龚宇(爱奇艺CEO)はいつこのプロジェクトが黒字化するのかと言ったことを聞いていたが、現在はそのようなことを言わなくなった」と関係者は語る。

2020年5月に爱奇艺が20%ものリストラを実施することがメディアによって暴露された。非主流の VR もしくは泡泡(訳注:芸能界の話題に関して投票したり応援したりといったことが行えるSNSのようなもの)のようなサービスへの影響が大きかったと報じられた。しばらくして会社側はこの情報は事実ではないと返答した。しかし上述の関係者によると今年のリストラの度合いは以前に比べてかなり多いということ自体は事実だという。

「もしテンセントビデオが爱奇艺を飲み込むならば業界に根本的な変化をもたらすだろう。テンセントは唯一の突出したトップとなり、 それによってコンテンツ制作コストも急速に下げることができる」と
あるプライベートエクイティの投資家は言う。

しかし競争が合併によって消え去ることなどない。ビリビリ動画は継続的に成長を続けているし、バイトダンスもまた大量の資金を持って戦場に侵入し、戦火はまた再び燃え上がる可能性があるのだ。

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2020年初頭、アリババとビリビリの創始者である陈睿は株式交換についての議論を進めていた。市場はビリビリを中国で最も YouTube に近づいた新進のネットユーザーコミュニティだと認識されている。

ある業界関係者によれば、この議論の中ではビリビリの企業価値は実際の65億ドルを大きく超えて100億ドル程度と見積もられている。1年が経とうとしているがすでにビリビリの時価総額は爱奇艺の166億ドルを抜き220億ドルを突破している(訳注:冒頭では爱奇艺の時価総額を164億と書いているがその違いについては説明されていない)。

「悲観的にいうならば、テンセントビデオと爱奇艺の合併をもってしてもこの動画戦争にはカタがつかないかもしれない」とある投資家はいう。まあ、みんな金がありすぎるのだ。