メディアの検閲と世論の操作をどのように行うかは自分の中の大きなトピックのひとつで、これまでもいくつか紹介している。今日紹介するのはVOA(Voice of America)というアメリカ政府が運営するメディアの記事で、微博のもと検閲担当者へのインタビューだ。前回取り上げたのはショート動画で、今回はSNSにおける運営側企業の自主検閲体制の解説ということになる。

VOAは一般的にプロパガンダメディアとして理解されることが多く、冷戦期からソ連、アラブ、南米などに向けて様々な言語で番組を発信していた。18年に米国グローバルメディア局(U.S. Agency for Global Media,USAGM)と改称された政府機関によって運営されている。だからこの記事もどこまでかは不明にしろプロパガンダであると捉えるのが正しい(もちろん、だからといってそれが嘘であるとも限らないのがこの手の話の難しいところ)。文中でインタビューされている刘(Liu)氏が顔を出しているあたりも気になる。記事の信ぴょう性などに対して貢献のない情報の割に、彼個人のリスクは高まるので通常こういったことは行われないからだ。

そのVOAは最近いきなりトランプ大統領に「中国のプロパガンダを流している」と攻撃されて話題になった。結局局長級が数名抗議の辞職、トランプはUSAGMのボスに自分の盟友を送り込むことに成功したわけだが、そのきっかけがどうやら「自分の気に食わないことを報道した」というのだから、アメリカ(の少なくとも大統領)は本当にアジアの大国と同じ程度に堕したのだなあという気持ちを改めて強く持ってしまう。まあ国の税金でやってるんだから国のために働け中立とか言って善人ぶってんじゃねえ、という事自体は何の間違いでもないのだが。

こうした検閲(もう少しオーウェル的な前向きな言葉がありそうだが)は、別に中国だけのお家芸ではない。米系のアマゾン、Google、Facebook、TwitterとEvilな事例には事欠かない。ただ中国に関してはこうした検閲が必ずしも企業の利益最大化ではなく、国家による国民支配の手段のひとつとなっているという事だろう。

文中で「天安門に関しては改めて教育が必要」といっているのは少し笑える。毎年その季節に流れてくる笑い話で「6月4日に近づいてくるとSNSの制限が厳しくなり色々投稿ができなくなったりすることで、元々何も知らなかった若い世代がその原因を調べていきついてしまう」を思わせる。

最後に。言い訳めいているが、この記事は原文があまり編集がきちんとされておらず、内容の重複やしゃべった内容そのままみたいな表現も多く若干苦戦した。読みづらい部分については米帝の責任、ということで何卒どうかお願いしたい。

微博元検閲担当者が語る、中国共産党はいかにして「真理省」を築いたか(翻訳)

出典: 前新浪微博内容审核员专访:中共如何打造网络“真理部”(VOA 中文版 8/12

刘力朋は10年に渡って中国でコンテンツ検閲員を務めた後、今年3月に米国に来た。かれはVOAのインタビューを受け、共産党によるコンテンツ検閲が実際にどのように行われているのか、どのような部署が組み合わさってネット上の「真理省」を構築し、そしてそれを通じて言論および思想の統制と全体主義的統治を実現したのかを紹介した。彼の経験はイギリスの作家ジョージ・オーウェルの小説「1984」を思わせる。

オーウェルの小説は恐るべき全体主義国家オセアニアを舞台にしている。オセアニアには4つしか政府機関がない。フェイクニュースを製造する「真理省(Ministry of Truth)」、反体制人士を監視および逮捕するための秘密警察「愛情省(Ministry of Love)」、戦争を管理する「平和省(Ministry of Peace)」、貧困、飢餓対策を行う「豊富省(Ministry of Plenty)」。小説の主人公ウィンストン・スミスは真理省の検閲員として就職し、「ボスたち」の政治的な求めにおうじて、毎日歴史を書き換え、言論をコントロールすることを通じて国民の思想とコントロールし、全体主義を実現している。実はこの作品世界は中国人にとってそこまで遠いものではない。

