中国発の研究でTwitterにおける中国関係ジャーナリストの影響力を分析するという興味深いものがあったので紹介したい。分析手法などにも触れているため耳慣れない専門用語が出てくることは事実だが(できるだけ読者の負荷を減らす小技は使っているが、訳文として読みにくかったらごめんなさい)、研究結果自体が興味深いことに加え、多少メタ的でもあるが、「中国は西側SNSをどう見ているか」というバイアスが見える点も興味深い。

たとえば途中で「メディアには必ずイデオロギーによるバイアスが掛かっている」と言ったと引用されたニール・ポストマンは、『愉しみながら死んでいく』などの著者でありマスメディアやデジタル的なもの自体にかなり強い不信感を抱いていた人物である。出典を確認まではしていないが、中国のような専制国家における「報道機関」が国家の意志の代弁者でしかないことと個別の報道機関が一貫したポリシーを持っていることは混同されるべきではなく、おそらくポストマンもそうした文脈で書いているわけではない。典型的なレトリックであることには注意したい。

またこれを言っては身もふたもないかもしれないが、分析前のスクリーニングにおいて対象を英語に絞っており、英米のジャーナリストの影響力が強いという結果はこの影響を大きくうけていることにも注意が必要だろう。例えばTwitter上では日本語の比率が人口比に対してかなり高いことはよく知られ特派員など中国をカバーする人員も実は多いが、本研究において日本人ジャーナリストはどうやらひとりだけしか対象になっていないようだ。しかもロシアやインド、スペインのジャーナリストのクラスタに入れられており、ちょっと具体名が思いつかない(文中表3の6組)。英語に絞り込んだ研究で「欧米英語メディアが情報流通を支配している」と主張することはある種のトートロジーを疑わせる。

つぎに、そもそもパブリッシング機能と切り離された「記者アカウント」に対象を絞ることが本当に必要なのか、検証の必要があるのではないだろうか。これには2つの意味があり、ひとつは報道機関自体のアカウントを含む必要がないのか(恐らくノードの中心性としては最も強いはずだ。ただし個別の反応に対して返すことはしない場合が多いのでインタラクションは少ないはず)、そしてもうひとつは研究者など専門家を含めるべきかどうか、ということだ。特に中国の場合政治や外交関係のニュースには背景・文脈の深い理解が欠かせず、研究者の見立てはそれなり以上の価値・影響力があるはずだ(ここでは水彩画大先生のような在野のキチ◯イは含まない)。ひとつの発表物として仕上げるために無限に範囲を広げられないという事情もわかるが、そこをうまく切り分け(たことにす)る処置はあってもよかったかもしれない。

そして中国における西側SNS分析にありがちだが、それらを不公平で「敵に支配された」プラットフォームとして描くにも関わらず、自分たちが影響力を行使するために利用し、規制された・ハンディを負わされていると不公平を訴える奇妙さはこの論文にも現れている。身も蓋もない表現をすれば。それは結局のところ「敵」の温情にすがっているだけなのだが、なぜ自分たちは当然公平に扱ってもらえる権利があると思うのだろう?確かにそれは民主主義の原則には必ずしも沿わないが、そもそもその成員でない(しかもそのシステムへの挑戦者である)人々までもが自明に、公平に扱われるべきとは誰も思わないはずだ。

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ちなみに文中ちらりと名前が出てくる张志安は、以前別の記事で紹介した調査報道記者の減少に関する実態調査を行っている中山大学の先生を指すと思われる。

なお本投稿のおまけとして、本文中で紹介されている中国関連記者のTwitterリストを用意した(残念ながらワシントン・ポストのLily KuoBloombergのTom Hankcockは鍵垢になっており追加できていない)。普段日本語や中国語だけを参照していると英語のコミュニティ内で何が注目されているかとはズレがち、という意味ではこういうものもちょくちょく目配せする必要があるのかもしれない(誰が?)。調査の正確な実施日は不明とはいえ元の記事はそう古いものではないが、このリストの中でもぽつぽつとすでに「元中国」が増えているのは少し気になる。先般の記者ビザに関する米中のやりあいなどで多くの外国人記者が中国を離れているが、その一環と言えるかもしれない(当然、通常の人事異動の範疇であるものも含まれよう)。また単に自分の観測範囲の偏りによるものと思うが、絶対入るだろと思っていた記者(たとえばMuyi XiaoとかEmily Fengあたり)が入っていなかったりもしたのが意外だった。

※TwitterはXと名称を変えているが、わかりにくいのでTwitterと表記している。

※文中、”社交网络媒体”は具体的なプラットフォームとしてのSNS、”社交网络”はより概念的な人間関係を指す”ソーシャルネットワーク”と訳しており、どちらともつかない場合は文脈からの推測で訳し分けている。もうすこしこなれた訳語があるとよいのだが。

