中国の政治システムの構造は、世界の超大国と言われるようになった今でもほとんどわかっていないに等しい。外に漏れてくる情報もないではないがそれらはほぼ何らかの意図をもって流されているし、そもそも近年ではそうしたリークめいたものすら、リーク側のリスクが高すぎるとして避けられるようになっているとされる。だから特に最近の内幕モノや読み解きのほとんどは(しばしば「長年の経験」、実際には偏見・先入観・願望に基づく)推察にすぎないことも多い。

そうした神秘的な構造の一角を占め、たまに話題になるのが今日のトピックである「内参(内部参考資料)」だ。簡単に言えば主に新華社など政府系メディアが取材はするが一般向けには報道されない記事で、閲覧権限を持った政府幹部にのみ配布される。今回はだいぶ古いものの、その制度について短めに整理されている記事を翻訳して紹介したい。これは以前もインタビューさせてもらった方可成のメールマガジン「新闻实验室」からの示唆だ(興味があるひとはちゃんとお金を払って読もう!)。

一握りの偉い人しか読めないというその冊子には何が書かれているのか、常々気にはなっていた。しかしこの内参のシステムがどうなっているか、まったく知らなかった…というよりどうせ秘密だから調べても無駄だろう、と思っていたというのが正直なところだ。しかし実は内参の存在自体は秘密でもなんでもなく(記事は機密だがそういったものが存在すること自体は公開情報)、中国国内の論文や記事も多数見ることができる。改めてCNKIをあさってみたところ、その仕組みをテーマにしたそのものずばりなもの(修士論文だが)もあった。無料でDLできるのでお暇な方はどうぞ。余談だが、なんとなく印刷でしか出回らない印象があった内参だが、近年はやっぱり動画などマルチメディア化しているらしい。機会があったら見てみたいものだが。

本文中でも少し触れられているように仕組み上内容の漏洩は罪に当たるもののたまにそれを元にした公開報道もあるくらいの緩さ、そもそもランクの低い内参は公開報道と内容上も大差ないということを考えれば、漏らす方もそこまでの保秘意識を持っていないことは想像できる。このあたりは日本の警察取材(捜査情報をマスコミ記者に伝えることは本来地方公務員法などに抵触するが、実際にはそれも含めた関係づくりゲームの札にされている)と似た雰囲気を感じないでもない。

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次回は上記方氏メルマガでも紹介されていたAPの”In Xi’s China, even internal reports fall prey to censorship(習近平政権の中国では、内部報告すら検閲の餌食になる)”なる英文記事を翻訳紹介したいと思う。タイトルのままだが、本来公開範囲を狭めることで率直で敏感な情報を上層部に伝えるための仕組みとして成立していた内参すらも政治的な忖度ゲームの材料にされている…という内容で興味深い(何度か書いているが、官僚しぐさにおいて中国と日本に大きな違いはない)。だが、そもそも内参が何かを知らないと意味が分からないだろう、ということで本日の記事はその前振りのようなものだ。

なお私は実際に内参を書いた経験があるという記者と話したことがあるが「あれは事実確認が厳格で手間がかかる割にギャラは変わらんからやりたくない」とのことでした(中国メディアの記者の給与は一般的に固定給+出した記事の本数などによる出来高、そこに場合によってはとってきた広告のコミッションが加わって構成され、基本的に固定給の日本メディアと大きく異なる)。

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昨日のウルムチでのマンション火災からの暴動、北京など各地での抗議行動などの動画が我々の眼にも入ってくるようになった。「党の耳と目」である内参を通して、この民の声は天に届いているのだろうか。

※下記の元記事は執筆が05年と古いため、「最近」といって触れられているニュースが古かったり、ネットを通じた報道に希望があるような書かれかたをしている点についてはご愛敬。

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“内参”の秘密を解き明かす

内参揭秘 (2005/6/26 凤凰周刊

中国国内の公式メディア機関には各級のリーダーに国内外の重要ニュースを伝えるという任務がある。これらは内部参考資料略して内参と呼ばれ、多くは国家機密とされるがその中でもいくつかのランクに分けられ、それぞれ対応する官員のみが閲覧を許可され、意思決定の参考とされる。一般人が内参を閲覧する機会はない。もし海外メディア、もしくはその記者にその内容を伝えた場合、秘密漏洩の罪で拘留される可能性がある。下級官僚が上級官僚のみに許可されている内容を取得、閲覧した場合も同様に秘密漏洩に該当する場合がある。