ある検閲担当者の一日

2020年8月現在アメリカにいる刘力朋

2011年のある日、刘力朋は会社のバスにのって工業区に通勤していた。当時天津の給与水準は低くかったが生活にかかるコストもまた低かったため、新浪をはじめとしたネット企業は一部の部門を天津の工業区内に移転していた。そこには労働集約型の産業である検閲部門も含まれた。従って、当時の天津は「删都(削除の都)」と呼ばれていた。刘力朋は新浪微博のコンテンツ検閲担当員だった。

会社の通勤バスは河西区、南开区を通って西青区の隅にある海泰产业园区に向かう。大体1時間程度の道のりで、このバスに乗りさえすれば出勤扱いになった。「みんなつらい一日が始まる前に寝ることを選んでいた。ちょっとした休憩というのではなく、しっかりした休息だ」。会社に到着するとまず引継ぎがあり、今日の仕事における注意点などが共有された。

当時、新浪微博のコンテンツ検閲員は合計120人、4つのグループに分かれ、大体23人で1組、2交代制で、早番の昼間は約11時間、遅番の夜は約13時間勤務だった。24時間検閲員が微博のコンテンツを監視し続けていることを保証するため、シフト交代の際も必ず隙間がないように、少し重複をもって行われた。刘力朋もその点、引き継ぎ時間に空隙を発生させないことの重要性を強調した。

微博検閲部門のオフィス(刘提供)

引継ぎ後、自らの席に戻ってPCをあける。どのPCもまったく同じで、何年も経ったあとの刘力朋はその時のオフィスの光景を思い出して恐怖を覚えたという。「ひとりひとりパーティションで区切られた小さな空間にいて、他の音がしない中でただページを下に送る音だけが聞こえ、時々数秒それが止まり、マウスがカリカリ音を立てて…それが投稿を削除しているということ。いま思うと少し怖い」。

管理画面を開いてみると、システムは「敏感語辞書」ですでに一度機械審査を終えている。刘は「ある種の高リスク敏感語は、書きこんだ瞬間に削除される。その後人手による審査の場合、低リスク敏感語であれば、それに触れたとしてもまずはデフォルトで通過の状態になっており、先に審査し公開される場合もあるし、先に公開しておいて後に審査するという2つのパターンがある」。いくつかの高リスク敏感語、例えば六四や法輪功といったものは無条件で削除しなければならない。

彼は毎日発生するニュースに関連する言葉をどのように処理するかを彼は毎日日記のような形で残していた。そこには微博がどのように検閲を行っているか非常に明確に書かれている。刘力朋はVOAに対してその日記の提供を了承した。日記は新浪微博が毎日どのように事件やその写真を処理しているのか時系列に応じて明確に記録されている。

刘の提供した日記。2011年6月1日夜シフト。「この写真はプライベートモードに」などの注釈が見える。

刘は言う。「テキストの検閲は比較的速い。裏側でキーワードを入力し、有害な情報を削除するか、もしくは删,私,止,隐,通など色々な措置をする。ほかにも様々なメディア企業が微博の検閲を必要としている。また五毛や愛国主義者たちのパフォーマンスをより分かりやすくするためにコメント欄の書き込みをフィルタリングしたりする」

刘によれば、同僚はほとんど大学、もしくは大専を出たばかりの新卒だったという。この仕事は実際別に難しいわけでもなく、学歴や技能に特別な要求があるわけでもない。だから彼らの給与は高くないどころか低いとさえいってよく、電子部品の工場よりはわずかに高く、本科学生もしくは大専の比較的なの知れた学校を卒業さえしていればよかった。なぜなら彼らは幼稚園のころから政治の授業があり、すでに長い時間政治思想についてのトレーニングをうけているからだ。

彼らは学校で十何年にもわたって党はどういう事が聞きたくてどういう事を聞きたくないのかよく知っているし、この仕事についたあとも長いトレーニングは不要だった。その唯一の例外が六四と法輪功だ。六四はすでにきれいに漂白されきっているから若い世代もまたまったく知らないのだ。とはいえ微博上で本気で立ち上がって六四について共産党が人を殺したのは間違いだなどという書き込みは、1週間で10もなかった。

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刘力朋によれば120人という部門は大きいとはいえず、例えば現在投資のラウンドB、ラウンドCに進むようなスタートアップですら数百人の検閲担当者がいて、もう少し大きければ数千から数万人のチームがいるという。たとえばバイトダンスには外注先を含まなかったとしても1万人のチームがある。

