著作権というのは、「価値」を扱うビジネスの多くに関わる大事な権利の考え方だろう。大消費時代はすでに終わり、新たな価値は主に非物質的なものから生まれている。そういった意味で0から1を作り出せるクリエイターは尊敬されるべきだし、相応の対価を得るべきだ。だからその権利を保護しよう…ということに異論がある人は多くはないはずだ(「丸パクリはリスペクト」とか言ってるインフルエンサー(笑)は早く毎日犬のウンコ踏むボーナスステージに遷移してほしい。自分が何も作り出せないからって泥棒行為の主語大きくして正当化すんなよタコ)。

反面その権利の独自性を証明すること…まあ簡単にいえばどこからパクリなのかを機械的に判断することは非常に難しい。見たことがあったって別に真似るつもりはなかった、といわれたらそれまでなのだ。でもそれでもできるだけ救済できる範囲を広めよう…という意図なのかはわからないが、日本の著作権の概念は多くの言葉や概念が絡み合い、素人にはちょっとわかりづらいものになっている(他の法律がわかりやすいという意味でもないが)。

中国に目を移すと、そもそも「法律があること」と「それが適正かつ公平に執行される」ことに大きな距離があるのは事実だ。これは著作権に限った話ではないし、そもそもの法律の位置づけが違うとしかいいようがないだろう。感覚的な話だが、法律は事実の認定というよりはあらかじめ一定のルールを設定することで量刑や罰金などの処罰をいちいち決めるわずらわしさを省略しているという、いわば行政プロセスの省力化のためだけに存在しているようにすら思える。いわば戦後処理の仕組みでしかないので弱者が法を武器に戦って強者に勝つということはあまり起きない(ただ訴え出ることでニュースとして拡散して世論の力で強者を包囲するといういつもの中国的戦略をとるという方法はある)。

そうした法執行面での弱さがよくたたかれる中国だが、そもそも法律がどうなっているのかあまり気にされることはないような気がする。「どうせちゃんと使われないんだから」という意見は半分ごもっともではあるのだが、残り半分はあきらめでしかない。実際のところ法律が不備であったらいくらちゃんと執行されても効果がないという意味で、同等に大切なものだろう。

僕自身の経験した日中の法律的ないくつかの係争のケースにおいても、中国側の方が契約書の内容を作り込んでくるしよく読んでそれを武器にしてちゃんと詰めてくる印象がある。最終的には泥にまみれて殴り合うにせよ、最初はルールに則った戦いをするべきだと個人的には思うのだが…日本人はなぜか紙に書くことを非常に軽視するというのが正直な感想だ。法律についても同じではないだろうか。

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さて前置きが長くなったが、今日は中国の著作権についての話だ。

だいぶ延期されたものの5月末から開会がアナウンスされる2020年の「両会」、そこではいくつかの法律が審議される予定になっている。事前にあがっていたのはかなり幅広い項目で、会期がかなり圧縮されている今回どこまでが本当に審議されるのかはちょっとわからないものの、例年に比べて影響範囲が広い法律が多く個人的に注目している。
著作権の改正もそのひとつ。ちょうどポイントをまとめた記事を見つけたので今回はそれを翻訳して紹介したい。国営大手の新華社が出しているものなので、基本的政府の公式見解と思ってよいだろう。コメントのつぎはぎで若干硬いのは原文も同じなので、あまり手間をかけてこなれた感じにはしていないが、読んでいただければ趣旨はわかるはずだ。

なお僕は法務のバックグラウンドを持たないし、中国の法体系についてそこまで理解しているわけではない。したがって用語や記述、理論に間違いがある可能性は否めない。もし具体的な係争案件があるのであれば専門家に相談することを(当たり前だが!)お勧めしたい。

権利保護強化・懲罰的賠償ー著作権法改正案草案の5つの視点

出典:加强版保护,惩罚性赔偿——聚焦著作权法修正案草案五大看点(新华社 4/26

10年近くつづく著作権法の3回目の改正が正式に開始され、改正案は4月26日に第13回全人代第17回常任委員会に提出され、検討された。懲罰的賠償制度の導入、賠償限度額の大幅な引き上げ、法的整合性の強化および関連する国際条約の義務の履行に至るまで、本改正案草案(以下本草案)のもつ多くの新しい側面は注目に値する。

視点1:サイバースペースにおける著作権保護の強化

本草案においては「映画作品および類似の撮影制作方法により創作された作品」が「ビデオ・オーディオ作品」と修正された。これはネット上における生中継を利用した作品など新技術の発展の実情に即したものだ。

生放送技術の発展に伴い、新しい作品タイプが昼夜を問わず生まれている。数秒のショート動画は著作権法上の「作品」という定義を満たすことができるのだろうか?コンピュータのフォント、音楽ストリーミング、スポーツ大会の中継、ネットゲームの中継、あるいは人工知能による生成物、こうしたものは著作権の保護対象になるのだろうか?

