長いが、価値のある論文であると思うので全訳した。この論文の重点は「強気・タカ派的な主張を流布するメディアキャンペーンは、必ずしも強気な外交方針とイコール”ではない” (すべてを強硬姿勢として読み解くべきではない)」という点、そして国内世論と外交方針のミスマッチが起きた際、外交方針を曲げたくない政府が、キャンペーンを通じて世論を外交方針に合わせる方向に誘導している、という動機の部分だ。

メディアキャンペーンは、いわゆるプロパガンダの有力な形である(ナチスドイツなどを考えればわかるが、”プロパガンダ=対外工作”は正しくない)。そしてプロパガンダとはほとんどの場合「国民をなにかに駆り立てる」ために行われる、と私自身も考えていた。それをひっくり返されたという意味でこの論文のもたらす示唆は非常に興味深い(我々がよく言う「結局中国の外交はすべて内政の論理の延長でしかない」とも符合する)。ただし、こういう内向きの理屈を他者にわかってほしいというのはちょっと…という気もする(実際に著者も誤解されるリスクがあるという点についても触れているが、私的なホットライン設置では事態は大幅に改善しないような…)。アブストラクト部分は以下で、全文はここからpdfをダウンロードできる。また原文はこちらからダウンロードできる。正確性と可読性について可能な限り努力はしたつもりだが(分量と使える時間の関係という陳腐な言い訳もあり)、不正確な部分などがあればご指摘いただければありがたい。


外交問題における中国のメディア・キャンペーンは何を動機とし、どのように行われるのか?「影響力キャンペーン」はしばしば国際安全保障に大きく関わるものとして認識されているが、その研究はまだ十分ではない。
本稿ではこうしたメディア・キャンペーンを、国内世論が国家の望ましい外交政策から逸脱した際に、メディアを通じた動員や沈静化を利用して世論を調整する戦略的行動として説明する理論を展開し、検証する。これらのメディア効果の違いは、それぞれ2種類のメディア・キャンペーン、すなわち動員キャンペーンと沈静化キャンペーンに対応している。沈静化キャンペーンは、タカ派的なレトリックが逆に大衆を沈静化する可能性があり、それゆえその採用が穏健な外交政策の意図を暗示することを示すので、特に重要である。
21件の中国外交におけるクライシスと2016年の中比仲裁事件のプロセス追跡をサンプルとした中規模Nの整合性検証(訳注:特に説明されていないが、おそらく質的分析比較法(QCA)における整合性検証を指すものと推定される。なお中規模N medium-n はサンプルの大小を指す)の結果はこの仮説を強力に支持し、沈静化キャンペーンがどのように機能し、動員キャンペーンとどのように異なるかを実証している。


ちなみに著者は同じテーマで”The Art of State Persuasion: China’s Strategic Use of Media in Interstate Disputes“という書籍を出版している。こちらはまだ読了できていないが、状況に応じて今後内容のアップデートも検討する。