SNS時代における中国専門記者のネットワーク構造、影響力と効能に関する研究

社交媒体时代全球涉华记者社交网络结构、影响力及功能研究(2023-08-31, 新闻记者)

1.前言

デジタルメディア技術の急速な発展に伴い、ニュース制作はデジタル時代に突入した。 デジタル・ジャーナリズムは、研究の枠組みや研究パラダイムの点で古典的なジャーナリズムとは大きく異なり、価値カーネル、中核概念、研究実践、批判理論の各レイヤーにおいて全く新しい議論を繰り広げ(長江、2021)、ニュースの生産と実践に新たな指導的意義を持った。 ソーシャルメディア(SNS)はデジタルメディア技術の発展による重要な産物であり、デジタルジャーナリズムの重要な研究対象の一つでもあり、環境としてのニュースを「再発明」した。ニュースはそれ以来、人と人とをつなぐ手段となった(常江,何忆仁,2021)。

外国人中国関連記者は、外国メディアで中国に関する報道を行うジャーナリストであり、中国の国際コミュニケーションにおける重要な力であり、中国の国際イメージを形成する重要な存在であり、中国を世界に説明し、中国の国際交流を促進するという重要な任務を推進している。
デジタルメディア技術の急速な発展を背景に、SNSは中国に関わる世界中のジャーナリストにとって、ニュース制作と社会関係の重要領域となっている。世界各地で中国問題の報道に携わる外国人ジャーナリストはSNSのプラットフォームで互いに連携し、ネットワークを構築し、情報を入手し、関連問題について議論している。 彼らは同時にコミュニケーションに長け、実社会における社会資本と影響力も持つため、SNSにおける中国関連世論のオピニオンリーダーとなり、その方向性に影響を与える可能性が高い。

そのため、新メディア時代におけるグローバルな中国関連ジャーナリストのソーシャルネットワークの研究は、重要な理論的・実践的課題となっている。 ネットワークの構造と影響力、彼らのニュース制作に果たす役割と機能を明らかにすることは、中国の国際コミュニケーション能力の構築とSNSにおける対中世論誘導能力を高める上で大きな価値がある。

2.文献レビュー

(1)SNS時代におけるニュース制作

デジタルメディア技術の急速な発展に伴い、ウェブサイト、ブログ、SNSは、デジタルニュース時代における最も主要なコンテンツ生産方式となった(常江, 2015)。SNSはパーソナライゼーション、平等性、敷居の低さ、即時性、共有性といった利点があるため、世界的な大事件に関する世論を増幅させる上で重要な役割を果たしている。世界中の主流メディアはSNS上のポジショニングを奪い合い、ジャーナリストにアカウントを開設させ、積極的にソーシャルネットワークを構築するよう奨励している。 BBCやニューヨーク・タイムズといった世界的に権威のあるメディアも、ジャーナリストに対してSNS利用に関するガイドラインを発表している(Schumacher-Matos, 2009; 史安斌、朱泓宇、 2022)。 SNSは世界のメディア・ジャーナリストにとって、ニュース制作や情報拡散のための重要なフィールドとなっている。

SNS全盛という時代背景の下で、メディアとジャーナリストのニュース制作と普及もまた、マスメディア時代のそれとは全く異なる特徴を持っている。SNSは伝統的なジャーナリズムに「全方位、全過程、全シーン」で攻め込み、ニュース制作の根本的な論理を完全に再構築した(史安彬、朱宏宇、2022)。 SNSはニュース制作におけるバリューチェーンの各部分からそのメカニズムに影響を与え、結果として「ソーシャル化」してきている(張江、2017)。

ニュース制作のソーシャル化はメディアそのものと実務者の役割を変えた。SNSがニュース制作における必須のプロセスかつ最も主要な情報の仲介者となったことで、伝統的なニュースの価値、倫理基準といったものは新たな試練にさらされ、旧来彼らが持っていた特権にも影響を与えた。ソーシャル要素はニュース制作の一部となり、”ネットワーク化 “されていないニュースにはもはや価値はなく、ニュースは議論とシェアによってのみ生み出されるようになった。

ソーシャルはもはやコンテンツそのものの一部となり、よりソーシャル化されてはじめて、広く拡散されることが可能になる(李鹏宇 2020)。 したがって、ニュース理論はパラダイムシフトによる再構築を実現し、ニュース制作の過程を研究する上で、「情報流通」を中心とした新たなモデル体系を確立すべきである(常江, 2017)

