中国はキャッシュレス社会である、といった報道が日本でも(ささやかに)盛り上がって久しい。これが中国全土に適用できることなのか等問題はあれど、少なくとも一定規模以上の都市であればかなりの割合の店舗でQRコードでの支払いができる事は確かだ。

それが本当にセキュアなのか、数桁のパスワードを入力しなくて良くなることが、QRコードで支払えることが本質的に利便性を上げている(or消費金額を押し上げる効果がある)のかというのは無粋な問いだと自覚しているので、深くは書かない。しかし腰の重い日本の金融機関がQRコード決済参入というニュースに象徴されるように、なんにせよキャッシュレスは中国に限らず、日本でも波になりつつあるのは確かなことなのだろう。

ただこれは「遅く来たクレジットカード社会」なだけ、とも言える。欧米で一般的なクレジットカードが時代と国情に合わせて電子決済になり、プラスチックのカードがQRコードに置き換わっただけといえば、だけなのだ。だからこれは中国が優れているという話でなく、インフラ切り替えの順番が来た中国が持っていた技術がQRコードであったにすぎない。

世界情勢を見るに、暫くの間は中国のターンが続くことは想像に難くない(中国の場合、「国が崩壊しなければ」といった留保が常に付きまとうが)。特に個人のプライバシーという煙たいものに付きまとわれる運命の認証系技術にとって、それを気にしなくて良い中国は楽園に見えているだろう。ではその楽園で次に育まれる技術は何なのか?

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ひとつの方向性として、「~レス」をさらに推し進め、携帯すら持つ必要のない状態ということが考えられる。もう支付宝をいちいち起動して数タップしなくてもいい!というわけだ。

中国に限らず、現在実現している技術にはいくつかの方向性がある。下の表は比較的わかりやすい各技術の比較表だ。ちなみに静脈認証のセールスのための表なのでその旨強調されているが、基本的に全ての技術に一長一短があり決定的なものはない。

日立ソリューションズウェブサイトより、生体認証の有用性と懸案

その内、顔認証が他と違うのは、専用の機器での能動的な認証が必要ないということだ。最近色々な国の入管で指紋を取られることが増えているが、あれをやらされると誰しも「別に犯罪者でもないのに」と軽い屈辱と不快感を覚えるだろう。そういったことがないのは思った以上に大きなアドバンテージのようだ(実はこの表に含まれていない歩容、つまり歩き方の癖を使った認証というのも存在するのだが、とりあえず省略)。

そういった良さの反面、顔認証はおそらく技術的な難しさから一番出遅れていた。しかし最近のAIやディープラーニングなどの発達によるものか、ようやく実用化も徐々に始まっており、中国では一部モールや店舗などで試験導入されつつある。

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では、顔認証はこのままQRコードのような圧倒的な普及に結びつくのか?というのが今回の文章の翻訳に至る過程だ。

材料にするのは知乎というYahoo!知恵袋の高級版のようなサイトに寄せられた質問に匿名の自称業界人が答えている文章の翻訳である。匿名でありこの人物の情報がどこまで正確かは保証できないが、一読した限りではかなり詳しく、また様々な角度から検討されているように感じる。かなり長いが、興味があれば読んでみて欲しい(内容が技術的な上に非常に口語的表現・誤字が多く苦労した)。

結論から書くと、どうやら少なくともこの人物の視点では、現在の顔認証技術はあまり大きな夢を描けるような技術をベースにしているのではなく、一時期のAI(もしかしたら今も)のような「真面目な研究者は面白いことをいわないので金を集める為にホラを吹く人間が得をして、結局業界全体が信用を失う」状態のようだ。

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なおここではあまり触れられていないので半ば脱線だが、僕はこうした認証系(指紋であれ顔であれ)の最大の課題は技術それ自体の発達ではなく、その比較のための素材をどう入手するか、データベースをどう整備するかであると考えている。その中で、顔の情報はもっともノイズが多く、また取得自体が難しいだろう。

例えば中国であれば国家は身分証と紐付いた全国民の顔情報を持っている(今回訳していて一番驚いたのが、このデータベースが以前は私企業に対して公開されていたことだ)が、それを民間に使わせる義理はないし、プライバシーなどほぼない中国とはいえ、勝手にやってしまっては流石に国民はそれを歓迎しないだろう。また、携帯電話番号くらいならともかく、顔写真や指紋、虹彩情報などは市場(闇であったとしても)で買うことはかなり難しいだろう事を考えると、現実的には利用者側が任意に提供した情報をベースに比較することになる。
そうなるとかなりはっきりしたメリットを提示できないとユーザはこうしたセンシティブな情報を提供したがらないだろうということと、文中で触れられているように規格に正しく準拠しない(=認証の役に立たない)写真情報が集まりがちになる。また、カバー率を上げることも難しい。