「現在の検閲の基準は変わった。すべてが変わってしまった。しかも最近微博はもっと乱暴で、もっと安い外注のチームでこれを処理するようになった。チームは西安、のちに重慶におかれたが、彼らはいずれも外注チームだった」

このようにして刘は2年ほど働き、2013年には退職し、いくつかの仕事を渡り歩いた。そのほとんどがコンテンツ検閲の仕事で、最後は乐视の总编室でクオリティ管理の主管を務めたが、これも検閲関連の仕事だった。10年に渡ってコンテンツ検閲に携わった彼に言わせれば「この仕事は本当に疲れる!」ものだという。

神秘のヴェールに包まれた「関連部門」:とある立体的な権力体系

検閲担当者は一体どのような基準に応じて審査を行っているのか?またこのような基準は誰が制定したものなのか?この問題について、刘力朋は笑いながら言う。「審査には基準なんかない。基準なんかあったらすりぬけられちゃうだろう?一般人に(わざわざ基準を教えて)自己検閲なんかさせる必要はない。Youtubeコミュニティのように明確に何を投稿してはだめといったルールはいらない。自分で検閲させる必要はないんだ」

中国の検閲基準は不透明のブラックボックスで、ファイトクラブのルールのようなものだ。そのルール第一条は「ファイトクラブについて口にするな」。中国の検閲もそうで、ルールを知られることを防ぐためにも、それについて口にすることは許されない。企業の内部には自社で制定した執行基準があるが、外部に漏らすことは許されない。

管理画面を開くと、まずシステムは敏感語辞書に応じて最初の審査を行う。現時点では各プラットフォーム上にある辞書には多ければ数十万、少なくとも五千以上の敏感語が収録されている。

敏感語辞書は企業がプラットフォームを運営する中でゆっくりと積み重ねてきたもので、多くRTされたもの、敏感なユーザーの発言、あるいは荒れたコメント欄の発言などにこの辞書に加えられていった。もちろん外部のプレッシャーによるものもあって、网信办、公安部、あるいは部隊すら「ここにサンプルがあるからネット上全部きれいにしてくれ」「今日10個、明日50個」という感じで、その送られてきたサンプルから敏感語のサンプルを抽出し、この辞書に収録されていった。

刘によれば、微博では「涉警(警察案件)」に関する審査がもっとも厳しいし、処罰も最も重い。例えば交通警察に違反切符を切られたことを「こいつはこづかいが欲しくて切符を切った」とかいう内容を微信朋友圈に出した場合、当地の公安に連行されるだろう。警察国家なのだから、警察権力には格別の注意が払われるというわけだ。

以前こうした権力機構は面と向かっての打ち合わせを好んでいた。その打ち合わせでは社の政府対応部門の担当者に会議の精神を教え、もどって自分で検閲の審査基準を設定させる方法だった。しかしこの方法は時間がかかるし、情勢の変化に対応しづらい。だから現在では有害とされる書き込みのサンプルを直接送り、敏感語を抽出している。どのプラットフォームも自分の敏感語辞書や審査の方法に関するトレーニング教材を持っている。これらは絶対に秘密で、外に持ち出すことはできない。プラットフォーム間でもどこが一番うまく審査しているかなどが競争されている。

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敏感語辞書ができたら、検閲開始だ。まずシステムによる機械審査が行われたのち、人間による審査が行われる。「必ず人の目による審査が必要だ。システムだけの審査はありえず、最後は人手で見る必要がある。ファーウェイクラウドでユーザがプライベートに設定した写真を削除したように。しかし検閲業務に関わる全ての人が知っていることだが、削除内容を確定するためには多くの人の目で確認する必要がある」。機械審査を通らなかったものについても誤削除ではないか、人がチェックする必要がある。
またたとえ人の目による検閲を通った後でも、確認チームがキーワードを何度も検索し、関係部門の発作的な(いつ来るかまったくわからない)検査に備える。例えば国新办が35万もの敏感語リストを送ってきたことがある。そのキーワードを全て確認したところ、すべて習近平と関係あるものだった。