(2)中国専門記者の研究

外国特派員とは、「所属するメディアと同じ国を拠点としないジャーナリスト」を指す(Hahn & Lönnendonker, 2009)。 外国メディアで働き中国国内から中国関連の話題を報道するジャーナリストは、在中国外国特派員、在中国外国特派員とも呼ばれる。「在中国外国特派員」という概念は、記者の出身国の地理的な位置を強調するものであり、「中国関連外国特派員」は、記者の報道の中国的なテーマや内容を強調するものである。

「中華人民共和国国務院令第537号中华人民共和国外国常驻新闻机构和外国记者采访条例(中華人民共和国駐在外国通信社および外国特派員に関する規定)」によれば、外国特派員には、駐在外国特派員と外国短期特派員が含まれる。 駐在外国特派員とは外国の報道機関から派遣され、中国に6カ月以上滞在し報道に従事する専門記者をいい、短期外国特派員とは、中国に6カ月以内の期間滞在して報道に従事する専門記者をいう(中華人民共和国国務院令、2008年)。

これまで中国における外国人記者に関する研究は、主に中国報道の概念、内容、形態、中国政府の外国人記者管理制度、中国における外国人記者の職業意識と影響要因に焦点が当てられてきた。 张志安らは、中国人記者の報道の枠組みや概念の内的動機に注目し(瞿旭晟,张志安, 2011)、中国専門記者の報道の分析を「イデオロギー決定論」に還元すべきではなく、むしろ個々の記者の認識、メディア組織の特徴、中国の報道の全体的な環境などの要因を考慮に入れるべきだと指摘している(阴良,张志安,2010)。一方、钱进は綿密なインタビューを通じて、中国を拠点とするジャーナリストのトランスナショナルな実践に時間と空間が与える影響を検証し、また、「コミュニティ」という概念の導入を通じて、中国を拠点とするジャーナリストのアイデンティティが、個人として、国境を越えた流浪者として、あるいは職業コミュニティの成員として、それぞれとしてどのように変わっていくかを探求した(钱进,2015)。 また赵怡然は地点、設備、範囲という観点から我が国の在中国特派員に対する政策の変化を論じている(赵怡然,2018)。

インターネット技術の発展により伝統的な海外特派員は危機に直面している。市民ジャーナリストの出現と伝統メディアの予算削減により、 ますます多くのジャーナリストが、オンラインで報道を行えるようになり、「現場」は海外報道の必須条件ではなくなっている。「バーチャル海外特派員」(VFC)という概念は、「取材地と地理的に異なる場所にいる」ジャーナリストを指す言葉として登場した(Kopper & Seiler, 2006)。オリヴァーらは、ヴァーチャルな海外特派員は多くの場合、従来の海外特派員に完全に取って代わることはできず、とくに外交問題の文脈化という点では、特派員は依然としてかけがえのない存在であり続けるとしている。VFCと従来の外国特派員は互いに補完しあい、仕事の配分とワークフローを最適化することができる。自国内の報道部門は最新のニュース収集に集中し、一方、海外に拠点を置く特派員は、地域的な知識や現地での調査ネットワークに基づく文脈に即した情報で報道を強化することができる。このような体制によって、メディアはその高い報道クオリティを売りにしつづけることができる(Oliver et al., 2018)。

従来の外国特派員、在中外国人特派員、中国関連外国人特派員という概念は、伝統的メディア時代には、その特派員が所属するメディア組織の国(中国に属しているかどうか)、その特派員が活動する地理的空間(中国にいるかどうか)、その特派員の報道内容(中国問題を報道しているかどうか)という軸で区別されていた。ニューメディア時代には、SNSによって伝統メディア時代のジャーナリストの物理的な時間と空間の垣根は壊される。本稿では中国関連のバーチャル外国特派員、すなわちオンラインプラットフォームを通じて中国問題を報道する外国人ジャーナリストという概念を採用する。 上記の概念の違いについては表1を参照されたい。

SNS時代におけるジャーナリストのニュース制作の根底にある論理は、大きな変化を遂げている。 中国に関わる外国人特派員の社交ネットワークや、そのニュース制作におけるSNSの機能と役割に関する研究は、それらが新しい時代における中国の国際コミュニケーションと国際交流の重要な要素であるにも関わらず、不足している。 このような観点から、本稿では、新時代における中国専門記者のグローバルな社交ネットワークの構造、影響力、機能についての研究を試みるものであり、主な研究課題は以下の3つである。

  1. 中国特派員は西側SNS上で一定のネットワーク密度を備えたコミュニティを持つのか。あるとすれば、そのネットワークの特徴は何か。 そしてネットワーク全体への影響力はどの程度か。
  2. コミュニティ全体における外国特派員の構造、影響力に影響を与える要因は何か。
  3. 外国特派員の中国関連ニュース制作において、社交ネットワークが果たす具体的な役割と機能は何か。