指紋や虹彩など、鍵の代替品として使う、または銀行のような高いセキュリティが必要な用途の場合は人数も限られる(特定される)上に目的も明確なため、必要性もわかりやすく同意は取りやすいだろう。しかし「厳格な条件に沿った顔写真を5枚提供すればお会計の時にQRコードを出さなくても済むようになるかも」では、人々にそのめんどくさい手続きを踏ませるためのインセンティブとしてはまったく不足だ。この点をどのように解決するかは非常に興味深いと思っている。

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顔認証、どの会社が最も優れている?

出典: 人脸识别哪家强?(知乎  2018/2/13)

Q.

  1. 顔認識技術において、どの会社が比較的いいか?例えば:云从科技,Face++, sensetime, 依图科技 等
  2. 公開された第三者評価の方法はあるのか(自分で自分の会社がすごいといっても何の意味もない)

A.

私は顔認証に関連する業務に従事していた(17年末時点で一端この業界を離れている)、この人工知能への投資の波が来た後、多くの顔認証会社はすぐに自分の顔に何トンもの金を貼り付けたくてたまらない(訳注:自慢すること、見せびらかすこと)様子だった。とある友人が面白いことを言っていた。

外部はSFだと思い、内部はみんな絶望していて、にも関わらず色々な業界の上層部が熱い視線を向けている

多くのAI会社は今焼銭(猛烈な勢いで資金を使う)段階にいて、先行きは非常に不透明だ。百度自動運転システムとGoogleの画像認識システムが無料で公開されていることを見れば将来的には無料が趨勢になると思われるが、彼らとて既に数百万米ドルを投入している。そして一端資本が投入されたとなればメディアを連れてきて一緒に騒ぎ立てることが必要で、そうでなければコストを回収することなど出来ない(AI業界に来て初めて、投資家はほとんど何もわかっていないのに適当に投資しているということを知った)。

顔認証はひとつのモジュールであり、独立して使われることは非常に少ない(独立の業務レイヤーデザイン)、大部分は元々ある自身のソフトウェアを強化するため、例えば顧客の顔認証(以前のパスワード方式をベースに1レイヤー追加)、顔検索(人が行うよりも高効率、撮影画像のフィルタリング)、似た顔の推薦(例えば結婚紹介、整形)、しかし需要が多くないこと、そして利益が少ないことから、既に死んだ会社も大量にある。

現在、関係業界の会社は既に、メインのビジネスモデルすなわちプロダクト販売、ライツ販売、サービス販売、バックヤードの流量マネタイズという4つのビジネスモデルの中で、どの分野においても1社も本当に稼げている会社は存在しない(よく見られるのは顔認識SDKの授権とAPIサービス)ということを知っている。私は業界人として、いわゆる絶望は以下の原因だといえる

  1. アルゴリズムがどんなによくても所詮はスパイス程度のものであり、結局はエンドプロダクトの質による。
  2. 使用のための敷居、コストが低い。現状では低価格帯商品へ搭載されるアルゴリズムの価格は500元/セット程度(1:1のリモートインターフェイスはフロントエンドの授権を転用している)。市場競争の結果がこの低価格だ。

顔認証は、現段階ではある種のギミックにしか過ぎない。経費を申請するにも細かく分割しなければいけないし、国による様々な補助金に頼っている状況である。実際にカネを稼いでいるのは中間業者で、顔認識技術を提供している会社では1社もない。先々新しいビジネスモデルが現れるかも不透明だ。

——–以下が質問に対する回答——–

テーマが少し広すぎる(利益が多いのか、アルゴリズムが優れているのか、もしくはアプリが優れているのか?)。顔認証技術を測る基準は多岐にわたる。例えば1:1,1:N,N:Nそれぞれの方式ごとに基準はみな違う。例えばアルゴリズムの精度において、国内外の顔認証技術の多くはオープンソースのOPENCVなどをベースに新しいルールを加えたものだ(ディープラーニングにより積層計算)、会社同士の識別精度の違いは小数点でしかなく、99.6%を99.7%に上昇させる意義はおおきくない。例えばLFW(訳注:世界で最も権威のある顔認証評価システムといわれる)で覇者と呼ばれることで世界一流などというなら、必ず業界内の笑いものになるだろう。

