中国国内の報道によると、9月23日にMINISO（メイソウ/名创优品）がNY上場に向けて米証券取引委員会（SEC）に目論見書を提出したとのこと。1億ドル調達目標で、証券コードはMNSO。

MINISOは多分14年に中国住みさんの投稿によって日本人twitter界隈をどよめかせた雑貨ブランドで、明らかにおかしな日本語をちりばめユニクロとダイソーと無印良品を足しっぱなしにして水で10倍くらいに薄めたようなグッズで「日本インスパイヤ」という芸風を世に知らしめた。ファーウェイやアリババといった現代中国の「まとも」なIT・ハイテク企業と一昔前のどうしようもなくいかがわしい山寨（パチモノ）・あるいは世界の工場としての中国が交差したところで生まれたブランドと言ってもいいかもしれない（なお大変残念ながら、味のある日本語はのちに修正され大分まともになっている）。

当時は「渋谷区神社前」に本社がと表記（「神宮前の勘違い」と弁明。のちに銀座に「移転」している）、文化服装学院出身の三宅順也氏を「グローバル共同創始者/チーフデザイナー」として前面に打ち出して拡大していった。当時福島香織さんが三宅氏本人の電話番号を入手して接触を試みたがガチャ切りされた…とかいうエピソードがあった気がするが、掲載先の日経ビジネスがリニューアルにあたり記事を削除してしまっており確認不能（ここにその断片が…）。

17年、MINISO川越店の開業に際してスピーチする三宅氏（プレスリリースより）
創業の歴史に三宅氏の名前はない（SEC資料より）

創業者の叶国富は湖北人で、19歳で広東省に出稼ぎのために移住している。そこで地歩を築いて哎呀呀（アイヤヤ）という雑貨店ブランドを立ち上げて3000店舗以上に広げ、MINISO創業（2013年）より前にすでに最年少で広東省の人大代表に選ばれるなど大きく成功していた。その後日本ブランドをマーケティング上有利だと判断し、三宅氏との出会いによってMINISOはつくられた、ということになる。

創業者の叶国富（イエ・グオフー）。なおこの画像は公式からでファイル名は”founder2.jpg”。そのURLをfounder1にすると…

低価格雑貨の買い付けと言うと浙江省義鳥が有名だが、広東省は製造業の中小規模工場も大きく、それらの供給源にもなっている。地域のサプライヤー、特に国外の有名ブランドにOEMで製品を供給する優良サプライヤーを囲い込めたことが勝因のひとつといっていいだろう。

ECを目の敵にする叶国富は中国のいわゆる「ネット企業」とはまったく違う金融会社によるギリギリの仕組みを使った融資による創業支援や直管というかなりリスクをとった変形直営店方式の導入などを導入し「古い中国」の代表である小売業で創業7年にして見事NY上場にまでこぎつけることになる。彼はある意味で日本のドン・キホーテ 安田隆夫氏的な小売りの破壊者であり、革新者でもあるといっていいだろう（ここでは深く触れないがそのビジネスモデルは非常にピーキーで、経済の拡大に全張りした非常に危ういものだ。その賭けにもこの上場により勝った、といえるのかもしれない）。

世界80以上の国に進出

現在では海外80か国に1,700店舗（国内と合わせると約4,200店舗）近く展開しており、これは海外1,400店程度のファーストリテイリング（ユニクロ1,379+ジーユー30店舗強、ジーユーは元々海外店舗数を定期的には発表していないようで現状不明）を越え、さらに言えばアリババやテンセント、キッズ大好きバイトダンスよりよほど海外で成功しているといえる（いわゆる新興企業の中では170か国で展開するとするファーウェイがおそらくトップ）。

直近の店舗数推移（SEC提出書類より）

踏み台にされた日本人としてはいい気分はしないかもしれないが、金融を絡めたフランチャイズビジネスの大胆な広げかただけでなく、サプライチェーンの整備やブランドの利用（のちに北欧雑貨ブランドのNOMEも立ち上げており、その際の内紛なども話題になることも多いが割愛）など、よく報道され注目されるようなチャイナテック★とは違った、しかしある意味でとても中国ビジネス的な側面を体現している面白いビジネスであり経営者だと思っている（口の悪い叶はいつもジャック・マーを挑発しているが一度も相手にしてもらっていないとか）。

なお主幹事はゴールドマンサックスとBoA（旧バンカメ）証券で、アジア最大のPEである高瓴资本（Hillhouse、テンセントやuber、京东、NIO、爱奇艺などに投資しているといわれる）とテンセントがそれぞれ5.4%保有している。その他は（きちんと追っていないが）いくつか名義がでているがいずれもケイマン経由で恐らくすべて叶と家族に繋がるものと思われる。

 

参考：

中国発の日本ブランドはいかに作られたか（金 2019）

Form F-1 Miniso Group Holding Ltd Registration statement for certain foreign private issuers

MINISO メイソウ 三宅順也 名创