3.リサーチデザイン

本稿では定量(社会ネットワーク分析)と定性(インタビュー)を組み合わせた調査方法を用いて、世界の中国関連ジャーナリストのTwitterにおけるネットワークの構造と影響力、およびニュース制作に与える影響と影響力を探っている。

(I)社会ネットワーク分析(SNA)

社会ネットワーク分析(Social Network Analysis, SNA)は、社会ネットワークにおけるアクター間の関係を分析する手法であり、社会ネットワークを複数のノード(社会アクター)とノード間の相互接続(関係)から構成する。

SNAは社会ネットワークにおける関係の構造とその特性を分析する手法であり、アクター間の相互作用をモデル化することによってグループ同士の関係構造を記述し、ネットワークがグループにもたらす機能、またはグループ内の個人への影響を分析する。SNAでは突出した役割を持つ、あるいは中心的な位置を占めるネットワーク・ノードとその相互関係を発見することに焦点を当てる(相德宝, 2018)。 本稿ではSNAを用いて、主に国際的なSNSであるTwitter上で中国関連ジャーナリストが形成するグローバルなネットワーク構造と影響力を分析する。

(1)研究対象SNSの選定:本研究に用いるSNSプラットフォームとしてTwitterを選定した。 他のSNSと比較して、Twitterは最も「ニュース性」の高いSNSであり、公的なコミュニケーションに適している。 ピュー・センターが2021年に発表した報告書によると、アメリカ人の半数近く(48%)がニュースを得るためにSNSを「よく」または「ときどき」利用している。なかでもTwitterはアメリカ人口の約26%が利用しており、その半数以上がTwitterをニュースや情報の重要なプラットフォームとみなしている。

(2)対象とする特派員の選択:前述の定義に基づき、本稿では中国問題に関するバーチャル外国特派員、すなわちバーチャル・オンライン・プラットフォームを通じて中国問題を報道する外国人記者の概念を採用する。 これは伝統的な中国特派員、中国に関する外国特派員、中国に関するバーチャル外国特派員の3つのタイプをカバーするものである。 同時に、地理的な制約を超えるSNSの特性から、中国メディアに在籍し海外報道に携わる記者も研究対象に含める。なぜなら、彼らは国際的なソーシャルメディアでも活発であり、中国の声を広めるという重要な任務を担っているからである。彼らは中国に関わる外国人記者とネットワーク関係を形成しており、SNS時代のグローバルな中国に関わる記者のニュース制作を理解する上で非常に重要である。

(3)Twitter上のジャーナリストアカウントのスクリーニング:概念の意味合いには微妙な違いがあるが、いずれも「ジャーナリスト」と「中国」というキーワードを共有している。 そこで本稿では、まず記者(“Journalist”、“Correspondent”または“Reporter”)と中国(“China”または“Chinese”)の2つをキーワードとして検索し、研究の要件を満たす人物を事前に選別した。 つぎに選別結果をアカウントの個人情報、ツイート内容、更新頻度によって手作業でスクリーニングし、無効なアカウントや停止中のアカウントを除外した。さらにサンプル数を拡大するため、本研究ではTwitterのアルゴリズムによるレコメンデーションを利用し、スクリーニングされたアカウントの「フォロワー」に着目してさらにサンプル数を拡大し、最終的に22の国と地域から359のアカウントを集計した。

(4)データ取得と分析:本稿ではPythonを用いて、359人のアカウントユーザー名やフォロワーデータなどの基本情報を取得する。 それらを独立したネットワーク・アクターとして扱い、記者間の相互関心関係をエッジとしてネットワーク・マトリックスを構築・形成し、ソーシャルネットワークデータ分析ソフトUCINETとORAを用いて分析する。

(II) デプスインタビュー

デプスインタビューは、社会科学における質的研究の主要な方法であり、回答者との綿密な会話を通じて特定の社会集団の生活経験やライフスタイルを理解し、特定の社会現象の形成過程を探り、社会問題を解決するためのアイデアや方法を提案するために用いられる(孙晓娥, 2012)。 デプスインタビューの目的は、主に中国関連記者のSNS利用目的とつかっている機能、SNSに対する理解を深く把握することを通じて、記者たちの社会ネットワークの構造とその影響要因を理解することである。

(1)調査対象者の選定:本稿では、調査対象者の代表性とアクセスしやすさを考慮し、目的別サンプリングの方法を採用し、AP通信、ロイター通信、フランス通信などの重要な国際主流メディアをカバーし、アメリカ、フランス、ロシア、エジプトなど多くの国にまたがる9人の中国関連ジャーナリストを選定した(表2参照)。

