これまでも何度か取り上げているように、中国における外国メディアの取材方式は非常に独特で、言語や規制などの障壁もあり、それを熟知している中国人の「アシスタント」に大きく頼っているのが現状だ。彼ら無しで取材は成り立たない状況でありながら、いくら働いても署名記事に名前が記されることはなく、一般の読者にその貢献が認識される機会はほとんどない(おそらく報道機関の本社ですら、その重さを正確にわかっている人間は多くはないのではないか)。そしてなにより、中国人であるがゆえに、彼らは外人記者たちが負わないリスクを負う羽目になる。

今回紹介するのは、そうした彼らの現実を紹介した記事だ。著者の肖冰は元ワシントン特派員とされているが、どのメディアに属していたのかは不明…という意味では若干信頼性が謎な文章ではあるが、内容は私が知る内容と矛盾しているわけでもなかったので、翻訳して紹介したいと思う(確認できたら追記する予定)。また関連記事に過去のいくつかのポストをぶら下げてあるので、あわせて読んでみていただきたい。

外国メディアと中国の間で:姿なきニュースアシスタント

出典: 田间 【特稿】在外媒与中国之间:隐身的新闻助理(2025/12/16)

中国に関する外媒(外国メディア)の報道において、長年存在しながらも外部の世界からはほとんど見られることのない人々がいる。彼らは署名記事を書くジャーナリストでも、カメラの前でインタビューに答える対象者でもない 。彼らは「ニュースアシスタント(新聞助理)」、英語で一般的には「フィクサー」と呼ばれ、ニュース制作の過程で不可欠な役割を果たしている 。中国において、海外メディアが社会にアクセスし、取材を完結させるための窓口となっているのは彼らであることが多いが、彼らはリスクや制限、そして職業上の苦境の間を慎重に渡り歩かなければならない 。

「かつて、ある取材対象者が家族から止められ、突然インタビューを拒否したことがありました」と、中国で外媒のニュースアシスタントとして働くW氏は自身の経験を語る 。「私は記者の動揺を即座に鎮めつつ、取材対象者を説得するために全力を尽くさなければなりませんでした」 。彼の口調は淡々としており、こうした突発的な緊急事態が日常茶飯事であることを示唆している。

「また別の時には、法執行機関による抜き打ち検査に遭遇しました」とW氏は言う。「余計なトラブルを避けるため、冷静さを保ち、適切な理由を説明するしかありませんでした。また、予備の計画を立て、その場で取材対象者を調整する必要もありました」。W氏にとってこれらは、長年のアシスタントとしてのキャリアの中で経験した数え切れない危うい瞬間の、氷山の一角に過ぎない。リスクに関する配慮にもとづく田間との協議の結果、W氏は仮名で取材をうけた 。

報道へ参加しているのに署名できない

この中国籍のW氏(業界外ではよくフィクサーと呼ばれる)は彼がほぼすべての記事の誕生に関わったとしても、これまで一度も記事に署名(バイライン)を載せたことがない 。それどころか、政治的あるいは社会的なリスクを考えると、彼は匿名でしか取材を受けることが出来ない。

取材対象者への連絡から翻訳、取材許可の申請、海外記者への現地の文脈や習俗の解説、そして緊急事態への対応に至るまで、W氏をはじめとするニュースアシスタントの仕事は、海外の特派員による中国国内での実地取材にとって極めて重要である 。

中国伝媒大学ジャーナリズム学部の曾慶香(Zeng Qingxiang)教授は、「ニュース・フィクサー:国際報道における『透明人間』」と題した論文の中で、「業界では一般に、ニュース・フィクサーはプロのジャーナリストと取材対象者の間の仲介者であると考えられている」と指摘している 。教授によれば、フィクサーは一定の報酬のもとに車両の手配、ホテルの予約、取材対象者の探索、インタビューの実施、翻訳とコミュニケーション、そして危険な環境下での記者の安全確保といった業務を担う。しかし教授は同時に、「フィクサーと記者の関係にはある程度の緊張が存在する。雇用関係を超えて、彼らは互いに学び合うと同時に、署名のクレジットを巡って競合することもある」とも記している 。

「最初は翻訳やメディアの雑用をしていましたが、その後、外交部が指定した労働サービス会社を通じて外国報道機関で働き始めました。北京を拠点とし、海外記者の取材上の問題を臨機応変に解決する手助けをしていました」とW氏は語る 。通訳・翻訳だけでなく、取材対象者への連絡、背景資料の収集、取材場所が当局によって許可されているかどうかの確認といった、事前の調整業務も仕事の多くを占めていた 。

『常駐外国報道機関及び外国記者取材条例』第18条は、常駐外国報道機関及び外国記者は、外事サービス単位(外事服務単位)を通じて中国公民を補助業務のために雇用できると規定している 。これらの外事サービス単位は、外交部または地方政府の外交事務弁公室が外交部の同意を得て指定するものである。この制限により、海外メディアは中国国内で現地スタッフを直接雇用することができない。さらに、雇用契約上の役職は「ニュースアシスタント(新聞助理)」または「ニュースアシスタント人員」に限定される 。