先ごろ、凤凰周刊は現役、もしくは過去に政府系メディアに在籍経験のあるベテランスタッフへのインタビューを通して、そうした秘密のヴェールに覆われた内参の作成過程の解明を試みた。

内参の取捨選択は政治の範疇

現時点で国務院のリーダーに内参を定期的に届けるのは新華社、人民日報、CCTVなどの中央級新聞、テレビ、ラジオ局で、その中でもっとも頻度が高く影響力も大きく、システムとしても整っているのが通信社である新華社だろう。新華社の国内部第二編集室は内参を専門的に扱う部署で、国内各地の記者からの原稿を扱い、参编部は国外駐在記者や外国メディアの報道を国際内参として編集する。

内参執筆経験のあるベテラン記者によれば、国内内参は政治動向、ネガティブな、あるいは議論を呼んだニュース、突発事件、重要なテクノロジー面での発見、基層の民意など敏感な話題が該当する。宣伝部門は普通、こうした内容は公開報道に適さないが中央政府は知るべきだと考える。例えば最近の例を挙げれば、台湾国民党主席連戦が大陸を訪れた際に引き起こされた反応、香港の特別行政長官が変わったことの余波、民間の反日デモの原因と結果、鉱山事故の真相と原因、中央が農業支援のために出した一号文書の執行効果、佘祥林や聂树斌などの冤罪事件の反省と教訓などがそれに該当する。これらのタイプは問題の原因分析と今後の動向の予測を主とする。

国内内参はそのほかにも重大な達成事項や経験なども含まれる。例えば某単位がどのように先進的な党員教育を行っているか、チベット支援を熱心に行った幹部孔繁森がどれだけ庶民を思いやったかなどだ。これらポジティブな報道は中央指導者の指示を得た後、公開報道に回され、公式メディアで大きな扱いを受ける。

国際内参は重要な国際的事件、外交動向、外国政治や中国に対する評論などが含まれる。例えばキルギスタンの反体制派が主権を握った原因と中国への影響といったことだ。

ベテランの内参記者によれば、内参には確固たる選択基準があるわけではなく、その時々の政治の意向によるのだという。政治の意向は中央から文書や指導者の指示、そしてメディア関係者自らの判断という2種類に分けられる。「おおざっぱにいえば、党の名誉を傷つける可能性がある事柄や問題はすべて公開報道には適しないということになる」。

彼によれば新華社や人民日報の記者たちはどのようなニュースが公開でき、あるいは内参になるかよく理解しているという。「内参の基準をはっきり言うことは私にもできないが、1つの出来事に出くわしたときにどのように仕分けるべきなのかはよくわかる」。

指導者のニュースソースの多くは内参

内参報道の真実性、敏感度、深さは大幅に公開報道を上回り、省級以上の幹部の政策決定のよりどころのひとつとなっている。中には公開出版物をほとんど見ずに内参だけを参考にしている官員もいるくらいだ。多くの新華社記者は同僚たちに「中央、各省や市の指導者たちが朝出勤して最初にやるのは新華社の内参をよむことだ」と自慢する。実際に少なからぬ官員がそれらが正しいと述べている。

多くの高級幹部は出勤後、まず秘書が選んだ新華社の内参を読み、重要な問題に関しては内参文書の空白部分に指示を書き込む。その指示が書き込まれた文書のコピーは中央办公厅、国务院办公厅などの機関を通じて関係する省・市などの幹部に届けられる。彼らは自分で問題を直接解決するか、もしくは追加で指示を書き込み、さらにそのコピーが下級官員に転送される。最終的に問題は解決されるか、上級幹部が満足する回答を得ることになる。

