ある日突然ネットで話題の人になった「二村さん」との一問一答、そして消費者としての権利について

あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
ロシアのホテルを予約したと思ったら、取れてたのはギリシャのホテル。予約サイトにクレーム入れたら『そこからギリシャまでのタクシー代払うんで許して』行きたいわけでもない場所へのバカバカしいタクシー代補填のオファーが来た」

な… 何を言っているのか わからねーと思うがおれも何をされたのかわからなかった… 頭がどうにかなりそうだった… 催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ、もっと恐ろしいものの片鱗を 味わったぜ…

あ…ありのまま 今(略。

ある日身近にちょっと面白いことがあってそれをSNSに投稿したら思いがけずたくさん転送され、メディアが取材に殺到する。日本でも時折目にするこの光景は、中国でも毎日のように起こっている。

実は一週間ほど前、僕の身近でこうしたことが実際に起きた。微博での名前が「二村不停」なので二村さんとしよう、その彼は当初微博でたった65人しかフォロワーがいない普通の人だった。しかし事件の後一気に16,000人を突破し、彼の下にはCCTVや新華社などをはじめ、多くのメディアが殺到している。

一般人がちょっとしたきっかけで渦中の人になった時、実際に何が起こるのか。今回は幸運にも当事者に話を聞くことができたので、それを紹介したい。

「事件」の概要

马蜂窝のトップページ。ユーザから寄せられる「攻略」と呼ばれる観光地紹介記事や旅行記が主

舞台となったのは、马蜂窝(マーフォンウォー)という旅行サイト。日本でいうと4travelに近い、個人旅行の旅行記や写真などを公開することがメインのウェブサービスだ。4travel同様、马蜂窝もマネタイズとしてホテル予約などを事業としている。

二村さんは马蜂窝でロシア、ウラジオストックの「バルバドスホステル」を予約したが、马蜂窝(と提携している代理店)は間違えて「バルバドス島ホテル」というギリシャのカボスという都市にあるホテルを予約してしまった。

ウラジオにあるバルバドスホステルは马蜂窝とそもそも関係がなく、予約も受けていない。フロントでチェックインを拒否された二村さんは马蜂窝のカスタマーセンターに問い合わせる。
马蜂窝側は時差もあって対応が遅い上に国外のホテルに関してはパートナー代理店に聞かないとわからないので時間が必要などと返答し、また深夜便で飛んで疲れていた上にホテルからもどのみち空き部屋がないと知らされた二村さんは、自力でほかの宿を探しつつ、马蜂窝と賠償の交渉を始める。

しかし外国にいる彼は旅行用にデータ通信専用のSIMしか買っておらず通話できない、ということで中国にいる友達に依頼して代理で電話してもらい得た回答は「あなたの現在地から弊社が間違えて予約したホテルまでの移動のタクシー代を保障します。发票を保管してあとで申請してください」だった。

ギリシャからウラジオストックまでは(当然のことながら)車で移動する距離ではない。というかそもそも彼は別にギリシャに行きたいと思ったことなどなかった。

二村さんはそのバカバカしさを(65人しかフォロワーのいない)微博に投稿、それは瞬く間に拡散され、同時にフォロワーは急激に増えていった。

二村さんが微博に投稿した記事

結局この杓子定規すぎる対応は大きな話題となり、「马蜂窝」の名前が微博のホットトピックに入るまでになる。そして马蜂窝は翌日、謝罪を発表する。
内容は、宿泊費の補償という通常の対応に加えて、ロシアからギリシャまでタクシーに乗るとかかっただろう8万元を補償するというものだ。马蜂窝からすれば、多少ネガティブでもそこまで深刻ではない話題で微博のホットトピックに入れれば、8万元は安い取引だ、ということらしい。

马蜂窝の謝罪文。もしタクシーに乗って移動したらかかるはずだった8万元分を賠償するとある。

実はこの二村さんは僕の友人の友人にあたるため、様々なメディアが殺到する中インタビューのために時間を割いてくれた。ここからはその内容を紹介しつつ、その背後にある中国独特の「意識」についても少し触れたい。

