以前党報と呼ばれる新聞の収入の分析を行った記事を翻訳した(党報は如何にして市場化の道を歩むのか(翻訳))。その最後では中国の伝統国営媒体が「不動産屋」になっているという話題に触れられている。

日本の伝統メディアも金額が大きくなるので注目されがちな不動産以外にも実は様々な「その他の収入」がある。例えば新聞社やテレビ局はそれぞれ文化事業として美術展やコンサートなどを主催している事が代表的だろう。また、夏の甲子園高校野球も朝日新聞社が「主催」だし、名前の通りNHKや読売新聞は自社でオーケストラを所有している。普段気にもしないが、メディア企業の周囲にはよく考えると非常に規模が大きなビジネスが回っているのだ。

メディアによる文化事業の過去の面白い例を振り返ると、例えば80年前、戦前に朝日新聞社がイギリス国王ジョージ6世の戴冠を記念するという事で陸軍から試作機を借り出し、東京ロンドン間の世界最速長距離飛行記録を樹立したりといった大分大掛かりなことも行われたようだ(ちなみにこの時使われた飛行機は「神風」という名前だが、後の特攻隊とは全く関係ない)。

最近で面白そうな企画といえば(上記から比べれば小粒だが)、年初から読売新聞社が20世紀少年などで有名な漫画家、浦沢直樹の画展をロサンゼルス、ロンドン、サンパウロで行っていることだろうか。こうした本業とはまったく関係ないような事業もまた、「社会の公器」と一応は呼ばれるメディア企業のひとつの顔でもある。

・・・・

というわけで今日紹介するのは、中国の新聞社やテレビ局の「副業」事情を紹介した記事だ。情報に少し古い部分もあるようだが、印刷や物流などは本業と関係が深いからわかるとして、ゲームの開発まで行っている会社があるのはなかなか面白いと思う。 国営企業というと何となくまったく収入の心配もなく、安穏と生活していればいいのではと思いがちだが、おそらく近年はそんな簡単なものでもないのだろう。

また、文中に出てくる新聞配達の共同インフラ「 中国报业电商物流联盟」は今回はじめてその存在を知った。17年9月の設立時には91社もの新聞社が集まったというから、それなりの規模だ(ただし、基本的には地方別に発行が許可される新聞の物流を統一する事が配達の効率化にどこまでインパクトするかはよくわからない)。

日本の新聞の購読率の高さは世界的に見ても突出し、その配達のネットワークは押し紙など多くの問題点を抱えながらも、部数減に歯止めをかけ日本の新聞社の収益を支えている面もある。同時にそれは大きな固定コストでもあり、新聞がドラスティックに形を変えることができない原因のひとつにもなっている。何でも旧来のシステムを壊せば物事が解決するとは思わないが、こうした実例も将来の日本の新聞のあり方を模索するにあたって何かしらの示唆を持つかもしれないと思う。

・・・・

棚卸!伝統メディアの 「非メディア事業」10番勝負

出典:盘点!十家传统媒体“非媒经营”大比拼(传媒内参-传媒独家 4/22)

全国の多くの紙媒体、テレビ局、ラジオ局はいずれも生き残りの道を自発的に探している。単一業態を打破し文化産業方面のより広い領域への拡大を表す 「大电视」「大媒体」という概念が次々に打ち出されており、これらは伝統メディアの発展にとって試す価値のあるものだと言える。

新聞社

报浙江日报报业集团:印刷

浙江日报报业集团は早い時期に「新聞をコアに多元的発展を遂げる」という体制を整え、 浙江日报印务中心物业管理有限公司 を設立した。この会社は主に印刷に関する技術コンサルティング、印刷機のメンテナンスなどを業務範囲としている。

印刷は長きにわたって新聞の印刷を手掛けてきた立場からしてみれば手慣れたもので、実際多くの新聞社が自社の印刷工場を保有している。しかし実のところ対外的なサービスの提供を行う所は多くなく、あまり市場化されているとはいえない。「我が家」の扉を開けて外に印刷サービスを提供するのもいいアイディアで、この会社は印刷以外にも関係するメンテナンスや技術コンサルティングなども経営範囲に入れることでキャッシュポイントの拡大に成功している。

广州日报报业集团:ゲーム

广州日报报业 は、ここ2年のゲーム方面での成長が著しい。 万将科技 というゲーム会社に投資を行い、増資の結果その額は480万元に達している。この会社のゲームは広州日報の上場会社である「粤传媒」のゲームプラットフォーム上で公開されている。

《暗黑屠龙》 ゲーム画面(日訳にあたって追加)

広州日報はすでに公開されている 《武易》、《暗黑屠龙》、《奇迹来了》それに《侠武英雄传》 などのゲームで味をしめ、ゲームパブリッシュの代理と商品開発の実力を向上させ続けている。

重庆日报报业集团:物流

2017年、 中国报业电商物流联盟 (訳:新聞業EC物流連盟)が 青海省西宁市 で成立し、多くの新聞社グループが従来自社で構築していた新聞配送ネットワークを委託した。多くは街中様々な場所に散在する 报刊亭(訳注:新聞・雑誌スタンド)で、商業物流に参入し、新聞発行と対外物流サービスの共有をはかったものだ。