顔識別アルゴリズムの能力には、いくつかの指標がある。すなわち本人拒否率、他人受入率、通過率、正確率だ。

まず、顔認証の流れを見てみよう。

(訳注)左側のカメラ、写真、ビデオから顔情報を取得、右側の顔情報ビッグデータから特徴点のモデルを算出。それらを引き当てて顔の判断を行う

顔認証の最も難しい点は、多様な光線にさらされている人の顔の情報を処理するアルゴリズムで、特に現在のようなモバイルの時代において、撮影されるのはまだらな木の陰かもしれないし、ほの暗い街灯の下、そして深夜のタクシーの車内かもしれない。これがアルゴリズムのロバスト性に与える影響は非常に大きい。同時に写真やビデオに対しては欺瞞への対策も必要だし、二次イメージングの光線汚染などの問題も考慮されなくてはならない。

ここからは、顔認証技術における頻出の問題について紹介しようと思う。

1:1顔認証アルゴリズムは主に身分照合に使われる

1:1顔認証技術は主に画像処理技術を用いて画像の中から人の特徴点を抜き出し、生物統計学にもとづいて数学モデルを確立し、顔の特徴点モデルを作る。そして顔の特徴点モデルと被測者の顔情報を用いて特徴分析を実施(無数の幾何学的な特徴点から解を求めると仮定しても良い)、分析の結果に基づきひとつの相似値を導出し、この値によって同一人物か否かを算出する。簡単にいえば、A/B二枚の写真を比較し、計算した数字によって条件を満たすかどうか検証するということだ。

我々はこの値のことを閾値と呼んでいる。1から100まで(100は極端すぎるが)の多くの顔認識会社は彼らの製品なら簡単かつ正確に通れるというがそれは中途半端な説明で、例えば閾値が5以下に設定された場合、大部分の画像を同じだと判定されるし、逆に95以上に設定された場合、同一人物であっても、違う背景環境で撮った写真はすべて却下されてしまう。従って、もしどこかの会社がアルゴリズムの正確性について何かすごそうなことを言っているのを聞いたら、まずどんな閾値を使ったのか、同じ人の通過率はどれくらいか、違う人の通過率はどれくらいか訊いてみると良い。

従って、閾値について説明しないアルゴリズムは何の価値もない。

1:1は高速の顔認証を提供する、身分照合の新しい方法を提供する。例えば受験者確認、会社の出勤確認、各種の証明書における本人確認など。これらの写真は特に統一の規格に則って撮影されているわけではないので、ずっとあまり使われてこなかった。現在の市場においては3つの方式がある。

  1. ユーザーが自分で写真をアップロードする方法。例えば支付宝で採用されている方式だが、この方式の最大の問題は、写真の質が基準に達しない確率が非常に高いということで、写真を撮った時の光線、顔の角度などの要素が写真の質に影響し、結局のところその後の大量の顔情報の管理に対して不利に働く
  2. 身分照合用の機器を利用し身分証に使われている写真を読み込む。残念なのは、この写真の質が極端に悪くサイズが2K程度しか無く、多くの写真の顔の質は非常に低い。しかし現在最も多く使われている方法でもある。
  3. 公安部が管理するNCIIC(訳注:公安部の一部門、全国公民身份证号码查询服务中心)の顔情報対比インターフェイスを利用する(网纹写真のインターフェイスでないことに注意、既にこのインターフェイスは公開されていない。)使用する時は顔情報対比インターフェイスを利用する。このデータベースを利用する権限を持つのは現在のところ数社しかない。顔認識会社の中では1社のみが提供しているようだが、ここでは触れない。BATはいずれもその権利を持っていないようだが、もし他に情報があれば補完して欲しい。

実際上、対比対象の問題を解決するのは、オーソライズされた写真データを元にすることが鍵で、多くの会社はNCIIC(公安部のひとつの事業単位)の网纹写真(訳注:画像検索などでわかるが、元々ある写真になんらかのパターンの透かしを入れたもの)インターフェイスを利用し、网纹を消す処置を施した上で使っていた。しかし同時に顔の特徴点の多くも失われることになり、成功率は6割程度にとどまっていた(6月に公布された网络安全法により、現在のところ网纹写真のインターフェイスは銀行システム以外の用途には解放されておらず、その他は全て違法となり使用した場合取り調べの対象となる)

1:1顔認識アルゴリズムが利用される主要なシーン

・証明書がない状況でどのようにこの人がXXさんであることを確認するか?

