翻訳:(承前)ウイグルで導入されている監視システム”IJOP”についての詳説

以前、「ビッグデータが加速させる少数民族地域での取締」と題した、Human Rights Watchの発表を邦訳して紹介した。この中で犯罪予測システムとして紹介されていたのがIJOP(一体化联合作战平台)というシステムだ。

僕もこのシステムの存在と名称についてこの記事を読んで初めて知った。読んでいただければわかるが、このシステムは、身分証情報とそれに紐づく履歴(移動、宿泊、施設利用)、顔情報、位置情報、銀行口座情報などありとあらゆるものが統合されることになっている。

これは(思想的なもの、また国家体制もしくは権力者が気に入らないだけというものも含めた)異分子を狩り出すためには非常に効果的であろうと思う反面、当たり障りのないように使えば、何も持たなくても電車・タクシー・買い物・宿泊・食事すべての事がスムーズにできるなど、今都市部で行われている小規模な実験の射程を大きく越えたサービスを提供することができるようになる。

ただ、文中でも触れられているように、このIJOPは少なくとも現状では新疆ウイグル自治区の限られた地域だけでの運用であり、また銀行や宿泊移動など上記であげた外部データベースとどこまで連携されているかも不明だ。

これは小さいことのように思えるかも知れないが、実際、統合運用を念頭において設計されたわけでもない複数のデータベースの情報をスムーズに統合するのはみずほ銀行どころではない騒ぎのはずだ。また往々にしてどこの国でも、政府のシステムほど遅れているものはない。そういった意味でこの統合型データベースが現実的にどこまで脅威になるのかはかなり怪しいとは思うが、「民主主義国家」にはできないこの取り組みがどうなっていくかは非常に興味がある。

前回の記事の中では「犯罪予測システム」として紹介されていたのは、現状では正確には「個人情報収集・統合システム」でしかない。それを予測に使うためには、犯罪者群と一般人群を比較し、犯罪者の特徴(例えば兄弟x人以上、貯蓄x元以下、モスクに行く頻度月にx回以上)を割り出すというステップが必要だ。そうすればその特徴を持った一般人を洗い出すことができる。

個人的には(倫理的な部分に目をつぶるなら)都市部で進行するデジタル施策よりも、学ぶべきところは多いと思うのだが。

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出典:China: Big Data Fuels Crackdown in Minority Region(HRW, Feb/26/2018)

調達通知から、IJOPは新疆連海创智公司によって提供されていることを読み取ることができる。同社は、2016年3月の記者会見で、政府と市民の日々の行動を照合し、特異な行動を検知してテロを予測するビッグデータシステムに関する契約を結んだと発表した中国の主要国有軍事請負業者であるChina Electronics Technology Group Corporation(CETC中国电子科技集公司)の100%子会社だ。

研究者によると、統合結合作戦は人民解放軍がC4ISR(コマンド、制御、通信、コンピュータ、インテリジェンス、監視、偵察)と呼ばれる「システムのシステム」に基づいて作った新しいシステムである。この軍事的ドクトリンの一般人への警察行動への適用は、新疆における警察行動が軍事的モデルに基づいて行われているという憂慮を示唆している。

中国人民公安大学、CETC、新疆公安局特別調査部に所属する研究者による数々の学術論文が、予防的警察行動アルゴリズムについて議論していることを示す。 その中には、個人の電力使用パターンが特異かどうか、例えば「大量の食糧を自宅に保管している」など、75項目に渡る「宗教的過激派」の行動指標などが含まれる。2017年7月上述の3つの組織がビッグデータを利用して「隠れた社会保障上のリスク」の情報を地方当局に伝えるためにウルムチに共同で調査機関を設置した。

IJOPと新疆における严打キャンペーン

中国北西部に位置する新疆ウイグル自治区は、1100万人のウイグル族をはじめとする、イスラム系少数民族の主要な居住地だ。中国政府は、宗教の自由をはじめ、少数民族(主にウイグル人)を含む基本的人権に対する広範な制限を課している。
これらの制限は、例えば、ウイグル人がどんな種類の服やひげを着用しているか、または子供に与えることができる名前などの制限を含む、個人的な領域を侵害するものだ。

