老いさらばえた黄牛(翻訳)

中国人が映画好き、というのは暮らしていてよく感じる。田舎であれば他に娯楽がないなど色々な理由があるとは思うが、20元(≒370円)程度で見ることができるというのも大きな理由で、これは比較的よく指摘される。
しかしこのチケットの安値は実はずっと昔から続いてきたわけではない。明確な統計を見つけることはできなかったが、10年も遡れば場所や設備によって異なるものの50元、60元。当時の物価水準を考えれば、日本とそう変わらなかっただろう価格帯だった。

今日紹介する文章で取り上げられているのは、その頃から最近までずっと大きな影響力を持っていた黄牛(ホアンニウ)と呼ばれるダフ屋の凋落だ。そしてその背景には映画業界の変化、そしてチケット購入方式の大きな変化がある。個人的にこうした個人の変化から入って、その背景にある業界や世界など大きな動きにつながっていくという物語が好きなので、とても楽しく読んだ。

なお、黄牛はこの映画チケットという限られた範囲では力を失ったものの、コンサートや一般のイベントごとにはいまでも必ずといっていいほど出没する。また、オンラインの素人黄牛(要するにヤフオク・メルカリの転売厨のようなものだ)もまた存在する。

個人的に出会ったことがある特に現場に出現する黄牛はみな非常に強気で、イベント開始後にも焦りが見えない…つまり売れなくても損がないような仕組みがあるのではないかと想像させられて、闇の深さを感じさせられた。

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老いさらばえた黄牛

出典: 黄牛老了(虎嗅网 2018/6/9)

4月28日の朝9時、いつものように、チェン・イーは五棵松の北京耀莱成龙国际影城にある持ち場についた。土曜日の午前、人出はいつもより多い。チェンは映画を見に来た人たちを見ながら、低い声でひとりひとりに、チケットはいらないかと声をかけていく。

“996(朝9時から夜9時、週6日)”、つまり映画館の営業時間がチェン自身の営業時間でもある。週末だからといってのんびりできるわけではない。なのに、彼のここ数年の月収は2000-3000元程度で、一番良い時でも4000元にやっと達するぐらいでしかない。これは滴滴の運転手の最低収入のレベルにも達していない。

もう往時のように映画館の入り口で客を騒がすようなことがなくなった彼らも、実は突然巻きおこったブームによって舞台に引き上げられた存在でしかない。

 

突然のチケット旋風

4月28日、”后来的我们”が公開されたその日の夜、オンラインチケット販売大手の猫眼は懇談会でCOOの康利均が話した1300万の売上の内、38万枚の払い戻しがあり、その54%は通常の日時変更などだったが、残りの46%の一部は悪意ある黄牛の行為が疑われると発表した。
しかし業界関係者はこの発表に対して異議があるという。「54%の通常のユーザーが払い戻しをしたという自体、おかしい。黄牛を持ち出すなんてさらに変だ」「この発表は変な部分がたくさんある。猫眼はマヌケ野郎を騙そうとしているだけだ」

中影股份制片分公司の制片市场総監である陈昌业は業界での経験の中で、映画チケットの黄牛にほとんど会ったことがないという。「映画祭や優待券に関して黄牛行為をする人がいる事は知っています。あとは会員カードを使うとかね…しかし、チケットはないでしょう。リスクが高すぎますから」

データによれば、この映画の初日売上は1.22億元に達した。しかし黄牛であるチェンが稼げたのは200元ちょっとで、いつもとそう、変わらない。多くの同業者と同様、チェンもまた、インターネット映画チケットによって歴史の片隅に追いやられてしまった。

 

黄牛たちの黄金時代

当年取って32歳のチェンは、安徽省阜阳の出身だ。彼にとって五棵松耀はここ7年唯一の仕事場所だ。

この業界のベテランである彼は、いくつかきまった仕入元を持っている。一部は闲鱼などの中古販売サイトで、誰かが例えば会社の福利厚生として得たものを買い取るのだ。その他にも、チェン自身が長年に渡って映画館の会員でもあるので、貯まったポイントで割引で購入することもできる。

彼は25-30元で仕入れたチケットを35-45元で売る。仕入れの量はその映画の人気度による。悪い時は、一日で数枚しか売れないこともある。
しかしチェンには一定の固定客も居る。長年同じ場所に根を張っているので、100人程度の多くは近くの住民や学生の固定客が、彼に比較的安定した収入をもたらしている。

映画チケットの黄牛はとっくに「落日の業界」になった。仕事がうまくいかくて違う業界に移っていく人は日増しに増えている。

5年ほど前は20-30人もの同業者がチェンと一緒に仕事をしていた。でも、今でも残っているのはその内数人でしかない。「残ってるのは全部老人、弱者、病人、それに障害者ばっかりだよ」。彼は自嘲気味に言う。彼らはお互いに顔見知りだが、競ったりはしない。どうせ誰も大した額を稼げているわけでもないのだ。

