昨年のレポートも本サイトに掲載しているが、淘宝造物节(Taobao Maker Festival)2018のレポートだ。本記事はイベント概要、現場レポートを中心に構成するが、最後にマイクロソフトとのコラボでのMRショッピングや淘宝の歴史を紹介する「博物馆」といったVIP専用のコンテンツにも触れる。少々長くなるが、写真多めでお届けする。

この方も昨年に引き続き出現されたとか。

開催3回となる今年は、会場を杭州の最も有名な景勝地西湖のほとりにある柳浪闻莺公园に移し、出展者も昨年の108から200強と大幅に増やして開催された。 公園内にはいつも通り西湖観光として入ることもでき、テーマごとに6つに分かれた区画に入場するごとにQRコードを提示することになっている。そうした会場レイアウトのせいもあってか、体感的にも昨年よりかなり広くなったと感じた。

場内地図。公園敷地の中にイベント会場(オレンジ)が点在している
通常営業している公園(当然無料で入場できる)の中にテーマごとのエリアが設置されている

昨年のレポートの中で「 イベント全体の雰囲気は規模が大きく豪華なデザインフェスタ、またはワンダーフェスティバル 」と書いたが、その大きな方向性は今回も変わらない(ただ基本的には物販を行わないイベントであることを考えると「文化祭」のほうがより正しいだろうと思い、今回変更している)。
引き続き、淘宝の中から売り上げの大小を問わず面白い出展者を選抜して出展させ、小規模でも個性的な店舗の紹介を通じて、改めてお買い物の面白さを伝えるというのが大まかなコンセプトといえるだろう。

公園内では無料の関連イベントも

造物节はアリババの二大ECブランドの1つ淘宝の名を冠している。従って規模や知名度においてまだまだ及ばないとはいえ、 位置づけとしては天猫(Tmall)の名を冠した11月11日の「双十一」との双璧という事もできるだろう。基本的にオンラインで完結する双十一vsリアルの造物节、大企業のセールイベントである 双十一 vs個人出展者中心の造物节など、対比構造として観察することも面白いと思う。

期間中淘宝アプリからアクセスできる公式ページ。昨年から引き続き、淘宝そのものとは全く違う暗めのトンマナ

ITサービスはほかの商品と同等かそれ以上にファンとともに老いる傾向が強く、開始からしばらく経つと若者にとっては「年寄りの使うダサいもの」ということで避けられるようになることが多い。Facebookしかり、中国でいえば微信にもその傾向があり、90后はQQ空間など別のSNSに流れているといわれている。
それを避けるために手を打つのか、もしくは変化を受け入れ今獲得できている年齢層に集中するのか。難しい判断だとは思うが、中国IT業界においてかなりの古株である淘宝(と運営元であるアリババ)がこうしたイベントの実施によりCoolなブランドであり続け、若者の支持を保ち続けているという点は、評価されるべきだろう。

公式サイトプロモーションムービー。

 

ブース間にただよう謎のレトロ感

当日は午後から強い雨に見舞われかなり行動が制限されてしまいすべてを仔細に見ることができなかったのが残念だが、その中で去年に倣い個人的に目を引いた展示を紹介しよう。

それぞれのエリアごとにテーマも内容も違うが、共通して感じたのが日本で80-90年代に流行ったようなコンテンツの存在感だ。けん玉、ルービックキューブ、ラジコン、ミニ四駆、ファミコン、そして精巧な紙飛行機。これにはどういう意味があるのだろう?

Friday Kendma…???おそらく黒帯(Hei Dai)とFridayのゴロ合わせ?
ルービックキューブの奇乐魔方坊

色々な解釈があるだろうし、そもそも正解などないのかもしれない。しかし個人的には流行は現実社会の様々な状況が反映されているいわば鏡と考えているので、その頃の日本の社会状況といまの中国(の都会の)社会に類似点があるという風に解釈したい。
日本で上に挙げたようなものが流行った時期は、高度経済成長期の終わりにかけて、みなが金を持っていて先行きも明るかった時期だと思う。そしてしばらくしてバブルが弾け日本がどうなったのかもみなさんご存知の通り、ということは中国はこれから…というわけだ。

ミニ四駆を出店していた人たち。隣にはコースも。

一方、いまは2018年であり90年代ではない。この20年でインターネット(というより、パソコン)が普及し、テープやCDで聞いていた音楽はiPodを通過してSpotifyになった。世界は確かに大きく変わったし、であればたとえ起こっていることが同じでもその原因がまったく違う可能性も否定はできない。1+1は2だが、答えが2になる計算は別に 1+1 に限らないのだから。

ファミコンでマリオプレイ中。

続いては、目玉とされた2つのコンテンツについて紹介したい。

 

淘宝 15年の歴史を紹介する博物馆

淘宝は今年で15年を迎える。それを祝って、入り口わきに淘宝博物馆という15年の歴史を紹介するエリアがあった。グループごとに専用のガイドが付き各部屋を紹介してくれるという手厚いもてなしで各コーナーを案内してくれる。なおこちらはVIPチケット保有者のみ入場可能。

入場するとまず、一面に引き出しがある部屋に通される。そこでは、IDらしきものがいくつかの引き出しに投影されている。そして淘宝アプリを開いて中央にあるQRコードにかざすと引き出しのどこかに自分のIDが表示され、その引き出しを開けると、自分が淘宝で初めて買ったものが引き出しから現れるという趣向。

ちなみに、買ったのはりんごでした。

そのほか、はじめて淘宝で売れた商品や阿里巴巴始まりの部屋(湖畔花园)の再現や、これまでに淘宝が作ったTVCM、また去年の造物节の出店作品が展示されている部屋などがあった。