二村さんとの一問一答。

皮肉のきいた自己紹介「马蜂窝タクシーで(望みもしないのに)ギリシャに行くプロジェクト首席体験官」

Q. 年齢・職業などを教えてください。

A. 1991年生まれ、先月30日に誕生日を迎えたので27歳になりました。今は上海の教育関係のNGOで働いています。普段は教育関係の役所や先生、学校などと一緒に働いていて、広告会社がやるようなこうしたネット上の話題を追いかける、みたいな事と接したことはありません。個人的にも別にそういった話題づくりやネットで有名になる事にも興味はないですね。
僕自身がそうした話題づくりのために马蜂窝と組んでこの事件を仕掛けたとかいう人もいるみたいですが、考えすぎですよ。

NGOで働いていることが関係しているかって?相手を尊重する事、エンパワメントそして平等はあらゆるNGOの基礎ですから、ほかの人より公平である事や人々が持つ権利について僕が敏感であることとは関係ないとはいえないかもしれませんね。

Q. 今回ウラジオストックを旅行先として選んだのはなぜ?当初、この事件が起きなかったらどんな旅行計画でしたか?

A. 実は小学校の教科書で「ウラジオストック(符拉迪沃斯托克)」という名前を見て面白いとずっと思っていました。清朝時代までは中国の領土だったということも興味を持った原因のひとつです(注:その頃の地名「海參崴Haixenwai」も中国国内では現在でもつかわれている)。

また、北京で働いていた時にウラジオが実は思ったより近いことに気づきました。そして去年の8月8日からロシアの沿海地方(行政単位のひとつ)は電子ビザ制度が開始され、ビザが非常に取りやすくなったことも今回選んだ原因です。

そしてちょうど8月末に休暇が取れたので、行ってみようと思ったのです。特に何か目的があったわけじゃないので、街をぶらぶらして、カモメを見て、駅や橋などを見て回ろうと思っていました。

Q. 马蜂窝は前から使っていましたか?また今回の件でこのサイトに対する評価は変わりました?

A. 確か2012年頃、僕が大学生だった頃から使っているので、結構早い時期からのユーザーといえると思います。 その頃から週末や休暇の旅に马蜂窝で旅行先の情報を得ていました。みんなが書く旅行記や「攻略」はとても役に立ちますよ。

実は2014年、马蜂窝の実習生(インターン)に応募したこともあるんです。残念ながらいい返事をもらえなかったけど、そのあとも1ユーザとしてずっと使っています。

今回の事件の後、马蜂窝は公開の場で謝罪し、再発防止を約束、もし万が一こうした問題が起きたときはチケットやホテル代金の三倍を保障すると約束しました。
このやり方は、起こってしまった問題に対する態度として非常に真摯だと思いますし、自社の内部体制を見直すと宣言し、また顧客向けには業界標準以上の額の賠償を用意するということからも誠意を感じました(注:業界標準は一般的に全額返金ののち、最初の一泊分のみ保障)。確かに中間のやり取りに愉快じゃないことはあったけど、最終的にはみんな満足できる結果になったと思います。

Q. 多くのメディアや企業から取材・コラボ依頼が殺到していると聞きましたが、具体的にはどのような会社ですか?

A. 人民日報や新華社で報じられ、新京報や北京TV、それにロシアのテレビ局からのインタビュー依頼もあります。
また、みんなが「どうせならギリシャに行け」とコメントするので「ロシア沿海地方のビザしかもっていないから行けない」と投稿したところ、あるビザ申請代理会社がサポートしてくれるといった話もありました。ほかにもたくさんのオファーがあります。

Q. 一般人が突然ネットで話題の人物になったということだと思うのですが、どう感じていますか?また、メディアに取り上げられることについてどう思いますか?

A. そもそもは维权、つまり消費者として当然の権利を主張したというだけのことです。なんというか…起こったこと自体面白かった事も確かですし。だから別に有名になりたいとかそういうことじゃなかったんですよね。それが今ではたくさんの人が注目し、メディアも報道するようなホットトピックになってしまった。

注目され報道される事自体はいいんですが、取り上げ方については面白い笑い話としてだけではなく、消費者の権利保護といった観点も織り込んでほしいと願っています。こうした声を上げることによって、同じようなサイトやビジネスを運営する会社が(今回马蜂窝がしたように)内部管理をさらに適正に行う努力をし、それが皆の利益になっていけばと思います。さらに言えば「話題になったから」対策として保護する、ということにも根本的には違和感があります。

