実は中国でも、本日の天皇陛下の即位式は中継されていた。しかしなぜかそれは中国の公式テレビメディアであるCCTVではなく、梨视频(正確にはその傘下のING直播)という完全に民間のショート動画サイトだった。

梨自体は自ら報道も行うのでその行為自体は別に不思議ではない、しかし流れた素材は、日本の報道のやりかたを多少でも知っているとかなり違和感があるものだった。

百度の検索結果。「梨视频」が放送している事がわかる。

ご存知の通り、日本には悪名高き記者クラブ制度がある。特に宮内庁は話題のセンシティブさから、一般的には外から情報を得ることは困難とされる。

だから、宮内庁側が記者クラブで必要な事を発表し記者はそれを記事にする場合がほとんどだ。テレビであれば、皇族の動向に関する映像は幹事社が代表して取材をする場合が多いが、一部は宮内庁側が撮影した素材をそのまま使うこともあるはずだ。
余談だが、いわゆる皇室ゴシップは、そのルートに乗らない噂や出入り業者からの情報などが多いと言われるが…まあそれは別の話だ。とにかく、その他の官庁に比べてもかなりガードが堅い。

そうした中の本日の即位式典の中継である。当然海外から非常に多くのゲストが来日しており、海外メディアの取材も多い。NHKも専用のプレスセンターを作ったらしい(即位の礼を世界に発信 国際メディアセンター設置)し、もちろん普段のような「これはクラブのほうだけで」ということにはなるはずがない。とはいえ、外国の動画サイトが、そうしたプレスセンターに入り込むのはほとんど無理だろう。ではどうやって中継を実現させたのか?

以下が実際に流されていた動画の一部キャプチャだ。

映像がきれいすぎる、と感じないだろうか。基本的に中国のこうした「中継」でもっともよく見られるのが日本のテレビで放送されたものを盗用するという非常に権利意識の高いやりかただが、その場合元の放送局がいれた字幕スーパーやスタジオ解説などを排除することは技術的にできない。

実はINGの他の日本に関する動画も、あたかも一次取材されたかのようなものばかりだ。そして今回の中継も同様だ。かといって単独の自社カメラが入っている事はあり得ない。公式に提供された一次素材をそのまま放映しているという風にしか見えない。しかし、繰り返しになるが単なる動画サイトが公式ルートで中継映像を得られるとは思えない。

であれば、誰が申請したというのだろう?上記のNHK記事では「欧米やアジアなど73か国から450人の報道関係者が来日する予定で、さらに海外メディア33社の在京特派員138人も取材申請を済ませている」とのことだが…。

というか、今回だけでなく他の動画も含めて誰が彼らのために取材をしているのだろう。まあ、日本ではどこかの国と違って別に記者証がなくともジャーナリスト活動はできるわけではあるものの。

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この話はどこまで行ってもインサイダーであり、当事者でないと真相はわかりようがない。何人かの日中のメディア関係者にあたったがいずれもわからない、との回答。だから妄想ではあるが、以下のようなストーリーではないかと勝手に思っている。

まず、この映像はおそらく公式に提供されているものだ。窓口はNHKだろう。そして、そこにアクセスできる中国系の映像メディアは、日本においてはおそらくCCTVしか存在しない。ちなみに梨视频は恐らく日本にチーム自体が存在しない。

ということで、以上が事実だと仮定すればこの映像の配信権を持つCCTVが、梨视频(ING)に貸している事になる。そして、自国の副主席が出席する他国の国家行事を流している以上、さすがにCCTV側が知らない事はあり得ない。

他の映像の状況も鑑みると、おそらく恒常的にCCTVと梨视频は協力関係にあり(本国レベルなのか、現地での勝手な判断なのかは不明)、CCTVが取材で撮った映像のうち事情により流せなかったものを梨视频が買い取っているのだろう。
そしておそらく日本の映像提供側はそれを知らず、CCTVに映像提供、もしくはCCTVから取材されたと認識されているのではないだろうか。どのみち「中国で放映される」といわれれば、基本的には本当に誰が放映したのかなんて、確認するはずもない。

考えてみれば、多少関心を持たれるとはいえCCTVがこうした他国の、しかも今は多少いい方向になっているとはいえ、微妙な緊張関係にある国の即位式をライブで流し続けるというのも変な話だ。まあテレビではないから枠に制限はないので技術的にやろうと思えばできるが、中国側としても変な政治的メッセージになりかねない、と考える事は想像できる。

そうした状況の中で黙認された「提携」であるというのが想像だが、真相はどうなのだろう。中継で中国語で解説していたアナウンサーは聞く限りそれなりに知識がある人物だったようだ。それが誰か名前でもわかれば、謎は解けるのかもしれないが。