重慶日報社の物流センターは、現在的な物流配送企業で、ECの重慶地域のローカル地域への配送で、 これによって重庆日报は报刊亭の配置と配達員組織の最適化を実現した。

河南日报报业集团:不動産

河南日报报业集团の不動産会社化の歴史は長く、しかもここ二年投資額は増え、経営の実力も向上している。18年、 河南日报报业 は総投資20億元以上に上る开封という都市の総合開発プロジェクトを発表した。

大河传媒置业有限公司、河南大河意象文化发展有限公司、河南瑞奇房地产有限公司などへの委託によって、この 开封でのプロジェクトはホテル、マンション、オフィスビル、商業住居などのタイプにまたがり、またホテル開発も早い時期から行っており、サービスも不断の改善を続けている(訳注: 河南日报报业集团 は他の記事によれば収入の69%が新聞以外、本業が弱いのかというとそうでもなく日刊の党報としても全国ランキング4位につけるなど、もっと調べると面白そうではある)。

新华社《财经国家周刊》:コンサルティング

新華社グループの 《财经国家周刊》 は自らの「シンクタンク」としてのブランドを築き上げ、自社の持つ記者の取材チームと深い報道の実力によってレポートを執筆し、会員制で販売する事で利益を得ている。これは一種のコンサルティング+付加価値サービス形式と言える。

财经周刊 の会員制+レポート販売の方式は専門的なメディアが試行しており、個別商業化属性が比較的強い市場化媒体はレポート+ソリューション提供といった方法でクライアントのためのカスタマイズサービスを提供している。

广电(放送局)

江苏广电:文創

※「文創」とは:明確な定義はないが、伝統的な文化を発展させた創作を指すことが多い

江苏广电は最も早く文創の分野に進出した伝統メディアのひとつで、 荔枝文创を設立した。その範囲は芸術文化関係の商品制作、商業文化総合体、文化産業園(訳注:ふたつとも主に商業施設にカルチャー要素が加わったようなものを指す)などに及び、文化関係の消費、無形文化財、文化的なランドマークを打ち立てるなどで企業家やクリエイターなどの人材を 江苏 に引き付けることに成功した。

荔枝文创の大本営は 江苏广电ビルにあり、文創文化をオープンな場所で体験できるようになっている。また 荔枝文创は自社のブランドを固め業務範囲を広げつつあり、最近では、仙林荔枝文创产业园区を新しく開発した。

湖南广电:EC

昨年から今年にかけて、「マンゴーEC」という言葉が囁かれるようになった(訳注:マンゴーは湖南テレビの愛称で、元々は湖南テレビのアイコンがマンゴーの形に似ているという所から来ている)。湖南テレビと淘宝がECの方面で協業するというニュースは業界内で注目を集めた。とある消息筋によると湖南テレビのグループ企業である快乐购が淘宝网と共同で「 “快乐生活跨媒体(网络)有限公司”(省略して“快乐生活”) 」という名の会社を設立するとのこと。

快乐购と淘宝はオンラインのECとテレビショッピングという異なるプラットフォームをまたいで業務を行い、 快乐购は倉庫物流とコールセンター部分を担当する。同時に、湖南テレビのドラマや番組などのリソースをECプラットフォームで利用することができる(訳注:ただしここで取り上げられているのは09年の話題で些か古い。現在どのような協力関係にあるかは不明)。

东方广播:イベント

东方广播は非常に早い時期から东方风云榜という音楽イベントを実施してきた(訳注:この 东方风云榜は93年に開始された中国で最も歴史と権威がある音楽のランキングで、18年には倉木麻衣、19年には大黒摩季も招聘されている)。これは 动感101という番組で曲や歌手のランキングを作り発表するというものだ。

2019年の 东方风云榜 のポスター(日訳にあたって追加)

放送はその専門的な特色を通して発展の機会をうかがってきた。例えば音楽であれば音楽祭、交通系の番組であれば自動車企業とタイアップしての屋外イベントなど。东方广播もこのような考え方に基づいてイベントを展開している。

广西广电:教育・トレーニング

地上波チャンネルの広告の下落は常に業界で憂慮されるトピックで、そうした事から地上波局は常に「メディア以外」の収益の道について考えてきた(訳注:中国における大多数のTVは衛星放送)。TV局によるアート系の教室開催は既に全国的によく見られる現象で、そこには確実性とまだ大きな市場の潜在力が眠っている。

广西テレビの公共チャンネルは广西テレビのアナウンサーの力を使って、 “小主播夏令营”和“小主播课堂” という企画を実施した。これは放送局の仕事に興味を持った子供に「こどもアナウンサー」のトレーニングをするもので、多くの家長たちに人気になり、収入にも貢献した。

杭州广电:演劇

多くの放送局はグループ内に演劇団体を持っているが、規模の大小は所有している文化会館などのリソースに関係があり、収益能力はそのパフォーマンス・プロジェクトの品質と関係がある。

杭州TVのグループが持つ演劇部門は非常に豊富で、 包括杭州歌剧舞剧院、杭州越剧院、杭州杂技总团、杭州滑稽艺术剧院、杭州话剧团、杭州爱乐乐团、杭州魔术团、杭剧团,以及杭州大剧院、红星剧院、文化中心、西泠书画院等の文化関係の組織がある。杭州は旅行都市なので比較的こうしたカルチャーへのニーズが大きく、こうした団体のチケット売上も比較的高い。