中国は世界的に重要な国家で、多くの外国メディアが特派員を置いている。たとえば日本メディアを例にすると、全国紙や通信社、NHKに主要民放だけでなく西日本新聞などの地方紙、関西テレビなどの地方局、果てはファッション・繊維などの専門新聞の繊研新聞など、実は意外に多いのだ。おそらく統計などはないが、日本の報道機関だけで米国並みかそれに次ぐくらいの数の特派員が中国に派遣されていると思う。

記者という仕事は普通のサラリーマンとはちょっと違うかもしれない。とはいえ当たり前だが記者も普通の人間であり、会社から「君は来月から北京ね」などと言われても中国語も話せないし中国なんて興味なんかない…といったことはもちろん普通の会社の駐在員と同じように起こりえる。それだけ書くとさすがに怒られそうなので知っていることを少し補足すると、日本の大手新聞や通信社の場合は候補者を事前に1年程度留学させることが多い。また少数だが、日本生まれの中国人など言語のハンディキャップがない人材もたまにはいる。

そうして経験ゼロよりはるかマシな状態で業務を始めるとはいえ、1年程度の留学でぺらぺらになって独力で普通の市民から話を聞いてまとめられるようになる…というのはちょっと現実的ではないというのも事実だ。言語だけでなく、中国は非常に「特徴」がある国なので、前提として様々な知識をもって観察しないと、多くのことが見えないか、ゆがんで見えてしまうという面もある(これはどこまで行っても解決が難しい気もするが)。

その不足を助けるのが中国人のアシスタント(”中秘(ジョンミー)”と呼ばれる)。一般的な企業の駐在員同様数年で入れ替わる特派員と違い、彼らは長い経験を持つことも多い。そして今回紹介する記事でも述べられるように取材であれ執筆であれ、実質的な機能の多くを担っているわりに、リスクがあることもありあまり日が当たらない職業だ。しかしその大切な機能が今回のことをきっかけに、損なわれるかもしれない(とはいえ話の筋的に今のところ米国以外のメディアがターゲットになることはないだろうし、記事からはちょっと米国=世界っぽい受け取り方を感じなくもないが)。

中国にいる日本の特派員がおそらく多いと書いたが、つまり、雇用している中国人アシスタントの数もまたおそらく外国メディアの中でトップクラスだということになる。今のところは「万が一」ではあるが、こうした事態の影響が、英語よりも活躍の幅が狭い日本語をわざわざ専門とし、リスクのある仕事(おそらく欧米メディアで働くことに比べれば「裏切者」扱いは少ないとは思うが…)を引き受けて日本に貴重な情報を伝える彼らに及ばないといいのだが、と思いつつ。

まさにこのトピック、外国メディア内で働く「アシスタント」の中国報道に対する貢献やその役割の大きさについては個人的にも大きな興味を持っているので、いつかまとめてみたいと思っている。

この記事は”Columbia Journalism Review ”というColumbia University Graduate School of Journalism が半年に1回発行するジャーナリズム関係の雑誌のウェブ版。

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記事の前に背景を一応復習しておこう。発端は2月3日にWallstreet Journalが掲載した「China Is the Real Sick Man of Asia(中国はアジアの真の病人)」という記事だ。

WSJの記事「中国はアジアの真の病人」

これに怒った中国側はWSJのアメリカ人記者3人の追放を宣告。続いて2月18日に米国が突然新華社など5メディアの駐米支社を「中国政府の宣伝機関」と認定し、大使館や領事館なみの制約を課すと報じた。「中米の特派員の数をそろえる」というわりとなんじゃそれな名目で行われたこれはWSJの一件への報復…というよりトランプ政権側からのいやがらせな気はするが、逆に言われてみれば「そりゃそうだよな」「何をいまさら」という気もしなくもない。新華社が「独立した報道機関」だとはだれも思っていないだろうし。しかし中国側は翌日報道官が定例会見で非常に強く反発。席上でも「本件に対するさらなる対応の権利を保留する」と宣言していた。