(2)インタビュー方法:本稿では半構造化インタビューを採用したが、これはインタビュアーと被インタビュイーにある程度の自由度を与え、研究の中心課題を共同で探求できるという利点がある(孙晓娥, 2012)。 本論文の研究目的に従って、インタビューの概要は事前に設計されている。調査質問は主にSNS利用習慣、頻度、目的、嗜好(使用するSNSの選択、いいね!・リツイート・フォローの基準など)、中国関連のニュース制作の役割と機能についての知識と認識、ジャーナリストのSNS利用に関する勤務先報道機関のルール、SNS上における同業者との関係などに関連するものであった。

(3)インタビューのプロセスとデータ分析:新型コロナ流行や地理などの複数の要因から、インタビューは主にオンラインで行われた。5人の対象者に対してはWeChatの音声とビデオ通話で行い、3人はテキストで、残りの1人はオフラインインタビューを実施した。 インタビューは2021年10月から2022年4月にかけて行われ、1回の所要時間は約40分であった。 事前に用意された質問事項に加え、所要時間は実際の状況に応じて調整され、終了後に資料化された。SNAの分析結果と合わせて、中国関連記者のソーシャルネットワークの構造的特徴、その影響力、グローバル中国関連記者のニュース制作におけるSNSの役割と機能について理論的な説明を試みている。

4.中国専門記者たちの社交ネットワーク構造と影響力

(一)中国関連記者のツイッターネットワークの構造的特徴

1.世界の中国関連ジャーナリストはSNS上で比較的緩やかだがタイムリーで円滑なソーシャルネットワークを形成している。

SNAにおいて、ネットワーク密度はノード間の結束力を表す重要な指標である。 ネットワーク密度の値は0から1まであり、値が1に近いほど、ノード間の関係が緊密であることを意味する。 Ucinetのデータ分析を通じて、世界中の中国関連ジャーナリスト359人が合計24,317のコネクションを形成し、ネットワーク密度は0.184であり、世界中の中国関連ジャーナリストはTwitter上で比較的緩やかなつながりの専門家ネットワークを形成していることがわかった。

個々のノードを見ると、ニューヨーク・タイムズのオースティン・ラムジー(@austinramzy)の入次数は280で、これは359人のジャーナリストの78%が彼をフォローしていることを意味する。 言い換えれば、ネットワーク内のジャーナリストの80%近くがラムジーを通じて他のジャーナリストと接触することができ、またネットワーク内のどのジャーナリストが投稿した情報でも、他のジャーナリストがアクセスできる可能性は80%近くあるということが言える(訳注:後者については原文意図がよくわからないが文章通り訳出した。「ラムジーの投稿はネットワーク内の80%が見る可能性がある」ならわかるが、主語が「任意の記者」では成立しないような気がするが…?)。 世界の中国関連ジャーナリストがTwitterで形成したソーシャルネットワークは、スムーズでタイムリーな情報の流れを持つ専門的なネットワークであるといえる。

2.地域を特性として形成される凝集的サブグループ

凝集的サブグループは、SNAにおいてネットワーク構造を記述するためによく用いられる手法である。 本研究では、Ucinetの凝集的サブグループ分析において、反復相関収束(Concor)分析モデルを用いて、中国関連ジャーナリストのソーシャルネットワークを、カットオフ度3という条件下で8つのサブグループに切り分けた(表3参照)。 データによると、記者たちのソーシャルネットワークに形成されたサブグループは、地理的な面で一定のパターンを示しており、Twitterにおける中国関連記者の相互フォロー関係は依然として国と地理を主な基準としており、そのネットワークも地域的な凝集性が強いことがわかる。

具体的には、イギリスとアメリカの中国関連ジャーナリストは主に第2サブグループと第3サブグループに分布しており、これらのサブグループは規模が大きく、影響力のある中国関連ジャーナリストの分布も大きい。 欧州の中国関連ジャーナリスト(英国を除く)は、主に第5サブグループと第8サブグループに分布している。 第5サブグループは、欧州のジャーナリスト(英国を除く)が最も密集して分布しているサブグループで、ドイツ、スペイン、オランダ、その他多くの欧州諸国のジャーナリストがこのサブグループに分布している。オンライン・ネットワークはオフラインの社会関係を正確に再現しているわけではないが、その社会的特徴もある程度反映しており、そこでは国やメディアの立ち位置、文化の影響が重要な役割を果たしている。