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これは数年前とはまったく違う光景だ。

2010年、トランスフォーマー3が長沙で唯一IMAX 3Dの設備がある万达电影城に登場した時、観客たちはいくら早く行ってもいい席を買うことはできないことに気付かされた。良席は全部黄牛に買い占められていたのだ。100元だった価格は200元にまで釣り上げられた。黄牛たちはチケットを買うために並んでいる人達に向かって「明日のいい席も全部俺らが持ってるから、明日来たっていい席なんて無いよ。ま、とっとと買って早く見ればいいと思うけど」などと言っていた。

当時、黄牛はかくも傍若無人に振る舞っていた。

华声在线が2011年に行った匿名インタビューを見てみよう。

とある映画館のチケット売り場で、数人の男黄牛が結託して、1人の女黄牛を追い出した。女は毎月数千元の「保護費」を彼らに払ってようやく4階でチケットを売る権利を得ていた。そこにいるガードマンもこうした行為を見て見ぬふりをするだけでなく、彼らと親しげにしたりする。この映画館のマネージャーは言う。「我々もなにも黄牛を養おうというわけではないんです。でも彼らに抵抗するだけの力がない」

黄牛は自分で関係者向けチケットを得ていると言う。彼らのボスが110元で内部関係者からチケットを買い付けてくるのだ。

この黄牛行為を遮断するためにこの映画館も考えた。この万达影城は毎日朝8時と午後2時に前売り券を売るという方法を考えた(訳注:これでは何の解決にもならないばかりか黄牛はこの時間帯を狙ってくれば良いことになってしまい意味不明だが、複数のネイティブに確認しても「意味がわからない」とのことなのでそのまま掲載)。でもこれでは何も変わらなかった。

金と名乗る業界関係者によれば、会員カードや団体チケットを買うのはよく見られる手法だ。また北京地区以外だと、映画館側と「コミュニケーション」して安い価格でチケットを受け取り、企業などに売りさばくような手法もあると述べる。

不法分子がこの巨大市場をみれば、乗り込んでくるのも当然だ。例えば天津を例に取ると、黄牛がいる映画館は1,2つの不法組織に依ってコントロールされている。映画館側の人々は脅迫などによってやむを得ず彼らと商売をすることになる。

もっとも華やかな頃には、黄牛はゴールデンタイムのすべてのチケットを買い占め、差額を儲けるだけでなく何倍もの値段で来場者に売りつけた。

北京商報の14年の匿名インタビューには下記のような記述がある。

黄牛は一匹狼型と団体作戦型がいる。一匹狼の仕入元はネットや、もしくはショッピングモールの優待券が多い。しかしルートが少ないので競争も激しく、彼らの収入は大体2000元程度であることが多い。翻って団体作戦型であれば競争が少なく仕入元も多いため収入も多く、5000元程度にはなる。春節などの特殊な時期にはチケットの需要が特に高まるので、月収は1万を超えることすらある。

黄牛もまた、いくつかの種類にわけられる。大きく分ければコネを元にチケットを得る方法と自分で並んで買ったチケットを売りさばく方法だ。
チェンは後者に属するといえるが、彼にだって「いい時代」はあった。12年12月、人再囧途:泰囧が公開された時、チェンは80元だったチケットを100元で売ることができた。彼は大胆にも普通は100枚くらい仕入れるチケットを1000枚仕入れ、上映期間を通して合計二万元もの収入を得ることができた。この歳、彼の年収は初めて10万元を越えた。

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それ以外にも、映画祭は黄牛たちの安定したビジネスのひとつだ。15年に開催された第18回上海国際映画祭では、組織委員会が特に公式のルートでチケットを買うよう警告を出した。これはこの映画祭では毎回、ネット上で黄牛が高値でチケットを売ることが非難されてきたからだ。

当時の环球网は

「進撃の巨人」が上映された時、本来100元を越えないはずのチケットは300元にまでなった。他にも「予告犯」は原価60元のチケットが400元にまで釣り上げられた。とあるスターのファンミーティングはもっとひどく、1000元にまで達した。
それにも関わらず高騰したチケットは一瞬で売り切れ、映画ファンが黄牛を尋ねるとチケット自体はあるけど「見たいだけじゃなく経済力のあるお客様にしか売れないね」などと言われたという。

と伝えている。この時は需給バランスが完全に崩れ、購入ルートもひとつしかなく、たくさんの客と限られたチケットのマッチングがうまくいかなかったことが、黄牛につけ入る隙を与えた。黄牛たちは情報の非対称性と各系列ごとの価格の違いを利用してチケットを独占し、生存のための空間を作り出したのだ。

 

黄牛の没落

オンラインチケッティングが普及するに連れて、黄牛たちの勢力は急速に落ち込んでいった。

2010年アメリカ映画「アバター」が中国ではじめて公開された時、国内映画市場を席巻した。特にIMAXの設備がある映画館のチケットは異常に高騰し、黄牛によって800元にまで釣り上げられた。

当時始まったばかりだったオンラインチケッティングの格瓦拉は、先に映画館から一部のチケットを預かり、映画館から買うよりも安い値段でネット上で売った。そこが、オンラインでチケットを買い、席を選び、現場でチケットを受け取るというこの方式が誕生した。