そしてちょうど1か月後の3月18日、WSJだけでなくニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト合計三紙の年末で切れる記者証の更新を拒否すると通告(その他メディアへの云々や米国の反応などは関連報道でも見てください)された。ポンペオ国務長官はこの措置に対して「中国国内で何が起きているかを世界が知る力を否定する」行動と言ったが、今日の記事はそれが具体的に何を指すのかを説明するものだ。

おそらくここまでの事態は想定せずに挑発的(まあ侮辱的といってもいいだろう)タイトルを付けたWSJ、お互いに対する敵愾心から必要以上に問題をエスカレーションする米中双方、「火遊び」が実際長期的には非常に悪い影響をもたらすのではないかとのこの記事内容には深く同意する。本件に関してはどちらかが悪いという話ではないはずだとも思う。相互への理解の不足は不信へとつながり、もっと大きく悪い結果の引き金になりかねない(トランプなんか特に自分でテレビ見てその感想をツイートしちゃったりするからね…)。

特派員という制度自体がそもそもどうなのか(日本にいる西洋メディアでさえ、時に非常に偏向した報道を行う…こちらも当事者である限り「偏向していない」など不可能であると言われればそれまでだが)といった根本の問題も別の機会に論じられるべきだとは思うが、それでも「いない」ということとは別次元だ。

なお偶然だが、文中では以前このサイトでインタビューした方可成も登場し、コメントしている(肩書が間違っている気がするが…)。

中国による米ジャーナリストの追放は中国人スタッフにも影響する、そしてそれは将来的な中国報道にも。

出典:China’s expulsion of American journalists also affects Chinese staff—and the future of reporting in China(Columbia Jounalism Review 3/26)

中国は米国との攻防が激化する中、先週ニューヨーク・タイムズ紙、ワシントン・ポスト紙、ウォール・ストリート・ジャーナル紙に勤務する十数名の米国人ジャーナリストの追放を発表した。3紙のトップエディターはすぐに中国の決定を非難する声明、続けて3月24日には中国政府に向けた公開書簡を共同で発表し、世界的なパンデミックによって「信頼できるニュースと情報の自由な流れを必要とする」戦いの時代に、今回の除名は「いままでにないダメージを与え、かつ無謀である」とした。

しかし、影響を受けたのはアメリカ人ジャーナリストだけではない。一連の報道や北京の行動に対する国際的な非難の中では、米国の報道機関に雇用されていた少なくとも6人の中国人(NYTのリサーチャー2名、WSJ1名、Voice of Americaのニュースアシスタント1名、CNNスタッフ2名)が職を失ったことが取り上げられていない。

中国政府は彼らの報道資格を取り消し、「自主的に」辞職する契約書に署名することを強いた。3月19日、中国外務省の報道官は、中国のスタッフは “中国の法律と規則に基づいて管理されている “と述べた。情報筋によると、中国当局は中国人スタッフに対して「もし従わなかったり、このことについて報道陣に話したりした場合、彼らの将来の仕事の見通しについて影響があるかもしれない」と警告したという。

この辞職強要は、中国にある外国メディアで働く約200人の中国人に悲痛なシグナルを送っている。彼らは自分たちの仕事が危険にさらされているのではないかと心配している。中国当局が今回どのようにターゲットを選んだかに関してはちゃんとしたロジックはないようだ。6人のうち4人は外交部が外国公館として指定した報道機関(NYT、ワシントンポスト、WSJに加えVOA Voice of America、TIMEがリストアップされている)に勤務していたが、残りの2人はその指定外であるCNNの職員だ。

「あなたが言うような、何かの証拠や根拠に基づいて私のリスクレベルが90%だとか、10%だとか、そういうことではありません」とフィナンシャル・タイムズ紙の北京特派員、ユアン・ヤン氏は言う。フィナンシャル・タイムズの北京特派員であるユアン・ヤン氏は言う。「ただ、わからないんです。説明がつくようなものではないですから。米国の最前線のメディアはどう定義したらいいですか?第二線は?米国の次は、他のどのような国がくるんでしょう?」