記者ビザを持つ中国在住の海外特派員とは異なり、ニュースアシスタントはジャーナリストとしてインタビューを行ったり記事を書いたりすることはできず、給与や福利厚生も派遣契約の下で労働サービス会社を通じて提供される 。

この制度設計により、フィクサーは永続的にジャーナリストとしての正式な身分の外側で働くことになる 。彼らはジャーナリストにはなれないが、ジャーナリストの仕事を遂行している 。彼らはニュースの収集・編集権(新聞採編権)を持たないが、ニュース制作のバリューチェーンの中でも最もリスクの高い部分を担わなければならないのだ 。

W氏にとって、この状況は単に業界の現実である 。北京の外国メディア支局で働くために外事サービス会社から派遣された初日から、彼は自分がジャーナリストではなく、ニュースアシスタントにしかなれないことを理解していた 。それでも彼は、フィクサーが行っている仕事に対して、より大きな敬意と認識が払われるべきだと感じている。

「なぜならすべての報道の成功は、フィクサーの調整業務、判断、そして保護に依存しているからです」と彼は言う 。

高ストレス下での職業的生活

W氏が自身の役割のリスクと重みをより深く実感したのは、2003年初頭のSARS報道の時だった 。「地壇病院に連絡して取材を申し込みましたが、拒否されてどうしたらいいか考えていました」とW氏は振り返る 。「外国人はどこから手をつければいいか分からなかったので、私が解決策を見つけなければなりませんでした。その後、北京の数人の学者にインタビューし、それから北京郊外の病院へ行って消毒の状況について取材することを思いつきました」。

W氏は、当時SARSが国家機密に指定されており、海外メディアへの取材は開放されていなかったことをはっきりと覚えている 。彼はフィクサーとしての任務遂行と、明白な「レッドライン(禁忌)」を避ける必要性との間で、慎重に道を探らなければならなかった 。

それから年月が経った今も、こうした緊張と圧力は続いている。

「正直なところ、何度も辞めようと考えました。この仕事は非常にストレスが多く、リスクが高いと感じるからです。しかし、私をここに留めているのは、『重要な何かを外部の世界に伝える』という達成感です」と彼は語る 。

この達成感は、重大なイベントの際に特に強くなる。ある数万人規模の抗議活動の取材中、W氏は声を上げる意思のある取材対象者たちに連絡を取った 。地元の人々は海外メディアを信頼しており、自分たちの声を伝えてくれるのは海外の記者だけだと信じていた、とW氏は回想する。「その瞬間、この仕事の重みを感じました。これは単なる職業ではなく、責任なのだと」。

しかし、リスクは常に影のように付きまとう。「法律上、私たちはジャーナリストではありませんが、現場でリスクに遭遇した時は、ジャーナリストと同じように立ち向かわなければなりません。私には海外記者としての保護はありません。レッドラインを越えないよう、細心の注意を払う必要があります」とW氏は言う。

中国のフィクサーにとって、危険は抽象的な概念ではない 。米国に拠点を置く非営利団体「ジャーナリスト保護委員会(CPJ)」は、海外記者が中国当局を怒らせた場合、最悪でも国外追放であるが、中国人のニュースアシスタントが当局を怒らせた場合、どのような報復を受けるか予測がつかない、と以前指摘している

内外の強い圧力にさらされて

香港中文大学ジャーナリズム・コミュニケーション学院の方可成(Fang Kecheng)准教授は、中国の規定上は「アシスタント」と呼ばざるを得ないが、彼らがプロのジャーナリストとしての仕事を遂行していることは疑いようがなく、しかも彼らの方が現地事情に精通していることが多いと述べる。「彼らは中国の状況をより深く理解し、言語をより流暢に操り、現地のSNSプラットフォームにも詳しいのです」「実際、多くのインタビューは、これら『アシスタント』と呼ばれる人々によって独立して完結されています」。

しかし、フィクサー・コミュニティが直面しているのは、国家の統制による圧力だけではない。海外メディア組織内部に根深く存在するパワーダイナミクスや暗黙の民族的偏見、そして突破困難な「職業上の天井」も課題である。

「編集者や上司は往々にして西洋人で、彼らの方が大きな意思決定権を持っています」と方准教授は指摘する 。「もちろん、彼らにも理由があります。結局のところ、これらの外国メディアは西洋の読者にサービスを提供しており、自分たちの方が読者をより理解していると主張するでしょう。市場の観点から言えば、彼らの編集上の判断が必ずしも間違っているわけではありません」。

とくに2020年以降、米中緊張の高まりやパンデミックの発生、そして海外メディアに対する当局のネガティブレッテル貼りキャンペーンにより、海外特派員とその中国人助手に対する大衆の敵意は劇的に強まった 。これによりフィクサー・コミュニティはより直接的に公衆の監視に晒され、世論の中心に立たされることとなった 。「リスクも高まっています」と方准教授は言う。「一方で関係部門から注目されるリスクがあり、他方ではSNS上での嫌がらせという、より明白なリスクがあります」「例えば、ニュースアシスタントが微博や小紅書で取材依頼のDMを送ると、それが晒されてオンライン上での攻撃の引き金になることがあるのです」。