このプロセスにおいて、基層官員はしばしば新華社の記者が「天と通じる」技をもっていると誤解して優遇あるいは排除を行おうとする。知り合いの記者が批判的な内参を書こうとしていることを察知すると、彼らは往々にして買収やハラスメント、脅迫といった行為を行う。山西省で頻繁に鉱山事故が起こっていた際、少なからぬの新華社記者が当地の県委に買収された(これら数名の記者は後にクビになった)こともある。しかし多くの記者は地方の黒い勢力の脅迫、腐敗官僚の難癖や妨害に負けず、民のための真実の報道を堅持している。

複数の新華社記者によれば、新華社は毎日複数種類の内参報道を出している。最高級の「国内动态清样附页」は中央政治局常委または委员のみに閲覧され、例えばチベット・ラサ騒乱や長江の洪水といった重大かつ緊急の事態に関するものだ。次に重要なのは「国内动态清样」と国際の「参考清样」で、省級幹部以上の指導者が閲覧可能で、重要動態、敏感問題と重要な建議が主な内容だ。これら内参は個別に印刷され、16开(訳注:中国の政府機関で使われる紙のサイズでA4より少し小ぶり)、フォントは豆粒大で、短ければ1ページ、長いものだと3-4ページになる。

そのほかに新華社は内参刊行物も発行している。地市級および司局級向けの「内部参考」は週二回、40-50ページの構成で、内容は动态清样より相当程度敏感度が落ちる。

最も等級が低いのが内参选编で、内部参考や动态清样から敏感ではない部分を抜き出したもので週1回発行、30-40ページ構成で、县团级、あるいは乡や镇の長をはじめとした科級幹部や解放軍の营级干部に配布される。内参选编の内容は深くなく、公開報道と大差ない。

定価が高く発行量が多い内部参考と内参选编は各党機構や部門に定期購読され、新華社にとって重要な収入源でもある。新華社が省級幹部の内参のために作った分社は毎年1千万元近い利益を新華社に上納している。

公式メディアの耳と目として

党の各級に所属するメディアは党の喉と舌と位置付けられている。喉・舌の作用は党と政府の発する声を宣伝することだ。対する耳と目の作用とは、党と政府に代わって情報を集めることだ。公開報道は喉舌を、内参報道は耳目の機能を果たしているということが出来るだろう。内参は最も素早く中央指導層に届きその指示を受けることが出来るという意味で、現体制下における問題解決のもっとも有効なルートのひとつだということもできる。

ある退職した新華社の記者は内参を通じて解決された問題は公開報道に基づくものよりはるかに多いという。彼は「これが政府系メディアが最も誇りに思っている点だ。この内参があるからこそ、多くのメディアは公開報道が平凡でも気にしない」と語る。

例えば、安徽省の農村における税制改革のトライアルと後の全国での農業税の取り消しは、多くの報道によれば農村で起きた強引で暴力的な徴税によって死者がでたという内参報道と関係があるという。しかし内参とそれに対する指導者の指示は公開されることがないため、たとえ問題が解決されたとしても、孙志刚の事件のように波及効果をもたらすことはない。

またこの前新華社の記者は、新華社は地方の党委員会や政府を監督する役割も担っているという。最近の地方公務員は成績のために地方に肩入れし、中央に対して実情を隠すことが多い。耳障りのいいことだけを報告して悪いニュースを報告しないだけでなく、捏造なども行う。政治学者である俞可平によれば、こうした事象の原因は中国の制度設計が、上から下への指示と下から上への結果の伝達とフィードバックを同じルートで行ってはならないという政治学の公理に背いていることが原因だという。

新華社は中央直属の組織であり地方党委や政府との関係には若干の距離がある。記者は全国にあまねく配置されており、中国においてほぼ唯一の地方政府のコントロールから逃れて民意を吸い上げ、システマティックに、客観的かつ中立に中央に真相を伝えることが出来る。従って新華社内参は頻繁に地方の党委、政府の報告と衝突することになる。そうした事から、地方政府の中には新華社の地方支局に資金や場所を提供して感情面のつながりを深めようと試みるものもある。そしてわずかながら、記者の中には内参を取引材料に使い、トップや地方政府に代わって裁判を行い、プロジェクトを取り、金銭、広告やスポンサーさせることでビジネスを行う連中も存在する。こうして内参の耳と目としての機能は失われてしまう。