それ以外にも検閲の基準も朝令暮改で、薄熙来が人気だった頃はよいが、職を追われた途端に基準は変わり、以前の投稿も改めてチェックしなければいけなくなった。これが、投稿されてかなり時間が経っている微博が突然削除される理由だ。

2014年6月5日の日記。アカウントを封殺する根拠を4つに分類し、きちんとその理由をラベルとして残すように他の同僚?に依頼している(ということは日記といいつつシェアされていたものである可能性がある)。なお下の方にシンガポールの联合早报が64に関する記事を載せたので…といった記述も見える

では、その人力での検閲の指令はどこから来るのだろうか?刘力朋いわく、彼らは毎日のように各種「関連部門」の具体的な指示を受けるという。例えばこの言論を封殺しろ、この言論を出現させろ、世論をどのように誘導するかなどなど。これはとても複雑な権力のシステムで、共産党の宣伝部門だけでなく警察をはじめとした各種安全部門はどこもインターネット検閲の権力を持つ。ほかにも国新办、メディア、工信部、また農業部でさえ検閲に参加することもあり、その中の権力関係はぐちゃぐちゃで、基本的にどの部門もどの投稿を禁じ、どのアカウントを封鎖しなければいけないかと命令する権利を持つ。

例えば刘が在職中、慕容雪村(訳注:ネット小説家)のアカウントを封鎖したことがある。そこで管理画面で見ると、北京(の新浪のチーム)が操作をしたもので、これは国新办が指示したからだとラベルがついている。ユーザを凍結することはプラットフォームにとって望むことではない。ただ適当ではなくしっかりとした態度で執行することは必要なので、どのような原因だったかをラベルとして残すのだ。

しかし、これもまた絶対ではない。普通ユーザとVIPの扱いは違う。普通ユーザは敏感語にヒットして初めて人の目でチェックされる。しかし敏感VIP、すなわちいわゆるKOL(インフルエンサー)、数十万から場合によっては数百どころか数千万のフォロワーがいるような場合は公共の(政治的な)話題に触れるか否かに関わらずすべての発言はチェックされることになる。すべてのものは審査されなければいけない。これ以外にも「普通敏感」ユーザもいる。これはRTしている内容に削除されたものが多かったり、敏感な投稿を閲覧することが多いと自動的に認定され、同様にすべての発言がチェックされる。多くの敏感語がここから蓄積される。

しかし、刘はここにはある種の偏見があると強調する。「プラットフォームは言論の自由を積極的に保護したりはしない。ただし削除しすぎたくないとも考えている。KOLであれば投稿の削除程度だが、普通の人は現実世界で力があるわけではないので簡単にアカウントごと削除されやすい。キーワードになっている敏感語にあたってしまえば、削除されてしまう」。

「私はまだマシだ。時々こっそり封鎖を解除したりもする。よくそういうことをしていた。私が離職した後(ルールが変わり)、封鎖もその解除も2人が立ち会っての操作が必要になってしまった。朝鮮人が外国のレストランで働く時ひとりで外に出かけられず必ずふたりでお互いを監視しなければならないのと同様、勝手に操作することはできなくなった。勝手に解除もできなくなってしまった」。

刘によれば微博では影響力のあるユーザはおしなべて、最終的に削除されてしまう可能性が高いという。薛蛮子(訳注:統戦部副部長を養父に持つアメリカ国籍有名企業家であり投資家。13年に買春容疑で連行されたが容疑内容にはよくわからない部分も多い)は社会的な注目トピックを自分のアクセス量を集めるための材料にしていただけで、実際は現行体制に反対していたわけではない。しかし彼が数千万のフォロワーがいたことで逮捕に至った。

現在の微博における言論空間とて、本当の敏感ユーザも話をすることはできる。ただし、1,2万フォロワーといったところが上限で、それ以上の規模のものは公安に直接潰される。だからいまとなっては(一定以上のフォロワー数があるが敏感な内容を発したいユーザには)完全に生存空間はない。

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テンセントの匿名を望む従業員によると、テンセントの検閲システムもほぼ同じでセキュリティセンターというコンテンツの検閲を専門に行う部門があり、まず敏感なキーワードの一覧表があり、例えばひとつの記事の中にいくつかの敏感語が含まれていた場合、機械審査によって自動的にストップされる。

