「以前我々はTV番組をとてもつまらないと思った。しかし今我々自身がそのテレビ局になったと感じてしまっている」と爱奇艺の経験豊かなプロデューサーは言う。

本稿発表時点で、マンゴーTVの市場価値は1,222億人民元(≒185億ドル)、爱奇艺の164億ドルを超えている。中国インターネット三大巨頭が10年の月日をかけ、1,000億元を投じて作った3つの動画サービスは、その実たったひとつの国有テレビ局と同じ程度の規模にすぎない (訳注:マンゴーTVは国営の湖南TVの子会社)。

老いた优酷

优酷土豆 の 大多数の従業員が自社がアリババに買われると知ったのは2015年10月の公式発表、創業者の古永锵がこの中国で初めての動画サイトを運営し始めてすでに10年ほど経っていた。以前は勇猛果敢に戦ったこの将軍はその頃「業務縮小」「コストコントロール」というものを最も重要な位置におくようになった。

競争相手の狂熱的な投資を前にして、优酷は人気の高い IP コンテンツを買い漁ることを止め、より安価な微电影とカルチャー系のライトバラエティを自分で作り始めた。优酷の古くからの幹部は本紙に、 古永锵は何人かの幹部が提案したネットドラマ有料化の提案を却下したと証言する。その理由は「ネットドラマの責任者の権益を侵す」というものだったという。

「昔の优酷のチームの気迫はすごかった。南京や东莞から北京に自分で線を引いて自家製の『クラウド』を作ってブロードバンドの費用を(ライバルだった)土豆网の1/3にしてしまったことすらあった」と前述の幹部は語る。

しかし、現在の経営者は安定を求めている。健康を愛し、毎日正午以降は食事を食べない。風水の研究を始めたから北京の北三环にあった会社の入り口にはいくつかの風水用の大鼎がおかれるようになり、次第に風水の道具がオフィスの中に増えていった。

「後から考えてみればね、経営者はひょっとするとかなり早い段階で会社を売ることを考えていたのではないかと思えるんだ」と古永锵の時代を知る従業員は言う。

百度+爱奇艺のPPS買収とアリババのPPTV買収失敗を契機にした業界再編

時間は2012年まで戻る。优酷と土豆が合併し市場のシェア40%以上を取ったその頃、誰しも今後動画の世界では大きな戦争は起こる可能性はほとんどないと考えていた。しかし今度は百度がちょうどいいタイミングで PPS を買収し、同時にグループ傘下の爱奇艺と合併させた。これが均衡状態を打ち破り、この新しいプラットフォームは迅速に1位に肉薄することになった。

「当初百度の爱奇艺に対する期待は、优酷との差をできるだけ縮めるということだった。しかし今ではこれは既に最低限の要求となっている」と言うのは元爱奇艺の中間管理職。

ある動画業界に投資する投資家が振り返る。「优酷は百度の動画の独占コラボパートナーとなるために300万元の現金と1%の株を差し出した。しかし酷 6 网が 600 万元の現金と 3.4% の株によって百度をさらっていった」。

大物たちの参戦は動画業界をスタートアップたちが作り上げた頃から大きく変え、業界を終わりのない消耗戦に引きずり込んでいった。

大ヒットした「盗墓笔记」の制作陣がもっとも最初にノックしたのは优酷の扉だった。「制作陣は最初に1億元という値段を提示した。しかし200万元が优酷の上限だった」とある优酷の社員は語る。結局爱奇艺が1話あたり500万元の価格でこのドラマの権利を手にした(訳注:ちなみに优酷の1話辺り16万=270万円程度の予算は常識的に制作不能で考えづらいので、「1億元に対して200万元」というのは恐らく故意に違う基準の金額を並べて比較している。またこの作品は中国のドラマとしては短く全12話。従ってこの話が真実だったとしても爱奇艺の買い取り金額は合計6000万、当初の提示価格の6割とそこまで悪いものではない)。

2013年初め、百度と PPS が接触したという情報がメディアを駆け巡った。悪い前例を作ったのは当時業界上位の動画サイトでありながら身売りを考えていたPPTVで、彼らは自らの身売り交渉が順調でないことからイチかバチかでPPSと百度の交渉を撹乱するため、その他のプレイヤーたちの神経を逆撫でするためにこうした行為に及んだ(訳注:念のためだがPPSとPPTVはまったく別の事業者)。

アリババはまさにそんな時期にここに参戦した。取引の内幕に詳しい関係者によれば、アリババは5億ドル近い企業価値見積もりと全株式の方式によってPPTVを買収しようと提案した。 しかしアリババの企業体系の中に完全に組み込まれる形でチームを組み直すことを要求されたPPTVは非常に躊躇した。「プラットフォームだったはずがトラフィックの入り口にしかすぎなくなった」と前述の関係者は言う。

彼らは(家電販売大手の)苏宁の提案を最も気に入っていた。提示価格においてさらに低くたった70%の株式を買うというだけだったが、苏宁側は「あなたがたは苏宁のインターネットの一つの旗印だ。我々はこのビジネスを分からないので、全てあなたがたに任せる」と言った。この約束はPPTVの心を動かし、最終的に苏宁への身売りを決めさせた。

この取引も業界の勢力図を大幅に変えるには至らなかった。しかしこれはアリババの目をこの時すでに引退の意向を示していた(优酷創業者の)古永锵に向けることにはなり、間接的に今日の三つ巴の構図の成立を助けたとはいえるだろう。