オンラインチケッティングの萌芽は、2010年から2013年の間に形成された。団体購入用のチケットが映画館で売られる定価チケットの価格の価格差が非常に明確になり、しかも便利で速いことから新しい種類のファンを増やすことに貢献した。これも、黄牛の没落のきっかけのひとつだ。

格瓦拉に続いて、猫眼电影、时光网、网票网など一群のオンラインチケッティングサービスに参入した。その当時、映画サイトの主要な部分を占めたのは団体購入だった。

当時、华夏电影发行公司常务副总经理黄群飞は以下のように予測していた

将来、映画チケットの団体購入の勝敗を分けるのは低価格ではなく、いかに便利なサービスを提供するかになるでしょう。同時に、大きな映画館が連合することで、市場の変化に対応してチケットの価格を引き下げるようなこともあるでしょう。チケットの価格を全体的に下げることで、黄牛たちの収入源を断つことにも繋がります。

2014年、淘宝电影、微影时代成立。2015年猫眼电影が独立し“三足鼎立”の局面が作り出された。ここから、烧钱大战(訳注;金を焼くような勢いの競争)が正式に開始された。その当時は、チケットに補助金をつける販売が市場の大部分を占めていた。

悪い予感は当たるものだ。

2017年になり、オンラインチケッティングはまた新たな局面を迎えた。17年末はチケット販売におけるオンラインの比率は80%に至り、この領域の競争は日増しに過酷になっている。

赤線がインターネット比率

この期間中、中国の映画史上は急速に発展した。2012には全国13,118だったスクリーン数は2017年には50,776にまで増えた。売上も12年には170.7億から17年には599.11億に伸びた。これは、映画チケットがすでに市場におけるレアな資源ではなくなったことを意味する。

青が興行収入、赤がインターネット比率の成長

金氏は、オンラインチケッティングが価格差異を減らし、オンラインでの席選択が黄牛と顧客との接触の機会を奪い去ったと考える。インターネットは中国におけるチケッティングのビジネスモデルを変えてしまった。新世代の映画ファンはオンラインの公平で透明で可視化された購買体験は、その頃横行していた黄牛は自分たちの客が減っていくのをぼおっと見ていくばかりだった。

チェンは目撃者だ。「昔のオンラインチケッティングの技術はそこまで洗練されていなかった。映画館だってそこまで多かったではない。わざわざ映画館に行ったのだから何もせずに帰ってくるなんてありえないから、並ぶしかなかった。今は全然違う。もしこの映画館にチケットがなければ別の場所を選べばいいし、しかもチケット自体とても安いわけだから」

棒グラフがスクリーン数、線が成長率

黄牛は華やかな時代を送りながら、同時にオンラインにも手を伸ばしてはいた。しかしオンラインチケッティングの成長は目覚しく、不備も改善され、それによってチケット購入方式は根本的に変わり、業界のルールもまた大きく変わってしまった。
ウェブサイトと映画館の協力関係が進めば進むほど、黄牛が生きることができる隙間は小さくなり、市場規模も急速にしぼんでいった。今では、黄牛はもはやほぼ舞台から降りたと言っても過言ではない。

 

黄牛たちの行き先

チェンは后来的我们に続くアベンジャーズ/インフィニティ・ウォーの見通しは明るいと思っている。

アベンジャーズが公開された初日(5月11日)の売れ行きは以上とも言えるものだった。北京を例にあげるなら、有名映画館での退勤後のゴールデンタイムのチケットは昼間の上に売り切れ、最前列や端っこだけが残されていた。

本紙はこの記事のための調査の途中で2名のオンラインで仕事をする黄牛と出会った。ひとりは华星UMEでの土曜日の午後1時半の回の3列目、80元のチケットを買ったがこれは大手の猫眼の半分の価格だった。ふたりとも、自分たちが売っているチケットは予期せぬ事によって変更や払い戻しされたチケットで、いくつかの映画館だけで使えると言った。

アベンジャーズの公開初日の売上は4.46億元に達した。そしてその日、チェンは500元稼ぐことができた。彼に言わせれば、1日で500元もの収入があるのはすでにほとんど見られないくらい珍しいという。

チェンも、舞台やライブなどのチケットを扱うことを考えたことがある。でもそれらの業界の闇は映画チケットに比べてもっと深い。「新人いじめもたくさんあるし、上だってチケットを回してくれるわけではない」とチェンは言う。「もう7年もの間この業界にいるから映画チケットを扱う黄牛のことはよく知ってる。収入はどんどん少なくなっていくけれど、それでも彼らは今のままだ」

金氏が知っている2人の黄牛はそれぞれ黄金時代を経験している。その内ひとりは鎮西省出身で、2009年から13年の間、つまりオンラインチケッティングがすべてをひっくり返す前に投資をして基礎を作り、自分の映画館を開いた。いまは比較的順調で3軒の映画館を経営していて、それらを近々売るつもりだ。
もうひとりは山東省出身で、転身してチケット購入代理の会社をはじめた。金氏のセリフを借りるなら、「後者はまあ、悪党が改心したようなケースでしょう。いまではちゃんと仕事をしています」。

ひとつの時代が終わり、黄牛たちはまだ行き先に光を見出だせないでいる。

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