基本的にあまりバイトダンス社…というよりTiktokというサービスは好きではない。単なる娯楽であり、社会にとって大した益もない代わりに、子供を中心に自己顕示欲をくすぐられ、要らない問題に巻き込まれるリスクが増える。また(これはどこかで書くかもしれないが)そもそもビッグデータによる恣意的な「レコメン」によるトラフィック分配と管理を中央集権的に行い、意にそわない行為には懲罰的にトラフィックを止めながら一般人の「何者かになりたい願望」を搾取する構造にも吐き気がする…それに踊らされて「これからは普通の人もスターに!」とか元気に言っているバカを見るとバカはお互い様かな、とも思うのだが。

とはいえ、競争は競争であり、ルールを守って公正に行われるべきものだ。それが面白く便利で多くの人の支持を得るならば儲けるのは当然の権利だし、不当な理由で邪魔されるべきものではない。その点でトランプがTiktokをあげつらって脅迫的に切り離させようとしていることは非常に非民主主義的であり、非アメリカ的で、というかぶっちゃけ単なる力を背景にした強盗行為にしか過ぎないとも感じる。起業家としての张一鸣がどのような人物かは知らないが(正直興味もない)、その無念は察するに余りある。

中国とも比較的仲良くやっているマイクロソフトも巻き込んで、この件が米中の抗争の結構大きな火種になってきたところで、ちょうどさきほど张一鸣による内部書簡が公開されたので、翻訳して紹介する。まあこれもどこかがすぐにちゃんと訳すかもしれないので参考まで(急いで訳したので順次アップデートの可能性あり)。

—ここから追記①—

ちなみにCFIUSが中国企業による買収を拒絶したのは初めてではない。17年4月にアリババ系のアントフィナンシャルが米Moneygram社を買収しようとした際共和党議員から物言いがつき、結局18年1月に最終的にNOが出ている。もっと問題なのは先日のNewsweekにもちらっと書いたゲイアプリのGrindrで、中国の昆仑万维というゲーム企業が16年に買収を行ったあと、3年も経ったの19年になって売却を命令。実際に20年3月にアメリカの投資ファンドSan Vicente Acquisition Partnersに買収されている。この受け皿のSVAPはそれまで活動もなかった(登記までは追ってないので知らないけど)ファンドで、ロイターによれば中国生まれのUS国籍、百度のマネジメントだったJames Lu(おそらく元副総裁の陆复斌)が投資に加わっているという。そのほかの出資者構成がわからないが、普通に考えたら非常に怪しい。

ちなみにCFIUSによるそのほか直接の買収妨害例として05年の中国海洋石油集团有限公司によるユノカル買収、11年のファーウェイによる3leafの買収などがある。その他出典がForbesなのでダブルチェックは必要かもしれないが、「1975年から2011年までの記録を見ると、CFIUSが投資を阻止したケースは1回だけ」で「2012年以降でCFIUSが投資阻止に口をはさんだのは、Grindrの件を除いて4回」とのこと。国益やプライバシーは当然勘案されるべきだし、特に大型であれば金だけで判断できない、という事自体は正しい(また、中国企業がその対象として多いのは、中国企業側がプライバシーなどに緩かったりという傾向は否めず、ある程度仕方がない事でもある)。しかし買収後3年後にいちゃもんをつけてよくわからないファンドに買い戻しをさせるような行為が正統な行為とは(少なくともこの情報だけでは)とても思えないのだが。

—ここまで追記①—-

・・・・

よかったらTwitterもどうぞ。

・・・・

张一鸣の内部書簡

出典:张一鸣内部信:不放弃探索任何可能性 正与一家科技公司讨论方案(8/3)

ここ数か月にわたって、会社は多くのチャレンジに見舞われてきた。皆さんもここ数日、会社にまつわる様々な憶測やうわさを耳にしたことと思う。現状ではTikTokのアメリカ事業はCFIUS(訳注:米国対米外国投資委員会)から強制的に売りに出すように命令される可能性があり、もしくは行政命令によってTikTokは米国で禁止される可能性がある。