(略)多くの場合、あなたが身分証を携帯しておらず警察があなたの写真を確認することが出来ない場合、どのようにあなたがXXさんであることを証明するのか?これは以前から法執行上の問題点だった。もし身分証をなくしてしまい外の天気が悪い場合、どのようにホテルのチェックイン手続きをすれば良いのか?これが身分確認の問題だ。公安部は身分証のコピーをネット上に保存することを推薦しており(訳注:身分証を携帯しなくてもネット上に保存した顔情報を用いて顔認証ができるとのこと、ただし読み取り設備自体設置されている場所は非常に少なく、実際上普及しているとは言い難い)、そうであればこのような問題は解決される。外で身分を証明する際、身分証に頼る必要がなくなるというのは非常に便利だ。

しかし、1:1顔認証アルゴリズムの非常に大きな問題は、どこででも見ることができる人の顔はある種の公開鍵のようなもので、例えばジャック・マーは顔認証によるレストランを考案したが、もし携帯の認証コードがなければ(携帯電話自体ひとつの実名認証で、同時に顔情報との突合を行うことで1:1に対して非常に便利)、すぐに食い散らかされてしまうだろう。しかし携帯を使っているのになぜまた顔認証しなければいけないのか?

他には高級な会所ではVIPの通報機能を提供したい場合もあるが、下に書く1:NやN:Nの顔認識アルゴリズムがつかわれる事が多い。では、そんな問題の多い1:1対比アプリケーションについて、どこが強いのかがまだ聞きたいだろうか?

・例えば遠隔地の顧客の身分をどのように確認するか?

例えばネット上で飛行機のチケット、バスなどの予約、病院の診察番号、政府による恵民プログラム、各種証券、電信、インターネット金融などが利用する。従来の身分確認方式は非常に打倒でなく(例えば支付宝はアカウント登録が必要だったし、知られていないSNSの中には自分の身分証写真をアップロードする必要があるものもある)、このような資料は非常に簡単に盗まれてしまう。下の図は百度のイメージ検索のキャプチャだが、これ以外にも最近女子大生の裸の写真がアップされた。犯罪者はこうしたセキュリティホールを利用しており、ハッカー集団は2000万人分の情報を保有していると豪語しており、こうした方法で金融のプラットフォームをひとつ完全に潰すことも彼らにとってはまったく問題にならない。

多くの金融系会社は自社アプリの中に顔認証SDKを導入したがるが、これをバイパスするのは非常に簡単なので、さらに生体認証を追加するケースが見られる(現在よく見られるのはランダムな動作を真似させる方式)。しかし例え生体認証を加えたとしても、バイパスは可能だ。例えば下記に記す2つの方法がある。
  1. 顔を模したお面を用意する
  2. 顔情報のリアルタイム生成

一つのことを成し遂げても結局他の方法が見つかってしまうように、この場合、他の角度での認証も行ってはじめて身分を確認できる。そうでなければリモートでの攻撃にさらされる恐れがあるし、この攻撃はそこまで難しいことではない。ではこの部分でどの会社が実際に強いか聞きたいだろうか?

1:N顔認証アルゴリズムの主要な用途は顔検索

1:N認証と1:1のA/B比較との最大の違いは、A/B, A/C, A/Dなど数多くの1:1の計算が必要な点で、この場合の最大の問題は、BCDと比較対象が増えれば増えるほど計算量が増え処理が遅くなることと、総数が20万を超えたあたりで多くの似た結果が出現することだ(20万人という大きな数なので、多くの類似が出現することになる)。従って結局人の力で補う必要がある。

以前映画の中で「スカイネット」なる識別システムが稼働している様子を紹介していたが、これは理想の状況を描いたに過ぎず実際の運用上は多くの結果が羅列される上に、その1位に表示されるのは必ずしも求める人ではない(訳注:ここでスカイネットは冗談として語られているが、同名の天網はAIを用いて犯罪者を追跡するシステムで実在する。関連の記事として例えばBBCによる実験の様子を報じた「中国AI監視システム、わずか7分間でターゲットを「確保」」)。

1:Nの顔認証アルゴリズムは主に犯罪捜査において容疑者を捜索する時や、失踪者捜索、1人に多重に審査し、相似度に従って相応の結果を導出することに使われる。これによって審査の効率を大幅に向上させることができる。他にも失踪した子どもを探すためにも使うことができる。

この種のシステム導入のためには2つの条件がある。

  1. BCD基本データベース(例えば1000万人)
  2. 計算のための強力なハードウェア

1:Nを同時に行えばそれがN:Nで、同時に多くの写真の検索リクエストに応えることになる。検索にかかる時間はハードウェアアルゴリズムとの相関が非常に強いのだが…この分野ではどの会社が強いのだろう?