中国文学著作権協会総幹事の张洪波によれば、最近少なからぬ新形式の作品が著作権上の作品と認定されつつある。しかし現行法上の「映画作品」にはあたらないため現状では「类电作品(映画と同じようなカテゴリの作品)」とされ、これはすこし強引だ。本草案は作品の類別を明確化し、ショート動画など新しい形式の作品を法律上のどこに分類するかという難題に応えるとともに、国際公約との整合を図っている。

中国人民大学知识产权学院院长の刘春田は作品創造と表現方式の日進月歩と同時に、先進的な技術の悪用による直権侵害の手口もまた絶えず進化している。現行法でカバーすることが難しい新しい形式が存在することについて、草案は「ビデオ・オーディオ作品」「放送権」といった多くの内部項目を修正することで対応しており、これは我が国の著作権制度の不断の改善努力の表れであると語る。

視点2:懲罰的賠償の導入で権利侵害のコストを引き上げる

本草案では、著作権違反に関する懲罰はより厳重になっており、賠償額の1-5倍の懲罰的賠償を課すことができるようになっている。また同時に賠償額上限もいままでの50万元から500万元に引き上げられている。

ある統計によれば過去長きにわたって著作権侵害の問題は裁判所が審査する知的財産権関連の法的紛争の60%を占めてきた。権利を守るコストが高いわりに、権利侵害に対するペナルティは低いといった問題が見られ、非難を集めていた。

张洪波は、「得不偿失(補償が小さすぎて失ったものの穴埋めにならない)」ことが著作権保護を難しくする大きな原因だと語る。法廷賠償上限額を引き上げ、懲罰的賠償を導入することは社会各層の長年の要望で、我が国の社会経済文化発展の現状にとって必要な行動で、海賊行為に対して強大な警告採用があるだろう。

「権利保護強化において最も重要ななのは違法行為のコストが違法行為の期待収益を上回るようにすることだ」と中国人民大学法学院教授の刘俊海は語る。

視点3:執行手段の追加、監督能力の強化

本草案では著作権管理団体がライセンス料の徴収と譲渡、管理費の徴収と使用、費用として割り当てたが未消化の部分の全体状況を公表し、ライセンス情報の照会システムを製作し、権利人と使用者に供する。政府の著作権主管部門は著作権管理団体の監督を強化する。著作権主管部門に当事者からの問い合わせ窓口を増加させ、違法行為をについて調査し、現場での検査とチェック、関連ドキュメントの複製と封印、物品、場所、などの職権を差し押さえる。

主管部門の執行手段が少なく、権限が弱いことも権利保護を難しくする原因のひとつだった。张洪波は本草案は著作権行政管理部門の実務執行における法的根拠を明確にし、著作権管理業務の透明性向上と専門能力の向上に役に立つと評価する。

中国法学会知识产权法学研究会名誉会长の吴汉东は、国の主管部門が著作権管理団体の管理監督を強化し、こうした団体による管理行為をより規律だったものにすることは著作者の権益にかなうと述べた。また執行能力を高めることは著作権領域におけるガバナンスを高めることにつながると述べた。

視点4:作品登記制度の追加

現行の著作権法と比較して、本草案は作品登記制度が追加されている。これにより人々は作品権利の帰属状況を知ることができ、政府の著作権主管部門が定めた登録所にて登記を行うことができる。

近年、我が国の著作権登記数量はハイペースで増加している。国家版権局によれば2019年全国で登記された著作権は合計4,186,549件にのぼり、前年同期比で21.09%増加している。このような状況にもかかわらず、現行法では著作権登記につき明確で具体的な規定がいまだ存在しない。

「インターネット技術がますます発展するという背景のもとで、作品権利帰属の整理は喫緊の課題だ。」吴汉东は、作品登記制度は多くの方面に作用があると述べる。著作権主体の認定が便利になることで帰属が明確になる。著作権主体の整理がしやすくなることで紛争の減少につながる。権利を主張する際、登記事項は著作権者の権利保有の初歩的な証明となる。権利人の経済権益を保護する。版権の対外取引の発展を促進する。

視点5:法的整合性を向上させ、著作権保護権利体系を更に整える

本草案は他にもいくつかの注視すべき修正がある。例えば「公民」という記述は「自然人」と改められた。「その他の組織」は「非法人組織」と改められ、撮影作品保護期間が延長された。

「これらの修正は現行立法に用いられる用語と統一を図ったもので、その他の民事法との整合性を高め、我が国が近年加入している国際条約の履行にも役立つ」と中华全国律师协会知识产权专业委员会主任の王正志は述べる。

刘春田によれば、我が国の知的財産保護制度は分散立法方式を採用しており、形式上民法制度体系には組み込まれていない。本草案では民法総則など民事法と表記記述を統一することで、全体的な法律体系としての完全性を高めることに貢献している。

王正志は、「立法、執行、司法保護など各方面がさらに努力をすることだけでなく、著作権審判における行政処理速度の向上、行政処罰と司法処罰の厳罰化、高額の賠償金や重い量刑などで権利侵害者に制裁を加える」と述べた。

「著作権法の修正は我が国の国情にさらに適合するだけでなく、国際慣例とも整合性を高めている」と刘俊海は述べた。