なお、サブグループは国や地域によって厳密に分けられているわけではなく、例えば中国人ジャーナリストはさまざまなサブグループに分布しており、特定のサブグループに集中しているわけではない。 その主な理由は、サンプルを選ぶ際、中国人記者は対外的に中国問題を報道する部門に属する記者から選ばれるが、これら報道機関の「対外報道記者」は国や地域によって分けられるからである。例えば、欧州部門の記者は報道の際、中国と欧州との関連により注目し、米州担当の記者は中国の関連政策がアメリカ諸国に与える影響により注目する。 その結果、中国メディア記者は、担当地域のジャーナリストとより密接な関係を持つようになる。

(Ⅱ)記者ソーシャルネットワークの影響力

1.権威中心性:米国と英国の記者高い影響力

権威中心性(Authority Centrality)とは、あるノードに接続している他のノードの質と量を表す尺度であり、権威中心性が高いほど、そのノードのネットワークにおける地位が高く、より多くの他のノードに影響を与えることができる。 中国関係記者のソーシャルネットワークの中では、ニューヨーク・タイムズのSui-Lee Wee(黄瑞黎)が最も高い権威中心性値を持ち、0.197に達している。2位はやはりニューヨーク・タイムズのAustin Ramzyで、権威中心性値は0.195、3位はエコノミスト誌のSimon Rabinovitchで権威中心性値は0.187だった。

地域別分布では、アメリカのジャーナリストがネットワークにおける権威の点で絶対的優位に立っている。 権威中心性上位20人のうち、アメリカのジャーナリストが11人、イギリスのジャーナリストが7人、中国のジャーナリストが1人、オーストラリアのジャーナリストが1人ランクインしている。 メディアの分布という点では、米ニューヨーク・タイムズ紙が依然として上位を独占しており、権威の中心性という点では、同紙から6人のジャーナリストが上位20位に入っており、他のメディアのジャーナリストの数を大きく上回っている(表4参照)。

地域別分布では、米国と英国の中国関連ジャーナリストはSNS上での活動が活発で、結束力が強く、影響力が強い。 中国、フランス、ドイツ、オーストラリア、カナダにも優れたパフォーマンスを発揮する個々のジャーナリストがいるが、英米のジャーナリストとは量と質に大きな隔たりがあり、ロシア、スペイン、日本、インドなど他の地域や国のジャーナリストはよりマージナルな位置にいる。 国際コミュニケーションの全体的な状況は、「英語圏が強く、その他の国が弱い」ことを反映している。

報道機関の分布を見ると、中国関連記者の数ではニューヨーク・タイムズ紙が最も目覚ましく、ほぼすべてのリストで1位となり、同メディアの記者数も他のメディアを大きく引き離して1位となった。 さらに、米ウォール・ストリート・ジャーナル、英フィナンシャル・タイムズ、フランスのAFP通信、中国の新華社通信の記者も頻繁にランクインしており、中国関連記者のネットワークにおけるオピニオンリーダーとなっている。

2. 仲介中心性:米英の中国関連記者はネットワーク資源を調整・コントロールする能力が高い

アメリカの社会学者Lyndon Freemanによって提唱された仲介中心性(Betweenness Centrality)は、あるネットワークノードがネットワーク内の他のノードと比べて中心に位置する度合いを示す尺度だ。ノードの中心性が高いほどそのノードはより多くの最短経路上にあり、そのネットワークの中にあるリソースをコントロールする能力が高いことになる。この仲介中心性が最も高いノードはニューヨーク・タイムズの黄瑞黎で、その仲介中心性は0.046に達する。トロント・スターのJoanna Chiuは仲介中心性の点で2位にランクされ、その値は0.029、ニューヨーク・タイムズの記者であるAustin Ramzyは3位である(表5参照)。

地理的分布から見ると、上位20人のうちアメリカ人記者が7人、イギリス人記者が6人、カナダ人記者が2人、中国人記者が2人で、フランス、ドイツ、オーストラリアの記者も1人ずつランクインしている。 メディア分布の観点から見ると、どのメディアもネット情報を絶対的に支配しているわけではないが、ニューヨーク・タイムズ紙は、上位20位以内に3人の記者がランクインしている。

5.ソーシャルネットワークの影響要因の分析

記者が所属するメディア組織の現実世界における影響力と世界のメディア・コミュニケーション状況におけるその位置づけ、SNSプラットフォームのアルゴリズムの偏り、個々のジャーナリストのSNS利用の頻度と目的はそれぞれ重要な影響要因である。