二村さんのいう「维权」への遠い道

これは「维护权利=権利保護」の省略で、政府などの圧力や不正と戦ういわゆる 人権派弁護士や活動家などがよく使う言葉だという、若干ハードコアな印象がある。
その原因のひとつは、「党や政府の意向が個人に優越する」という国の基本方針だろう。そしてそうした国の制度の不具合や権利の拡大解釈、もしくは濫用する権力者が起こす摩擦の犠牲者を救おうとする活動家や弁護士は、维权を旗印に戦ってきた。

维权にはもうひとつの側面がある。中国は資本主義よりもよっぽど平等な社会主義を訴えながらその実、経済面では完全な弱肉強食ジャングルであるといえる。生活保護をはじめとした国家によるセーフティネットも薄く、競争の敗者に対してはどこまでも厳しい。だから、黙っていては誰も救いの手など差し伸べてくれない。

二村さん本人も述べているように、今回は内容が面白かった事もあり拡散され、結果として本人も満足いく補償を得ることができた。しかしそれはあくまで騒ぎになったからにすぎない。普通だったら無視されて終わりだろうというのが彼の理解であり、僕もそれは妥当であるように思う( まあ、そもそもそこまで大きな損害を被ったわけでもないのも事実だが)。

騒ぎにならなければ問題が解決されないというのは、中国ではいまに始まったことではないし、これがネット上で起きたからでもない。
街中での喧嘩での非難の応酬に始まり給与未払いの会社や不当な商売を行う店への抗議など、中国でもめ事があるととりあえず自分の理を文字通り大声でまくしたて、事を大きくしたがる傾向があるのは、要するにそうして注目を集めないと特に自分より大きい相手には一顧だにされないという現実があるのだ。

謝罪側も悪いことをしたから謝ったり補償したりするのではなく、騒ぎを収めるため、自社のネガティブな評判を広げないために謝罪することが明確なのだ。営利活動である以上言ってしまえばそれはどの国・企業にも共通の本音であるわけだが、その露骨さ、そして公正性ではなくそうした自分勝手な基準による選別に対してあまり非難が集まらないというのは、中国の特性だと思う。上で述べたように中国は弱肉強食ジャングルであり、例えばアメリカのように表面上だけでも フェアを気取る事を重視する様子もない。

この原因はなんだろう?中国がまだ発展しておらず、教育が行き届かず、みな倫理観が未熟だからなのだろうか?
…話は少しそれるようだが集団や組織の規模には適正な範囲があるといわれる。人間関係であれば150人程度(いわゆるダンバー数)らしいが、それよりはるかに大きな規模の国家についても、同じように適正な範囲があるのではないだろうか。
互いに違う地域風土に育つ人は自ずから違う言葉を話し、文化を持つ。そしてそれら多様な人々を、ある程度共通のルールや思想(法律に限らず、倫理感や社会通念なども含む)で管理しようと思えばそのルールは明文化され、シンプルにならざるを得ない。例えば日米中を並べて思い浮かべた時、その人口の多寡とルールのシンプルさ、コンテキストへの依存具合には正の相関があるように見えてくる。

しかし、ルールのシンプル化が行き着く場所は結局のところ、ルールがない状態に限りなく近い。
社会におけるルールとは、成員の権力や財力、性格など一切の個別性を加味せずに、一様に同じ現象に対して同じ結果が適用されるべきものだ。だからこそそれは公正であり、皆が従うべきものとされるのだ。しかし、適用範囲を広げるためにルールを狭くシンプルにすれば、ルール自体は順守されるかもしれないが現実にはルールでは判断できない事象が多発し、結局ルールの意味がなくなっていくという事態に陥る。
そして、元々の出自がバラバラの上に共通のルールさえ持たなくなってしまえば、集団は集団としてのアイデンティティを失うだろう。

簡単ではあるが「中国はルールが有効に機能するためのサイズを超えているため、個人の力による弱肉強食社会が形成されている」というのがここでの仮説だ。だとするとこの課題は中国が今の様子を保つ限り解決ができないのかもしれないという、ずいぶん救いのない結論になるのかもしれないが。

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