また機械審査にひっかかった中でもさらに人の目での検査が必要と判断される場合もある。もうひとつ機械審査を越え、人間の審査も越えたが(政府の)ある部門があなたのことを気に入らないという理由でテンセントに削除を要求する場合もある。この場合は削除依頼者は所属単位のリファレンスが必要で、もしそれがないなら、テンセントが用意している通報プロセスを使うことになる。もしくは直接网管办(訳注:自治体の网络管理办公室=ネットワーク管理オフィス)に圧力をかける。ただ、网管办を通じて削除をさせるのは非常に大きな問題の場合に限られるので、大部分は前者の方法で処理される。

このテンセントの従業員によると、当該部門で働いていた時には毎日「报道提示」というものを受け取っていた。多い時は十数通、少ない場合は三四通届くこれは网管办がテンセントのセキュリティーセンターに送り、それをセンターが各部門の責任者に送り担当者が実際に処理するという流れになっている。しかし彼らに命令を下せるのは网管办だけではない。

「中国においてネットを管理できる部門はあわせて50以上にのぼる。公安部、广电总局、教育部、网信办,工业与技术信息部や爱国运动委员会までみながそうした権利を持っており、特別入り組んで立体的な権力体系だといえる。网管办や网信办がプラットフォームに連絡しておわり、という単純なものではない」

刘の証言に戻る。「例えばある映画の中に学校に関する内容が出てくれば教育部の検閲を受けなければいけない。警察が出てきたら公安部に情報を送って検閲だ。鉱山労働者のことなら国土资源部だ。要するに内容上関係がありそうなものは片っ端から関係部門に送って検閲が必要だ。これがいわゆる「関係部門」だ。このような審査は非常に細かく、かつ非常にでたらめだ」

ネットのツァーリ、鲁炜が作り上げたネット管理の時代

2013年7月、著名な歌手である吴虹飞が新浪微博上で「炸建委(建設委員会を爆破する)」と書き込み10日間の行政拘留を受けたことがネット上で大きな騒ぎになった。8月20日、公安部はネット上の組織的な流言飛語など違法犯罪の取締を開始し、秦火火などがデマを流したとして逮捕された。これは中国のインターネットの歴史上初めての大掃除だったと言っていいが、これはのちに常態化された。

刘力朋は、ネット上の言論統制の強化はこの時から始まったと述懐する。これは鲁炜がインターネット管理を掌握したことと関係がある。2013年4月、鲁炜は国家互联网信息办公室主任になり、インターネットの管理を行うようになった。ここから中国のインターネットは、その初期にあった改良、自由といった雰囲気を失い、寒々しい管理の時代に入った。

2013年8月10日、鲁炜は微博運営やネット上の有名人を集めて座談会をひらき、「7つのボトムライン」を示して参加者にそれを守るように要求した。その会には纪连海、廖玒、陈里、潘石屹、薛蛮子といった10人以上の有名人が参加し、彼らに対して鲁炜は6つの希望を伝え、7つのボトムラインを守るように要求した。この7つはネット上で「鲁7か条」と呼ばれた。これは法律法規、社会主義制度、国家の利益、国民の合法的権益、社会公共秩序、道徳、情報の真実性の7つのボトムラインから成る。

この7つのボトムラインは公表された当日、大手ポータルサイトのトップページに掲げられた。大部分のネット民は中国政府は「制度」を使って言論の自由を押さえつけていると反発し、その一部は凯迪社区や個人のブログなどで第二条の「社会主義制度のボトムライン」に対する当てこすりを書き込んだ。しかし少なくないサイトが当局の圧力を受け、多くのコメントが削除に追い込まれた。数万人がコメントを書き込んでいると評されるのに見れるのは百といったおかしな状況も生まれた。

「それぞれのプラットフォームがスタッフを雇って常に掃除をしていた。そうでなければ政府によって自分自身が閉鎖させられる可能性がある。これが私が新浪で働いていた頃のインターネットの状況だ。2013年から政府のインターネットに対する統制が手慣れてきたころから、プラットフォーム側も検閲員が検閲するだけではなく、网评员(コメンテーター。ネット上で世論誘導を行う)や公安系、もしくは共青团といった組織の公式アカウントを開設するようになった。
网评の仕事は以前はいわゆる『五毛』といわれたものだが、彼らはより状況を混乱させることが多かった。しかし現在は、网评员の天下でアカウントの削除や封鎖も人々に与えるショックは大きくなくなった。印象深いのはもしかしたら現在ニュースのどれをクリックしても中身は全部共産党を支持するもので、しかも全部様々な柄に漂白されている」