(i)メディア組織の現実の影響力と、世界のメディア・コミュニケーション状況におけるその位置づけ

フランスの思想家ラトゥールが提唱したアクター・ネットワーク理論(ANT)によれば、ネットワーク内のアクターはヒトでもモノでもあり、集約の連鎖効果の中で等しく自らの能動性を発揮する。 自然的であれ社会的であれ、人間であれ非人間的であれ、変化をもたらすことで物事の状態を変えることができるネットワーク上の要素はすべてアクターとみなされ、モノのアクターも人のアクターと同様に重要である(Latour, 1996)。”ネットワーク”の繋がりを分析する際は、その中の人と人の繋がりだけでなく、人とモノ、さらにはモノとモノの繋がりにも目を向けるべきである。 したがって、グローバル・メディアそのもの現実における影響力、文化資本、伝統的なメディア・コミュニケーションにおける位置づけが、そこで働くジャーナリストのソーシャル・ネットワーキングにおける影響力に深く影響する重要なアクターとみなされるべきである。

この論理に従えば、中国関連ジャーナリストのSNS影響力が、伝統的メディア時代におけるグローバルメディアの影響力およびその位置づけとある程度一致していることを見出すのは難しくない。 権威中心性で上位20人の中国関連ジャーナリストのうち、11人がアメリカ人、7人がイギリス人。 彼らが所属するメディアは、世界のメディア環境において中心的な位置を占めている。現在、アメリカや欧米メディアを中心とする「主流メディア」は、依然としてグローバルな情報流通・共有の源であり、世界のニュース情報の半分以上はAP通信、UPI、ロイター通信、AFPという欧米の4大通信社によって収集・放送されている(李希光、 2020)。 さらに新しいメディア時代において、米国と英国を筆頭とする英語圏のメディアは、その議題設定能力、情報統制能力、公共発信能力によって、SNSのグローバル化トレンドの中で高い影響力により中心的位置を占めている(相德宝,张文正,2017)。 メディア従事者としてのジャーナリストは、個人的なメディア資源、実生活での影響力、文化資本の利点を生かして、ソーシャルネットワーク全体における影響力を高めることができる。

(ii)プラットフォームがもつアルゴリズムバイアス

SNSプラットフォームのルールやアルゴリズム自体のバイアスも、グローバルな中国関連ジャーナリストのソーシャル・ネットワークの構造、位置づけ、影響力に影響を与える重要な要因である。 ニール・ポストマンはすべてのメディアにはイデオロギー的なバイアスがあると指摘している。このバイアスは通常隠されており、発見が難しく、しばしば当然視されている。 SNSプラットフォームのアルゴリズムによるレコメンデーションもこれと同じように隠れたバイアスをもっており、ほとんどのユーザーが気づいていないが、政治的権利と商業資本がプラットフォームのアルゴリズムに影響を与えるために介入している。この微妙で知覚できない介入は、プラットフォーム上のアカウントの露出を操作する見えざる手のようなもので、ひいてはSNSにおけるアカウントの影響力を左右する。

アルゴリズムがアカウントに与える影響の最も明白な例は、2020年にTwitter社が「透明性とユーザビリティの確保」を口実に、CGTN、新華社通信、人民日報など多数の中国メディアとその記者のツイッターアカウントを「中国政府系メディア」とレッテルを貼ったことである。このレッテルは明らかにイデオロギーを含んでおり、中国メディアおよびジャーナリストの対外コミュニケーションに深刻な悪影響を及ぼしている。 香港大学の中国メディア・プロジェクト(CMP)が2021年に発表した報告書によると、それ以来CGTN、新華社通信、人民日報のツイートの平均リツイート数は20%以上減少し、環球時報のツイートの平均いいね数は31%以上減少している。 2020年8月14日、環球時報の元編集長である胡锡进は、自身のツイッターアカウントがフラグを立てられた1週間後、アカウントのフォロワーが以前のように増えなくなっていること、そして、これまで自分のアカウントをフォローしてくれていた多くのフォロワーまでもがツイッターから離脱していることに気づいたとツイートした。 彼は、Twitterがある種の “ブラックボックス “戦術で彼のアカウントを抑圧していると考えた。

(iii)SNS利用の目的と頻度の違い

ネットワーク内で最も直接的なアクターである個々の中国関連ジャーナリストがTwitterを利用する頻度と目的は、彼らのソーシャルネットワークの影響力を左右する核心的な要因である。英語圏のジャーナリストは、所属する報道機関の要請や個人的な利用習慣から、ツイッターを重要な自己ブランディングの場とみなし、積極的にソーシャルネットワーク内のリンクを構築し、公共情報の発信と個人的なネットワーク資本を蓄積している。一方、中国に関わる非英語圏のジャーナリストは、Twitterを情報を得るためのツールとしてより多く利用しており、利用頻度は比較的低い。 このような使い分けの結果、英語圏のジャーナリストがネットワークの中心に位置し、他の国や地域のジャーナリストは周辺に位置することになる。