ネットの挑戦を受ける内参の秘密

内参は国家機密に属するので、発出したのちは必ず保密法の規定に則って保存する必要があり、関係する幹部の許可を得られない限り公開は許されない。記者本人が自分の原稿を閲覧するのにさえ上層の許可が必要で、コピーも許可されない。

以前政府系メディアに在籍していたベテラン記者は「記者は自らが取材し執筆した内参の原稿についても採用されたあとは公開する権利を失い、それでも公開するなら秘密漏洩ということになる。口頭であったとしても秘密漏洩罪の構成要件となるこうしたリスクは記者にとって軽々しく内参の内容について公開することを思いとどまらせることになる。だからこそ、内参は情報伝達チャネルとして有効で、同時にニュースをコントロールするためのチャネルとして有効でもある。公開できるニュースを機密にすることで自らのシステムに組み込み、世論をコントロールすることができるようになる」と述べる。

しかし情報収集と伝播拡散に技術的な変化が生まれたせいで、内参の秘密保持は次第に難しくなってきている。昔手書きで原稿を書いていた頃は記者は書いた元原稿を提出しなければなかったが、現在はパソコンを使うのでそれらを手元に残すことが出来てしまう。結果として多くの記者がその残されたドラフトを少しいじって公開し、原稿料を二重取りしようとする。このような状況の下、記者は政治的なリスクがなきよう、コントロールが必要になる。

上述のベテラン記者は、「実際には内参がこっそり公開報道に使われたところで政府部門がわざわざ調査などしないことも多いが、これはそうした行為にたいした影響力がないからにすぎない。中国の法律に従えば、どのような人であっても、秘密、機密、絶密などと書かれている見るべきでないものを見てしまった場合、厳格にいえば罪に問われる可能性がある」という。

近年、鉱山事故など多くの事件をネットがいち早く報じ、政府系メディアはそれを封鎖することが難しくなって、内参の神秘的な色合いも失われている。しかしもし記者がネット報道を元に内参を発行し、その内参をこっそり別に公開すれば、やはり罪に問われることになるだろう。

現体制は内参システムを取りやめることを受け入れられない

別の政府系メディアに在籍していたベテラン記者は、現状の内参は、問題が最終的に解決される場所まで送られるプロセスはすべて秘密だという。もし結果が公開されれば同様の問題が解決するのであれば、新しい政策の制定などに繋がることさえあるだろう。しかしもし今のように処理結果が解決されなければ単にひとつの問題を解決するだけで、社会の中で世論の圧力を形成することにはつながらない。処理結果が公開されないのは、ひょっとすると上層部の指示でも問題が解決されないか、もしくは指示自体されていないからであるかもしれない。そして実際の所、後者の状況のほうがより多いのだろう。その記者は「内参は実際に起こった問題を解決する役には立つ。しかし世論による監督能力という機能はない。もしそれをすすめたければ内参という制度を取り消して、すべてを日の光の下に曝し、公開の場の議論と法律を用いて、扱いが難しい問題を解決する必要がある。すべてを上層部や清廉潔白な官僚意識にゆだね判断させるのではなく」とも述べている。

中国青年政治学院教授の展江は「内参は少数の特権階級に情報を伝えるための存在だ。これは古代の邸报(訳注:皇帝などへの上奏文)」とおなじようなもので、現代社会における正規のニュースとは呼べない。階層制度に基づいた政党組織内のコミュニケーションの媒介としての内参は、農業社会か戦争期にのみ適していると言える」と述べる。

中国人民大学新闻学院教授の喻国明は、内参は将来的に公開されるべきだと考えている。しかしもしこのような情報を一般向けのメディアに制限なしで載せた場合、社会において大きな波紋をよび、利害関係に大きな変化をもたらす可能性がある。この結果を社会が受け入れることが出来るかは、それぞれがよく考える必要がある。その結果どちらを選ぶかは利益がより大きく、被害がより軽い方、ということになるだろうと述べている。そしてこっそり付け加えるのだ。「いまの政治体制下で、内参を取りやめる選択は受け入れがたいだろう」と。