N:N顔認識アルゴリズムはリアルタイムに多くの1:Nを検索し計算すること

N:Nのアルゴリズムは1:Nのアルゴリズムをベースにしており、インプットを増やし、より多くの結果を求めていることになる。例えば動画の各フレームの処理など、サーバに対する要求が非常に過酷で、現時点ではアルゴリズムシステムの出力レートは非常に限られている。

主な制限は

  • 大量の顔写真の解析には大量の演算が必要(現時点では、収集端末が直接解析することは少なく、写真は基本的にトリミングされる)
  • 大量の顔写真のアップロードにはかなりよい通信環境が必要(よく見られる720Pの監視カメラの最小画像であっても20Kになる)
  • 大量の顔写真のバックグラウンド検索は多くの演算を消費(国内主流のメインフレームの例だと、最多で24のカメラをカバー)
(訳注)標準的な720Pの画面比較。 顔の大きさが30×40ピクセル以上であれば顔検索機能が使え、目の間が50-80ピクセルであれば顔識別機能が使える
このことから分かる通り、本当に「スカイネット」式の顔検索を実現するためには、数億に及ぶカメラの画像処理が必要であること、またデータベース検索の負荷の問題を考える必要があり、これは普通の会社には解決できない。いくつかの小区や高級な場所はVIP客の認識とおもてなしのためにこの方式を好むが、しかし実際上はカメラ位置、角度、また多人数が同時に入場した場合に問題が発生する。また顔情報のデータベース量も限られているため計算時間は非常に長くなり、ユーザ体験は非常に悪いものになりかねない。ある種のいわゆるおもてなしマシンはいくつかの写真に限られており(単に例えば会社の上層部の人が見に来た時に見せる用途)、実用上の価値は大幅に割り引いて考える必要があり、サングラスや帽子をかぶっていたらもうそれで識別できず、結局のところキーとなる特徴点の採集には限りがある。では、そんな限りのあるこの分野が誰が強いのだろう?

写真アプリや生放送アプリの顔へのリアルタイム加工

国内の多くの娯楽アプリが顔写真追跡処理を行っているが、これは技術の着眼点としては優れている。しかしインストールのパッケージのサイズが大きくなりがちなのと、現在採用されているのは単なる追跡技術で最下層レイヤー識別でしか無く、もう少し複雑な処理をクラウド経由で施そうと思うと、サーバーのアルゴリズム解析速度及び回線状況が追いつかず、結果としてビジネスモデルとしてとても信頼性が高いとは言えない。

顔認証技術の発展方向

三次元情報との結合:二次元と三次元情報を融合させ、特徴点にさらなるロバスト性を加える

多くの特徴点の融合:単一の特徴点では複雑な光線や姿勢に対応できない

大規模な顔情報比較: 大量の顔情報データによる比較と検索

ディープラーニング: ビッグデータの利用により、ニューラルネットワークの強大な学習能力を発揮

ビデオのよう(に大量)なN:Nの突合の場合、通過率を高めたいと思うと多くの場合正確率を下げる方法を採る。アルゴリズムのキューの数を減らすのだ。この方法はある種のコンテストにおいて誤認識率を減らすために正確率を大幅にあげることがあるのと同じことだ。従って突合の過程においては、速度効率を追求するのか最高の正確性を追求するのか、少なくとも1つのルールを守るべきだ。

顔認証アプリの発展の方向性

顔認証というのはひとつのスパイスにしか過ぎず、星の数ほどある業務ソリューションのなかのひとつのモジュールにしか過ぎず、その他は全て業務レイヤーの開発の問題になる。実用上、技術もそこまで高い必要はなく、もし必ず本当に人工知能に組み込むとしたら、個人的にはロボットによる視覚的インタラクションに最も使用される可能性があると思う。