6.報道における中国専門記者の役割と効能

ソーシャルネットワークは時間と空間の制約を超え、アクターたちと中国関連情報を結びつける。中国関連の話題と情報、ネットワーク、情緒的支援は統合されることによってネットワーク・コミュニティを形成する。SNS時代の中国関連ニュース制作はますます「ソーシャル化」している。

(i)多様化する中国関連情報の融合

ジャーナリストたちのソーシャルネットワークは、中国に関する多様で多元化された情報を入手する最速のチャンネルだ。 中国関連ニュースの伝統的なゲートキーパーでありパブリッシャーでもある彼らがツイートを通じて構築する多様で多元的な関連情報のネットワークは、信頼性・真実性の高い中国関連ニュースをいち早く入手するための高速道路であり、鉱脈となっている。

インタビューの中で、「Twitterで主にフォローしているアカウントとその理由」という質問に対して、対象者は皆他の中国関連記者のアカウントをフォローしていると答えた。新華社の対象者は、中国関連の情報を広く閲覧しおり、他の報道機関の報道や他の記者の立場、姿勢が自分の報道に影響を与えていて、彼はそれらを十分に閲覧し、慎重に考えた上で自分の報道を組み立てていると述べた。AFP通信の対象者は、「他の中国関連記者アカウントをフォローするし、メディアによって記者のスタンスは異なるので、彼らの提供する中国関連情報を “批判的 “な目で見て、他人のスタンスに自分の判断を左右されないようにしている」と述べている。

中国関連記者は、中国関連情報の生産者であると同時に消費者でもあり、相互のフォローとインタラクションを通じて巨大な人間関係のネットワークを構築している。彼らが発信する中国関連情報も、記者のアカウントをベースに、さらに複雑な人間関係のネットワークを通じて分散・拡散しており、それが構成するソーシャルネットワークは、間違いなく中国に関する最も高密度のバーチャルコミュニティであり、「中国関連情報アグリゲーター」となっている。

(ii)中国関連情報の発信の拡大

ネットワークにおける記者同士の交流は、個人的な関係を維持し同業への支持を表明するためだけでなく、中国関連情報を二次発信するためでもある。 リツイート、いいね!、コメントを通じて、中国関連ジャーナリストと他の中国関連オピニオンリーダーとの交流は、彼らのタイムラインにも表示され、二次的あるいは多重的な情報発信を実現している。 さらにこのネットワークは、中国関連記者の内輪にとどまらない。 ジャーナリストは職業上の必要から、社会のさまざまなグループと密接な接触を持つ。彼は中国関連問題のオピニオンリーダーとして、世界各国の政治家要人、学者、研究機関などと密接な接触と交流を保っており、彼らのもつ中国関連ニュース情報はそのネットワークを通じて、クラスタ外との交流によってさらに広い範囲に広まる。つまり 中国関連記者のグローバルなソーシャルネットワークは、中国関連情報発信の最も重要な情報源であり、中継基地であるといえる。

(iii)精神的な支えの提供

同時に、SNSは中国関連記者に一種の精神的な支えも提供しており、「いいね」、リツイート、コメントなどのインタラクティブな行動を通じて、中国関連記者の間に一種の「支え合い」の関係が形成されている。 インタビューでは、半数以上の記者が同業者のツイートを積極的にリツイートすると述べた。フランスのテレビ局の中国関連記者は、「これ(リツイート)は実は一種のピアサポートだ」と明言している。 さらにデリケートな話題に直面したとき、中国関連記者、特にフォロワー数が多く影響力のある記者同士のリツイートや「いいね!」、その他のインタラクションは、そこまでの知名度がない記者の露出や影響力を急速に高めること、ひいては中国報道自体に対する注目度や影響力を高める作用もある。ロイター通信の記者は、敏感な話題に直面したとき、リツイートやいいね!などを通じて、一種の感情的なサポートを提供できると考えていると答えている。

まとめると、世界の中国関連ジャーナリストは、デジタルメディア技術を土台に、中国に関する話題を紐帯として、情報、関係、感情を統合したプロフェッショナル・コミュニティを構築している。SNS時代における世界のニュース制作と発信方式には変化が産まれ、このまったく新しい環境の中で、中国関連記者とニュース、社会との関係も再構築された。 ソーシャルなきものはもはやニュースとは呼ばれない。SNS時代の中国関連記者のニュース制作は、情報源から制作、消費に至るまでバリューチェーンのすべての点において「ソーシャル化」の特徴を明確に示していると言える。

(相德宝 李新瑞:《社交媒体时代全球涉华记者社交网络结构、影响力及功能研究》,2023年第7期,微信发布系节选,学术引用请务必参考原文)