この記事は(我ながらマニアックな話だと思うが)先日の「好奇心日報」が停められた件、また去年ごろから続いているメディアへの圧力の一環としての営業停止の根拠とされる「許可証」または「取材編集権(采编权)」について、それがどういったものなのか、まとめてみたものになる。

多少中国のメディア事情についてかじった事があれば「党系のメディアしか独自ニュースは許されず、他のメディアはそれを転載するしかない」という事を聞いたことがあるかもしれない。今日の話題は、それをもっと厳密で正確に、根拠となっている法律などをつなぎ合わせながら紹介したものとなる。

これを取り上げた最大の理由は、今後も同じ事がメディアに対する圧迫の口実なり理由として使われる可能性があるからだ。ありがちな話でもあり軽視される事もまた多いが、賛成するにせよ反対するにせよ、こうした内容においては「相手側の論理」を知る事は大切であると思う。そこから、どこが危険なラインなのかを推し量る事もできるかもしれない(現実は複雑なので、必ずしもそう簡単にわからない、ということもありえるだろうが)。

そうした意味で重要性は高いと思うのだが、日本語は勿論中国語でもきちんと事実関係を参照してまとめられている記事は大変少ないように思う。

バージョン違いの「規定」

そもそもの話だが、この規定は05年と17年のふたつのバージョンがある。後ほど細かく触れるが、それぞれ発行元が微妙に違う事もあって厳密な意味での修正・アップデートではなく、大まかには時代の変化に対応した修正の体をとりつつ、微妙に表現や規定範囲が違うように見える。これが意図したものなのか、単に発行体が違うので同じ意図でも完全に踏襲する必要はないと考えたのか、その辺りはよくわからないのも混乱させるひとつの要因である。まずはともあれ、原文は以下。

互联网新闻信息服务管理规定 (05年9月25日公布&同日施行,国务院新闻办公室,中华人民共和国信息产业部、以下便宜的に05年版と呼称) 互联网新闻信息服务管理规定 (17年5月2日公布、6月1日施行、国家互联网信息办公室、同じく17年版と呼称) 補足も含めて以下に解説していく。しかし元々があまりまとまった情報がなく、わかった情報を突き合わせているものの、足りない部分は推測も含まれている。

そもそも「ニュース」とは何か?

少し順番がひっくり返るが、まずは中心的トピックである「新闻信息(=ニュース)」が法規上どのように定義されるかに触れておく。上記2つのバージョンで定義が少し変わっている。

  • 05年版:本规定所称新闻信息,是指政类新信息包括有关政治、经济、军事、外交等社会公共事务的报道、评论,以及有关社会突发事件的报道、评论(訳:本規定で述べるニュース情報とは、政治、経済、軍事、外交など公務に関わる報道などを含む時事ニュース情報、及び突発的な事件の報道や評論を指す)
  • 17年版:本规定所称新闻信息,包括有关政治、经济、军事、外交等社会公共事务的报道、评论,以及有关社会突发事件的报道、评论(訳:本規定で述べるニュース情報とは、政治、経済、軍事、外交など公務に関わる報道、及び突発的な事件の報道や評論を指す)

変化があるのは下線の部分だ。05年にあった「时政类新闻信息(=時事ニュース情報)」という言葉が削られている。これは逆に制限が明確でなくなったと理解されている。

冒頭に書いたようにここ一年、多くのオンラインメディアがこの「許可証が許さない範囲の話題を報道した」ことで呼び出されたり、あるいは営業停止処分などを受けているが、その原因のひとつはこの条文の削られたたったひとつの文言に起因しているとする説もある。

