18年秋に起きたファッションブランド「ドルチェアンドガッバーナ(D&G)」の大炎上は、日本のTVなどでも(なぜか?)かなり報道されたのでご記憶の方も多いかもしれない。そのドルガバが、当時騒ぎを広げたKOLを2019年初頭に名誉棄損で告訴していたことがわかった。

18年のD&G大炎上事件経緯振り返り

ご記憶の方も多いかと思うので簡単に。2018年11月、上海でのショーの宣伝のために公開された動画がその火元だ。下記は一部だが、パスタやピザなどのイタリア料理を女優が箸を使って食べるという下品な動画だった。

“Before BLM”の世界で起こったこととはいえ、どう見ても中国人をバカにしているとしか思えない、しかもそれ以外何が面白いのかもよくわからない動画だな、というのが当時も今も変わらない感想だ。

当然これは微博で公開即大炎上する。そしてそれを広げたのが(正確には彼らが拡げたわけではないのだが…)今回の被告であるDiet_PradaというInstagramのファッション系KOLだ。

当時すでに200万人ほどフォロワーがいたという彼らは、ドルガバの創始者でありトップのひとりであるステファノ・ガッバーナと誰かの会話を入手、自身のアカウントで公開した(上記)。ちなみにその投稿をよく見ると画面にやりとりの相手のアカウント名が映り込んでおり、この大騒ぎの火元にしては控えめな9000フォロワー程度で本当に業界とは無関係の模様。しかし有名ファッションブランドのトップが普通の人のDMに(内容はどうあれ)返事をするのってかなり驚きなのだが、当時から誰も驚いていた記憶がない。ガッキーにDMしたら本人が返事くれるかな

この発言が更に盛大に騒ぎに油を注ぎ、結局ショーに参加予定だった有名芸能人などが相次いでボイコット、契約していたモデルなども「今後一切仕事しない」などと声明を発してショー自体が開催不能になった。最初は「アカウント乗っ取られました」などという伝統芸能の披露に忙しかったステファノも結局最後は謝罪動画を出す羽目になった。

※このあたりの事情は当時なぜか日本を代表するクオリティメディア、市況かぶ全力二階建てに取り上げられた→ “ドルチェ&ガッバーナ全面降伏か、デザイナーの中国侮辱発言が中国市場消滅の危機に発展” 当時は元気だったなつよさんが色々細かく紹介している。

名誉棄損で起訴されたKOL

ELLEに掲載されたDietPrada運営のふたり

そのdiet_pradaが実は19年にドルガバ側から名誉棄損を理由に400万ユーロもの巨額訴訟を起こされていたことが分かったのが3月4日。アカウント運営者のTony Liu(トニー・リュー)とLindsey Schuyler(リンゼイ・シュイラー)が、「言論の自由を守る」という内容の答弁書を管轄裁判所であるミラノ民事裁判所に提出した、と発表したのだ。

訴訟にはイタリアの法律事務所とアメリカの非営利の支援組織が協力しているとのことで、マイノリティとして育った自らのバックグラウンド(リューは中国系アメリカ人)やジョージ・フロイド事件、ファッションセレブたちも大嫌いそうなトランプのレイシズムに彩られた中国への発言などにも触れるステイトメントになっており(こちらの記事に英語原文)、よくできている。恐らくフロイド事件の公判の直前というタイミングも、世論の風向きを考えてなのではないかと思わせる。

D&G側(というよりステファノ)としては、中国人を罵ったくらいでジョージ・フロイドと一緒にされても困るとでも感じているだろうが、物事は文脈に対する置き方でとらえられ方が全く変わる。

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ドルガバの最新のグローバルの売上を見つけることができなかったが、19年時点ではAPAC比率が前年比25→22%と落ちているとのこと。世界のラグジュアリー消費の1/3を占めると言われる中国にこれだけ反発され実際に国内大手ECほぼすべてから取り扱いを拒絶されてもこの程度しか落ちないのか、と思わなくもない。しかし当時から言われていたように、そもそもこの手のことでネット上で「愛国的」な言動を繰り返すのは、多くの場合ドルガバの顧客などにも元々ならない層なのだ…と言ってしまえば身もふたもないかもしれないが。
当然、今回の件で当然改めて中国ネット世論は炎上中。もはやドルガバにとって中国は「諦めた市場」なのかもしれないが、それにしても…という気持ちになる。ちなみに3月11日現在、ドルガバの微博アカウントには関連の投稿は行われていない。イタリア側でも特に公式の発表はないようだ(本件を報じたファッション系メディアの取材にも応じていない)。

ちなみにステファノの暴言というか引き起こす舌禍はかなり有名らしく、この件を取り上げたWWDでも実例が数多く紹介されている。被告の住む米国でも騒ぎになった中国でもなく、わざわざミラノで起こした訴訟の件もおそらくそうだが、このWWD記事にあるように根本的にはこの閉鎖的な会社が個人所有で経営者が絶対的な権力を持っており、しかも既に年老いて、外界で色々なルールや常識が変わっていることに気づけず、また誰もそれを教えてあげられていないのだろう。

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私が接したことのある芸術家の中にもしばしば「独特の世界観」をもった人がいた。そしてその強い個性がしばしば素晴らしい作品を産む面は否定できない。だがそれをビジネスとするのであれば、世界との接触をコントロールし芸術家を守るのも周囲の責任ではないだろうか。