2014年5月に中央网信办が成立し、鲁炜がその主任となった。网管办から网信办、ひとつのチームが2つの看板を持っているだけとはいえ、権力はさらに集中し、検閲はさらにひどくなった。

2014年10月、中央网信办は公開選抜で9名の業務部門处級の幹部を選び、网络评论工作局、网络社会工作局、移动网络管理局、网络安全协调局、国际合作局、5つの部門に配属した。10月30日、鲁炜は第一回の世界インターネット大会に出席した。インターネット大会は鲁炜の生涯でもっとも輝かしい成果だと言われた。この大会の席上、中国代表はインターネット上の「ネット主権」の概念を盛り込んだ大会声明の草案を提案し、世論は一時騒然となった。

記者会見の席上、ネット検閲制度に関して鲁炜は「我が国が現在許せないのは外国のネット企業が中国市場を占拠し、中国人から金を稼ぎ、しかも中国を傷つけることだ」と述べている。ニューヨークタイムズはこのことから鲁炜を「中国インターネットのゲートキーパー」と呼んだ。2015年4月、「数億人のネット民が何を見るか決定する権利がある」という理由で、鲁炜は雑誌TIMEの2015年「最も影響力のある100人」に選ばれた。中国人民にとって彼は「ネットのツァーリ(皇帝)」だった。

刘力朋は匿名性があるネットにもかかわらず、共産党が突然「ネット主権」などと言い出したのを見て、でたらめだと感じだという。中国政府は「主権」という言葉を使って中国の人権の問題を覆い隠してきたし、いままた「ネット主権」が登場することの意図が分からなかったからだ。Tiktokが出現し、ようやく意味が分かった。TikTokは今までに類をみないほど海外で大成功し、そのことによってネット主権はとてもまじめに、厳格に執行される概念であることに気づかせた。

それはすべての中国人が中国エリアという鳥かごのなかに閉じ込められておくべきで、あなたがこの点を厳格に守り中国国民を遮れば、海外における検閲の基準は緩められるし、独占さえ許され、海外で大きく発展することができる。だから中国はファーウェイに輸血を行い5Gを主導させ、ITU(国際通信協会)を脅して国際インターネット大会を開くなど八方手を尽くして各種のインターネットインフラに介入した。これもまた「ネット主権」を主導思想とするものだった。

党員が優先のバイトダンスと一国二制のTIKTOK

中国のネット企業の中にはバイトダンスはすこし特別だといっていい。2017年末、バイトダンスのサービス今日头条は関係部門によって大きな修正を要求され、“推荐”“热点”“社会”“图片”“问答”“财经”などの6つのチャンネルは2017年12月29日18時から12月30日18時までの24時間更新が停止された。2日後の2017年12月31日、今日头条は「社会」チャンネルの閉鎖と「新時代」チャンネルをデフォルトのチャンネルに設定すると発表した。同時に、法律法規の要求により、集中的に違反や低クオリティの自媒体アカウントを整理するとして、12月31日に36のアカウントを禁止し、1065の発言を禁止した。

この整理のあとすぐ今日头条は2000名の検閲担当編集を公募した。条件は党員優先!ただそのような行動にもかかわらず、すぐ後の2018年4月、バイトダンスの別のアプリ内涵段子は「世論のリードが不適切、低俗なトンマナという問題がある」として中国国家广播电视总局によって永久閉鎖させられた。

この二回の「掃除」はバイトダンスにとって致命的なものだった。だからバイトダンスは他のネット企業に比べてさらに社内の党組織にリソースを割いていた。内部スタッフに言わせればバイトダンスの党員と党組織はより多く、より「紅い」という。