上記の定義に従えば、日本語としては若干違和感があるものの、前回の記事で紹介したように「スポーツやエンタメに関する内容」は「ニュース」にはあたらないことになる。

「互联网新闻信息服务许可证」とは

「許可証」実物とされる写真

その前提の上で、この「ニュース」を報じる、つまり互联网新闻信息服务(インターネットニュース業務)を実施するためには、この「許可証」が必要になる。繰り返しになるが、ここでいう「ニュース」はエンタメなどを含まない為、例えば芸能ゴシップ情報を集めたサイトであればいくら新しい情報を投稿していてもこの理屈ではニュースサイトとは呼ばれない。許可証公布先は公表されており、网信办公式サイトで全社を見ることができる。

「許可証」の3分類(05年版より)

05年版『互聯網新聞信息服務管理規定(新聞辦令第 37 号)』第八条 による分類は以下のようになっている(ただし、あとでも触れるが名称は厳密には正式なものではない)。直接的な条文の翻訳なので、わかりにくさはご勘弁いただきたい。

  1. 「一類」※ 設立者:新闻单位 新闻单位が発行した既刊のニュース情報を越えた内容を掲載、時政類の電子公告サービス、時政類の通信情報(通讯信息)を大衆に向けて発するインターネットニュース情報サービス単位。設立には国务院新闻办公室の許可が必要。いわゆる「新闻采编发布权」をもつ。
  2. 「二類」 設立者:非新闻单位 ニュース情報の転送、時政類の電子公告サービス、時政類の通信情報(通讯信息)を大衆に向けて発するインターネットニュース情報サービス単位。設立には国务院新闻办公室の許可が必要。
  3. 「三類」 設立者:新闻单位 新闻单位が発行した既刊のニュース情報を越えない内容を掲載するインターネットニュース情報サービス単位。設立許可は国务院新闻办公室のほか、省、自治区、直辖市人民政府新闻办公室でも可

簡単に比較表を作ってみた。 なお上述の网信办の公式サイトにある許可証交付先リストは

  • 国家网信办许可信息
    1. 中央互联网新闻信息服务单位
    2. 其他互联网新闻信息服务单位
  • 各地网信办许可信息

にカテゴリ分けされている。また上記許可証の三分類の内、第一第二類は国家网信办の許可が必要、第三類は各地の网信办の許可でよいとされる。従って、明記はされていないものの事実上、ここでのカテゴリ分けは一類二類に対応しているものと推察される。

また、国家网信办のカテゴリはさらにふたつに分かれているが、「中央」には人民网を始めとした国営メディアが並び、「其他」は新浪や网易などの民間メディアが記載されている。従って恐らく「1.中央互联网新闻信息服务单位」が事実上一類、「2.其他互联网新闻信息服务单位」が二類を指し、以上にて三分類と対照する、という仕掛けと思われる。つまり、

  • 国家网信办许可信息
    1. 中央互联网新闻信息服务单位(一類)
    2. 其他互联网新闻信息服务单位(二類)
  • 各地网信办许可信息(三類)

ということになる。17年版には上記3つの分類についての記述はないが、上記の事実をもって、おそらく事実上この三分類はまだ存在すると理解していいだろう。

補足:一二三類とA類

厳密にいうと、上記「一二三類」は、正式な名称ではない。おそらく原文(下記参照)が「~以下の三類に分けられる。(一)〰」と記述しているため、これにあわせて習慣的にこのように呼ばれるようになったという事だろう。

「規定」内の一二三类について触れた部分

紛らわしいのが、ネットで見つかるいくつかの不確かな情報以外にも18年3月の界面と蓝鲸财联社の合併の際、蓝鲸传媒·财联社の創始者 徐安安が「A類を得た」という投稿をしていることだ。果たしてABCなのか一二三なのか…しかし前後の文脈からこれは恐らく上記Iを指すと思われる。単にきちんと定義された言い方がないから適当に発言しただけ…こうしたあいまいさが残ったまま色々な事が伝わる事が、中国を扱う上での面倒な点のひとつではある。