顔認証アルゴリズムのアプリ分類派閥図顔認証が解決できる問題

個人的には、将来的に顔認証については多くのデータが更に真実になると思っているし、ソーシャルエンジニアリングのテンプレートを利用することで多くの分析と改良が可能だろう。
例えば近い将来、科学者が顔認識によって人の健康状態、感情そして犯罪傾向に至るまで識別できるようになるかもしれない。ひょっとするとビッグデータとの結合により、過去の顔情報分析の伝統的な方法が全面的にアップグレードされ、占いの先生がみな失業するようなこともあるかもしれない。さらに多くのロボットのインタラクション、ドローンが撮影した画像を解析して目標を分析、セットするなどのSF的な場面も夢ではない。

アルゴリズムの核心R&D状況に関する議論

基本的に、国内のすべての会社は自社のアルゴリズムは超すごいと言い張る。では実際のところ、いくつの会社が顔情報に関する革新的なアルゴリズムをもっているだろうか?国内においてアルゴリズム研究に従事するプログラマーは現状(2016年)では100人に満たない。
しかしこの問題は大きなものではない。例えば中国科学院計算所の山世光教授はSeetaFaceというオープンソースのプログラムを開発したし、Googleやマイクロソフトが新しいアルゴリズムを公表するかもしれないし、基盤のない会社が苦労してOPENCVをベースにアルゴリズムをアップグレードさせる必要はないのだ。現在のアルゴリズムはみな98%以上に達し、この点の違いは既に重要ではなく、アルゴリズムの核心も問題ではない。焦ることはない!商品は実用の段階に入っており単にアルゴリズムに頼るのではなく、実際上の使用について考慮しなければいけない。

いま顔認証を手がける会社は非常に多い。アプリでは数百社あり、国内では百度を見て、融資状況を見て、各種の報道を見ればわかる通りどれもたいした違いはない。ただきちんとまじめにやるべきことをやっている会社は非常に少ない。国内のテンセントやアリババも手がけている(アリババの支付宝に使われているのは自社開発のアルゴリズムだが、特別目立たぬように振る舞っていて、名声を自社が投資の投資先に与えている。アリババが投資しているのは1社にとどまらない)国内の会社は大風呂敷を広げるだけ、コンセプトを語るだけの会社が多すぎてどうしようもない。

  1.  Identix(アメリカ)
  2. Bioscrypt(アメリカ)
  3. Cognitec Systems(ドイツ)
  4. Herta Security(スペイン)
  5. NEC(日本)
  6. Softwise(日本)

以上が老舗の顔認識会社だ。アメリカのidentixは他にも様々な認証系(指紋、虹彩)のサービスを提供している。またBiocryptは指紋認証の出勤管理システムから始まり、政府系市場のシェアが大きく、ドイツのCognitecは主に政府プロジェクトの顔認証システムを手がける。NECはロボットの視覚認識で、スペインのHertaは学術的な雰囲気が濃厚な会社で、それ以外にはいくつかのイスラエルの会社がある。これらの会社の大部分は政府のセキュリティ関連の仕事を手がけているが規模は小さく、利益や投資は小さく報道で見ることも少ない。Facebook社がこの領域に進出したのは、人々のグループ分けとアプリの最適化のためだった(ターゲッティング広告)、プロジェクトは全て会社の本来の業務のある種の補完のために実施されている。

ということで、この文章の最後に至って私が言えるのは

もしどうしてもどの顔認証会社が最高か言う必要があるのなら

むしろどこの会社の大風呂敷がすごいのか聞いたほうがマシだ。

どのみち未来の競争は現在戦われている戦場で起こるのではないのだから。

雷军(訳注:小米創始者)の言葉を借りるなら「でたらめな事をする人間が減れば、みんな安心して事を成すことに集中できるだろう」ということだ。

AI投資バブルの浮き沈みはかえって人々が真面目に仕事をすることから遠ざけた。なのでこの文章を書くために時間を使ったのはちょっと冷水をかけたかったからで、同じ業界の人々が真面目に社会に対して価値があり、そして投資回収ができるプロダクトを産んでほしいと期待したからだ。

現在しばしこの技術領域を離れることを決意したのは、主に方向性が見えないと感じたからだ(リスク投資家は方向がないことが最もいい博打の機会だというけれど)、ロボット支払いとマイクロコンピュータへのアルゴリズム実装を、もう少しだけ待とうと思う。もし質問があれば個人的なメッセージも歓迎する。