バイトダンス社員から提供された内部資料によれば、この会社は非常に厳格な検閲プログラムと基準を持っており、政治面での審査基準がその最も最初に書かれている。その第一条は「画面にもし共産党、国家、政府、社会制度、我が国の政府高官、我が国の現任の核心指導者(習近平、江泽民、彭丽媛、李克强、王岐山)、歴代指導者、北朝鮮指導者の金正恩など、また国家指導者のキャリアや家族に関するネガティブなコメントなどでの攻撃が出現した場合」「中断し、永久にアカウント封鎖」することとなっている。それ以外にも六四、法輪功などに関する内容も一律中断し、永久に封鎖することとされている(この内容についてはpdfが提供されているのでこちらにアップした。なおその中には「旧日本軍の服装をしたり模倣する」などもアカウント削除の対象となっている。また「現任指導者の真似をする」もだめで、これが一時期話題になった主席のそっくりさんのアカウントが削除された根拠となっているものと思われる)。

刘力朋にいわせれば、もし中国の廉価な検閲工場によって厳格な審査を行うシステムがなければ、バイトダンスはここまで高速で発展しなかっただろうという。同時に、微博微信などと違うのはTiktokは抖音の海外版でありながら、事実上ふたつの全く違うバージョンで、Tiktokは中国人が入ることを厳密に禁止していることだ。行われているのは「一国二制」で、技術面から言えばTiktokは彼らが受け入れることができる一切の手段を使って中国人が入ってくることを防いでいる。

VPNを使うというFacebook Twitter Google Youtubeのような方法はTiktokには無効だ。なぜならTiktokはスマホキャリアの情報を読み込み、+86(中国の国番号)のユーザは絶対に使用できないようになっている。またIPも大陸のものではだめだし、GPSロケーションが中国国内にあってもだめだ。另一方面,TiktokはGFWに積極的に協力してログインサーバを巧妙に隠蔽している。刘によれば「ここまでやったからこそ中国政府はバイトダンスの存在を許可した。微信はそこまでおかしくなってはいないが、特別海外ビジネスに興味があるわけではない」。

刘によればTiktokは海外でも検閲を行っているという。「海外検閲マネージャ」が人材として募集されており、天津をはじめとした各地で非中国語の検閲担当員が置かれている。これらの募集記録は以前転職情報サイトなどで見ることができたが、最近すべて消されてしまった。どうやら海外部門も検閲基準を設定しているようだが、情報提供者はTiktokの具体的な基準とやり方については見ることができなかった(訳注:この件に関しては以前翻訳紹介した「検閲担当者の憂鬱」にも一部記述がある)。

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検閲担当員である刘は共産党の検閲が海外にも及んでいることに気づいていた。

2011年6月4日と7月1日のころ、刘は香港の六四ヴィクトリアパークキャンドル集会と七一デモを知った。「突然香港人と我々はひとつの検閲基準を共有していることに気づいた。香港人は元々自由だったが彼らに対しても検閲を行う必要があった。六四のとき、あるいは七一デモの時、香港のIPからだと画像を添付しているものだと出すことができなくなった。当時の新浪に多くの香港からきたユーザがいたことはIPを見ればわかった」

刘によればこのような検閲はアメリカにも必ず広がるはずだという。アメリカ人もこれまで長い間微信を使ってきて常に監視され、常に検閲されてきた。去年カナダ大学の実験室が発表した研究によると、微信は海外を含むすべてのユーザを監視している。大陸とは違う基準が用いられており、たとえば簡単にアカウント封鎖されることはない。しかしシャドウバン(自分からは発言したように見えてみえるのに他の人からは見えない状態)はあり、国内の友人はあなたの発言をみえていないかもしれない。また同時に、海外ユーザから敏感語を集めてもいるという。

アメリカの最近のClean webに関して刘は「世界のインターネットには境界線がない、中国だけがある。汚らわしいGFWを壊し、この戦狼式で自己欺瞞でデマと反米陰謀論であふれた中国イントラネットに陽光がさし込むことで、我々はようやく安寧を得ることができる。そうでなければ彼のルールになってしまう。win-winだ。それは「中国が2回勝つ」という意味のwin-winだ」

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ちなみに(後記):中央网信办の主任、文中で諸悪の根源のように書かれている鲁炜は18年2月に「落馬」、19年3月に収賄などで懲役14年罰金300万元となっている。

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