主管部門の変化

05年版と17年版の差として、国务院新闻办公室(国新办)から国家互联网信息办公室(网信办)に主管部門が変化している点も留意が必要だろう。なお、网信办は11年設立で国新办と同じく国務院の下部組織、設立の際の公布文にも「新たな別組織を作るのではなく、国务院新闻办公室に看板を足す」と書かれており、組織の序列は同等であろう。

 通常「看板を足す」方式は党系組織と政府系組織において広くみられる(実際上は同じものだが、共産党理論的には思想を指導する党と実務を処理する政府という住み分けになっている)。しかし国新办に関して特殊でかなり複雑なのは、思想と実務という二元化ではなく、実務組織であるはずの中央对外宣传办公室(外宣办)、国新办と网信办という3つの違った機能を持つはずの組織が同居している事であろう。

さらに、例えば国新办には一局から九局まで9つの業務局があり、五局の担当業務「インターネット上のニュース業務、ニュースサイトの計画と建設、インターネットニュースにおける国際協力と協業の推進」は、一般的には网信办の業務と理解されそうな(「国際協力」については知らないが…)内容であったりする。大組織にありがちな「別々の組織の下に重複した業務を担う部局ができてしまい、競争関係に陥る」なのか、「実態としてはひとつのチームが場合によって国新办と网信办の肩書を使い分けている」のか、これだけでは判断が難しい。

 そして人事上もよくわからない。网信办主任の庄荣文は新闻办副主任との兼任、新闻办の主任徐麟は単独でほかに役がなさそう。両者ともに中央宣伝部の副部長で…とこのあたりはきちんと党組織の事を勉強していないとよくわからないので、詳しくは水彩画先生のブログの関連エントリ「宣伝部副部長の序列を考える」をご参照いただきたい(結局「わからなかった」というのが結論のようだが)。

小まとめ:「許可証を持たない」「取材権がない」とは?

正直分かりづらく分量も多いので、一端振り返りつつまとめる。

  1. 政治や経済について報道・コメントする場合は、許可証が必要
  2. 許可証は3つの分類に分けられ、大まかには①すべてOK(通称”一類”)、②他サイトの転載だけOK(通称”二類”)、③新聞単位で報じた内容ならOK(通称”三類”)という報道可能な範囲の違いがある
  3. 「取材権」は許可証の有無を指すのではなく、正確にはその内上記の「一類=すべてOK」のメディアだけが持つ。ただし、これを持つのは事実上党系の中央メディアに限られると言っていい。
  4. そして「好奇心日報」など「取材権」を理由に停められたメディアはこの一類の資格が必要な行為を勝手に行った、ということになろう。

記者個人の資格:新聞記者証

たまにここから混同されている場合があるが、上記の「許可証」はあくまで「単位(=組織)」に対しての発行であり、個人の記者が記者として取材活動を行うためにはこの「新聞記者証」が必要だ。例えば政府の発表会や記者会見に出席するためにはこの記者証が必要になる。

ちなみに外国メディア及び外国人記者については当然メディア自身、及び記者個人はこれらの許可証を手に入れることができないので、違った仕組みが用意されている。これについては機会があったら別途まとめたいと思う。 話を戻して、この許可証については試験に合格すると受領できるもので、過去問であればネット上にも転がっている …一部を見ただけではあるが、とても「政治正確」なテストではある。 この記者証はネット媒体では上記「一類」の記者のみに支給されるが、伝統メディアの記者と共通の試験であるようだ(「三類」の場合は、伝統側の記者証を持った記者が取材し、それを転載するのでネットに掲載する事も問題ないということになる)。

主管部門のねじれともいえるが、この記者証の根拠となる法律は「新闻记者证管理办法」といい、国新办が発行主体になっている。つまり、ネットメディアについては网信办が会社を管理し、国新办が記者個人を管理するという二重構造になっているという風にも理解できるのだ。実務上は(上記のように主管部門自体明確にわかれているか怪しいくらいなので)問題はそこまで大きくなさそうだが。