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影響を受けたアメリカ人ジャーナリストは匿名を条件に、外資メディアがリサーチャーを失うことの、より大きな影響について語った。”これは中国国内の外国メディアを解体するための広範なキャンペーンの一環であり、その影響は今回の追放だけにとどまらず、より大きい」と彼は言う。「今回ターゲットとされた米国のメディアもいつかはスタッフの入れ替えができるようになるだろう。しかし真の問題は、中国における外国メディアスタッフをめぐるシステム全体が限界点に達していることだ。このような状況でも海外メディアで働きたいと思う人がいるだろうか。彼らはかけがえのないものなのに」。

中国ではこうしたスタッフたちは正式には「ジャーナリスト」と名乗ることができない。中国政府は中国人が外国メディアでジャーナリストという肩書きで働くことを禁じている。その代わり、彼らはアシスタント、研究者、またはその他の「補助的な仕事」としてのみ雇われ、外交部傘下の組織に登録しなければならない。彼らに対して給与を支払うのはメディアだが、厳密には所属はこの傘下組織という扱いになる。

このような制限にもかかわらず、多くのスタッフはジャーナリストとしての能力をフルに発揮している。「裏方の仕事の多くは中国人スタッフによって行われ、インタビューの多くも中国人スタッフによって行われ、多くの記事でさえも中国人スタッフによって書かれています」と、ジョージア州立大学の政治学者であるマリア・レプニコワ氏は言う。

レプニコワはたとえ長い経験がある外国人特派員を擁していたとしても、バイリンガルの中国人スタッフがいなくなれば報道の質に非常に大きな影響を与えるだろうと指摘している。彼女によれば、多くの中国特派員、特に中国に来たばかりの記者は独自に取材活動を行うための語学力や文化的・政治的知識を持っていないだろうという。

ロイターの中国政治特派員キース・ザーイ氏も「中国人スタッフがいなければ、事実上国際的な報道機関は中国報道を行うことができない。ワシントンDCやシドニーから中国について書くことはできるはできる。しかし不正確な情報に基づいて報道することになってしまうだろう」という。

中国人スタッフはまた、外国人特派員の取材に必要なニュアンスを教える事もしばしばある。「これらの中国人スタッフを失うことで、米国のジャーナリストの中には、中国に関する既成のフレームに頼る人が出てくるのではないかと心配しています。そしてそれらは多かれ少なかれバイアスがかかっていたり、少なくともクリシエ(陳腐で使い古された表現)であったりします。中国人の同僚は中国という国を理解する上で “新しい視点 “をもたらしてくれるのです」と、香港中文大学のジャーナリズム教授、方可成氏は言う。そのバイアスの例として「外国人ジャーナリストは中国の情報源について共産党に洗脳された従順な大衆と、権威主義的な政府の支配に抗して戦う勇敢な反体制派の2つの役割のうちの1つのどちらかだと決めつけたがる傾向があります」と方氏は言う。

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彼らの重要性は広く認められているものの、多くの中国人スタッフの給料は外国人特派員の給料のほんのわずかである。また身の安全を脅かす危険性があるため彼らの仕事は過小評価され、時には匿名で行われることもある。彼らは情報源や家族からは裏切り者だと非難され、会社内では二流市民のように感じられている。

ザーイ氏は米国の報道機関が今回中国人スタッフのために立ち上がらなければ、すべての国際的なメディアの中国での業務は「一歩後退する」と心配している。CNNの広報担当者によると、同社は影響を受けたスタッフを助け、中国報道が 「危うくならないように」努力しているという。VOAは、「あらゆる方法でアシスタントを支援する 」と発表した。WSJはコメントを拒否し、NYTもコメントを求めても応じなかった。

ザーイ氏によると、1980年代と90年代には、外国メディアは中国人を自由に雇うことができず、政府から研究者を割り当てられていたという。

「これは単なる始まりに過ぎないかもしれない」と彼は警告した。