湖畔花园を模した部屋。右手にあるのが初めて売れた模造刀。

ちなみに上が18年1月撮影の実際の湖畔花园の様子。普通の団地だ(クリックで拡大)。

過去のTVCM紹介コーナー

その他、淘宝を代表する5つの文化 (というより、淘宝ユーザーの文化が正確か) を紹介する小部屋もあったが、これはちょっとわかりにくい展示だった。

MR買物体験”买啊”

マイクロソフトとのコラボとして、MSのHololensを使ったお買い物体験館が開設された。しかし事前の目玉とされたわりには、中国語メディアでもカバレッジが少ない。そこらへんの理由の前に、大まかにどのような(ものを目指した)コンテンツなのか、この動画を見てもらうのが早いと思う。

動画を見れば大まかなところはわかっていただけると思う。流れとしては2人一組で入場し係員の補助でHololensを装着。故宮とコラボしたエリア、ファッションエリア、そして二次元=アニメ漫画コンテンツの3つに分かれたエリアを歩くことになる。

その途中で特定のものを見ると3Dのコンテンツが浮き上がり、場合によってはそこに表示された選択肢のあたりをスワイプ、ピンチなどすると購入できるようになっている。

しかしこれは…どこかで見たことがある気がする。下の動画を見てほしい。

これは2016年の双十一の時に大量に流されたもので「Buy+」と銘打ってVRで世界中の疑似的なデパートなどで買い物ができるというのがウリだった。

MRはあくまで現実の強化でありVRはすべてが仮想だという技術面や見た目の違いはあれど、正直あまり変わらない…というか、地味になった印象すら受ける。これが要するに中国メディアが取り上げたがらない原因のひとつだろう。2年経ってできることがこれでは、夢がなさすぎる。
そしてもうひとつ非常に現実的な問題として、MRは装着者本人にしかその画像を見ることができない。つまり外から体験している様子を撮影することが難しく「画」になりにくいのだ(VRの場合は装着者視点での動画を出力することができる)。また、Hololens自体すでに新しい製品ではなく視野角の狭さや画質、本体重量など、様々な点が不足であることもすでに明らかになっていることも理由のひとつだろう。実際使っていても没入感は相当限られる。

MR自体は技術に発展の余地もあり、もっと専門的なイベントで用途を絞ってデモとして行う分には面白いと思う。例えば先の春節で一部の地方警察がMRグラスに犯罪者の情報を投影して監視しているというニュースが出たことがある。どこまで実用性があったかは謎だが、そういったコンセプチュアルなものであれば技術的な限界については多少片目をつぶることができるだろう。しかし一般向けにエンタテインメントとして見せるには、正直厳しいかな…というのが今回体験してみた、偽らざる感想だ。

全体を通して。

やはり文化祭だな、というのが改めての感想だ。それぞれのコンテンツがとても面白いかというと正直そこまでではない、でもゆっくり回り、出展者と話しているとなんとなく楽しい気分になれる。また主催者やスポンサーのコンテンツはかなり金もかかっている。これまで中国にこうしたイベントは少なく、またあったとしても規模は小さかった。600元かけてVIP券を買う必要があるかはともかく、休日のいいお出かけ先だとは言えるだろう。

出展者とも気軽に交流できる。現場ではライブ中継しながら話し込む人も。

黑科技については、昨年はスマートスピーカーの天猫精灵があり、無人ショップの淘咖啡があった。そしてそれらは確かに(それぞれほかに先行者がいたことは事実だがそれなりの新しさがあり、またインパクトもあった。しかし今年の「黑科技」部分については弱まったといわざるを得ないだろう。

昨年の造物节に出店された淘咖啡

一応補足しておくと、MR以外にも、一般向けにいくつかブースが出ていて色々体験できたし(ただあまり熱心に説明をしているわけでもなく、ポスターなどもなかったのでいまいち何がやりたいのかわからないブースも多かったが)、他のエリアには乗り込める?ロボットなども展示されていた。従ってそうした要素が全くないわけではないが、それらを代表する主催者側の展示としてパンチに欠けることは確かだ。

昨年の展示、箱庭。

しかし改めて考えてみると、これは文化祭なのだ。別に先端科学技術の展覧会ではないのであって、本当の高科技が見たいのであればこんな一般向けのものではなく、引き続いて杭州で開催された云栖大会に行けば クラウドコンピューティング・ AI・自動運転・顔認証にロボット技術とおなか一杯(な代わりに我々素人には中で何が起こっているかさっぱりわからない)見ることができるのに、思わなくもない。

直後に行われた云栖大会の様子。機会があれば書くかもしれない。

来年の造物节がどうなるのだろう。

今回は初めての屋外開催で、最終日は大雨に降られて返金する羽目になった。しかし降雨自体はある程度予測されており、当日来場者向けに配られたキットの中にも雨合羽が用意されていた(実際はそれではどうにもならない程の勢いで降ったわけだが、これはしかたないだろう)。これをリスクと取るのか、それとも屋外での開催の心地よさ、開放感を優先するのか。

また、文化祭要素と黑科技要素のバランスをどうするのか。あくまで文化祭なのであれば、今年くらいの内容でもまったく問題ないだろう。逆にこのイベントを「アリババのC向けテクノロジーの発表の場所」と位置付けるならば、もっともっと内容を磨く必要がある。しかし事前の宣伝を見ていると、その立ち位置はまだ明確に決まっていない気もする。

ここで見られるものは中国の主流とはいえないが、生まれつつある多様性の最先端のそのまた一部である気は、相変わらずしている。来年どうなるにせよ、来年もまた戻ってきてその変化を見たいなと思っている。