大きなリスクがあるにもかかわらず、フィクサーの仕事には「軽い瞬間」もある。「例えば、海外記者は特定のデリケートな場面を勝手に撮影してはいけないことや、政府取材において何が禁止事項であるかを理解していないことがあります。私は常に彼らに注意を促さなければなりません」と、W氏は苦笑しながら語る。「また、海外記者は取材対象者に質問を畳み掛けることがありますが、家族の経済状況などについて厳しく問われることを好まない対象者もいます。そのような時私は記者の代わりに、これは経緯を理解するために必要な質問であり、必ずしも記事に掲載されるわけではない、と説明しなければなりません」。

職業上の圧力やリスクを超えて、この仕事は私生活にも影響を及ぼす 。「急な出張や残業が多いため、家族から理解を得られず、安全面を心配されることもあります」とW氏は言う 。「友人たちからは、いつも移動ばかりしていて、なかなか集まることができないと思われています」。

香港の例外と変化

ニュースアシスタントが置かれている窮状は、中国本土に限った話ではない 。かつては言論の自由が保たれ、メディアに対する広範な保護が提供される「安全な避難所」であった香港も、その開かれた環境を失ってしまった。

2020年に施行された香港国家安全維持法(国安法)は、スパイ活動、外国勢力との結託、国家機密の窃取を重大な犯罪として挙げている。その4年後、香港基本法第23条の制定により、国家安全保障に関わる罪の範囲はさらに拡大した 。法律や規定が現地の記者やニュース助手に対して明示的な制限を課しているわけではないが、法的解釈と適用の曖昧さが、否定しがたい抑止効果を生んでいる 。2024年、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は内部メールで香港事務所をシンガポールに移転することを示唆し、この動きはAFP通信など複数のメディアによって確認された

方准教授は、香港では中国籍ニュースアシスタントはジャーナリストとして働くことは可能だが、国安法以降そのリスクは激増しており、海外メディアが提供できる保護は「極めて限定的」であると指摘する。

2020年には、北京のブルームバーグに勤務していた中国籍のニュースアシスタント、範若伊(Haze Fan)が国家安全部の職員に連行された 。彼女は2022年に釈放され、2024年に香港でジャーナリストとして働こうとしたが、ビザの発給を拒否された。

「国境なき記者団(RSF)」の2025年版世界報道自由度指数において、中国は180カ国中178位にランクされており、指数発表時点で123人のジャーナリストが拘禁されている世界最大の記者投獄国であると記されている。同指数で、香港の報道の自由度も140位まで下落した。

RSFアジア太平洋事務局のアドボカシー・マネージャー、アレクサンドラ・ビエラコウスカ氏は、「このような環境下で、独立した報道や現地のフィクサーによる業務は、事実上不可能であり極めて危険なものとなっている」と述べる。「彼らは頻繁に嫌がらせ、脅迫、強要の対象となり、逮捕、強制尋問、あるいは当局者との面会をちらつかせた脅しを受けることも少なくない」。「警察や政府部門は、彼らが海外メディアと協力するのを阻止したり、あるいは国際的な同僚について報告するよう強いたりすることが増えている」 。さらにビエラコウスカ氏は、「これらに加え、フィクサーは他の市民から『売国奴』というレッテルを貼られ、暴言を浴びせられたり社会的疎外を経験したりすることも多い」と付け加える 。

現実における脆い保護策

正式な記者ビザを持つ海外記者とは異なり、中国現地のニュースアシスタントは事実上の法的空白地帯に存在している 。彼らの安全確保は、主に所属する報道機関や国際社会からの支援に依存している 。

ビエラコウスカ氏によれば、RSFによる直接的な支援に加え、ニュースアシスタントや現地スタッフの安全は、緊急時に介入できる地元の弁護士ネットワークによっても支えられているという 。2021年以来、RSFはニュースアシスタントを含む30以上の中国の報道機関やジャーナリスト1500人以上に対して財政的な支援、あるいは彼ら専用の安全確保やレジリエンス、職業的専門性に関するトレーニングを提供した。

ビエラコウスカ氏は、外資メディアがニュース助手を真に平等なパートナーとして扱い、彼らが置かれている特有の文脈を理解した上で、専用の安全計画や緊急対応策を整備すべきであると訴える。「権威主義的な環境において、当局はしばしば現地の助手を脅迫したり懐柔したりしようとする。これは彼らの独立性と個人の安全に対する直接的な脅威となる」と彼女は述べる。最も重要なことは、現地の助手と国際的なジャーナリストが、同等のレベルの保護、支援、そしてリスペクトを享受することであるとも言う。

「万が一捕まったら相当面倒なことになる」とW氏がいうように、W氏と数え切れない同僚たちは、今日もリスクが厳然として存在する「グレーゾーン」を慎重に歩み続けている 。彼は言う。「だが海外で記事が公開され、それに自分が貢献したことを思うと、大きな満足感を感じるんだよ」。

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