目下の政治および世論環境は日増しに複雑さを増し、我々が市場において受けるプレッシャーも大きい。ここ数週間にわたって対応するチームは昼夜輪番、残業しながら最良の結果を得るために仕事をこなしてきた。多くの詳細については公開の場で申し述べることはできないが、私はそれでも皆さんに可能な限りの状況の共有をし、私の考えを述べたいと思った。

ここ1年、我々はCFIUSによる17年のmusical.ly買収に関わる調査に常に積極的に協力してきた。我々は常に自らが私企業であると強調し、同時に技術的なアプローチで懸念を解消しようと試みてきたが、それでもCFIUSはバイトダンス社はTikTokのアメリカ事業を売却しなければならないと認定している。我々はこの決定には同意しない。なぜなら我々はユーザのデータセキュリティを確保し、プラットフォームの中立性と透明度を確保してきたからだ。目下の大環境においては我々はCFIUSの決定および大統領の行政命令に対応しなければならないが、同時にどのような可能性でもあきらめることなく探っていく。我々はTikTokがアメリカのユーザにサービスを継続できるよう、あるテクノロジー企業と協業についての初歩的なディスカッションを試みている(訳注:すでに発表済であり具体名をあげない原因は不明だが、これは明らかにマイクロソフトを指している。)。

解決方法を探るにあたって、われわれは3つの角度で考えている。

1、ユーザ。Vanessa(訳注:米国GMのVanessa Pappas、元Youtubeの幹部で、ビデオメッセージを出している)が昨日の動画で述べたように、TikTokはバイトダンス社のプロダクトであるというだけでなく、グローバルユーザのためのコミュニティである。だから我々はTiktokを命のない単なる資産として扱うつもりはない。このプロセスにおいて我々はTikTokのユニークな存在が変わらないようあらん限りの力を尽くす。同時に、TikTokのユーザー体験が悪影響を受けないことも望む。

2、チーム。TikTokには多くの人材が集まっている。多くの同僚たちの努力は、彼らに言わせれば仕事でもあるし、事業でもある。とくにクライシスの現場(訳注:米国)にいる同僚たちが向き合うプレッシャーは非常に大きい。もし彼らがその国の企業で働いていたらこのような悩みはぜんぜん小さなものだろうといつも思う。しかし角度を変えてみれば、違う地域の同僚たちが手を取り合ってひとつの困難に立ち向かうことは、お互いをさらに理解することにつながる。私たちはチームの利益と発展を非常に重視している。

3、会社。我々は”inspire creativity & enrich life “というヴィジョンに従ってプロダクトを常に進化および改善し、すばらしいグローバル企業になるよう努力し続ける。

 

我々はまだ最終的な解決案に完全にたどり着いたわけではない。外界のTikTokに対する注目と噂は、一定期間続くだろう。喧噪の中でのチャレンジにおいても、私はみなさんに前と変わらぬ士気をもって、長期的な目線を持って落ち着いて判断するよう期待している。会社がこのような複雑な局面において正しい判断を下すことができること、また従業員に対して十分なサポートを行えることを信じてほしい。絶えざるイノベーションとその着実な実行、ユーザへの最高のサービスの提供、自らの高速の成長の保持こそが危機に対応する最も堅実な方法だ。

TikTokはすでに地球規模の文化のひとつとなっている。ユーザにとっての窓であり、カンバスであり、かけはしである。数億ものユーザーが我々のプラットフォーム上で創作をし、お互いに繋がり、ユーザに多くの楽しみや情報をもたらしている。そしてまた多くの人々がここで彼らのバリューを創り、経営し、実現している。このようなことを考えた時、私はTikTokの未来にたいして確かな信心をもつことができる。さらに多くの信任を得ることができると信じている。

いままでと同様、困難に直面した時こそ我々のチームはさらに団結し、楽観的で粘り強くなる。みなさんの努力と貢献に感謝したい。このような素晴らしいチームとともに挑戦ができる事もまた、私にとって重要なモチベーションになっている。最後に再度言わせてほしい。バイトダンスは信頼するに値するグローバル企業でなければならない、ということに変化はない。このようなとてつもない変化が起こる時代において、そのために努力をすることはさらに価値があることだ。このこと自体、ひとつの挑戦であり、意義のある旅路であるといえるだろう。

一鸣