当局は、ウイグルの言語、文化、宗教などのアイデンティティと独立の願望を「分離主義、テロリズム、過激主義」の三つの勢力の一つとして扱っている。中国政府は新疆における暴力的/非暴力的アプローチを融合した政治的アドボカシーの長い伝統を持っており、当局はこの地域における多くの抑圧的な措置と厳重な警備体制をテロとの戦いに必要であるとして正当化する。

2014年5月以来、中国政府は、「暴力的活動とテロとの戦いに対する厳しい厳しいキャンペーン(严厉打击暴力恐怖活动专项行动, 略称”严打”)」を実施しており、2016年8月に就任した陳邦国党書記長による新たな抑圧をもたらしたようだ。

公式報告は、IJOPが严打キャンペーンのいくつかの目的の役に立っていることを示唆している。 1つは隠された暴力的テロリストと犯罪集団の発見で、それ以外にも国家安全保障、民族的統一および社会的安定に挑戦する人々が誰かを明らかにすることである。政府に賛成しない(基本的人権の保護に関する問題、民族問題を含む)ウイグル人はそのすべてに含まれる。もう一つは、公的な世帯登録(户口)以外の場所に住んでいる人、海外を旅した人、移住労働者を含む「浮遊」する人々の監視と管理を強化することだ。

これが(中国の大多数を占める漢民族ではない)新疆住民にとって実際上意味することは、昨年以来の当局による強制的な同化政策の強化と、住民が持つ可能性のあるあらゆる外国との関係を断絶させることである。この施策には、パスポートの回収による海外旅行の制限、外国移住者の強制的な帰還、外国との関係がある者の投獄、少数民族言語の教育現場における利用削減と普通話利用の強制、「ふたつの顔を持つ」少数民族関係者を狙い、人々を政治教育センターに収容することなどが含まれる。

新疆ウイグル自治区では、12歳から65歳までの個人のDNAと音声の生体情報収集を実施すること、スマートフォンを日常的に検閲して保存されているコンテンツを「破壊」すること、道路や鉄道駅に数多くのチェックポイントを作成すること、多くの 警備関係者を新規に雇用しコンビニ交番を建設するなど、監視活動が強化されている。

IJOPとプライバシー保護の欠如

警察の監視権限のチェックや中国政府による政策に対する効果的なプライバシー保護に関する方法はほとんどない。警察は、監視活動のためにはいかなる裁判所命令をも取得する必要はなく、情報収集の対象になっている人が犯罪活動に関与しているという証拠を提供する必要もない。 警察署は、監視活動を他の政府機関に報告したり、この情報を公に開示する必要はない。 人々には政府がどんな個人情報を収集し、どのように使用、共有、保管しているかを知ることは非常に困難だ。

中国は、特に政府による誤用から個人を特定する情報を保護するための統一されたプライバシーまたはデータ保護法を持たない。 IJOPによって収集され保存されたデータがどのように、またどの程度セキュアに保存されているか、誰がデータを受信または共有することができるか、どのような状況でデータが削除されうるのかについての情報はほとんど存在しない。 人々には IJOPで自分に関するどのような情報が保持されているかを知るための正式なシステムはなく、それに関連した虐待の救済方法もない。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは中国全体で、ビッグデータを利用した「 ポリス・クラウド」プログラムを含む、大規模な監視のための新しい技術システムを実施する当局の取り組みを報告している。 IJOPとポリスクラウドがどのように関連しているのかは不明だが、これらは市民に関する大量のデータを収集・統合し、複数の機関で共有し、「注意すべき要員(ウイグル人、薬物使用者、精神保健上の問題を抱えている人などを含む疑わしき人物を表現するときに政府が用いる言葉)」を明示的に優先させるという同じ目的を共有している。

また、IJOPが、警察が管理、またアクセスを持つ他のデータベースとどのように連結されているかは不明だ。そのデータベースには、生体情報(DNA、音声サンプル、指紋)、戸籍および居住情報(宗教的および政治的関連などの情報を含む)、インターネットカフェ、ホテル、フライト、列車の登録情報などが含まれる。

これらのシステムの基盤は、固有の身分証番号を鍵として用いて多くの公的および私的サービスへのアクセスを実現するデータベースであり、同時に各個人に関する、政府がアクセスし、収集し、照合する膨大な個人情報データベースにおける識別子である。
新疆では、地域の無数のセキュリティチェックポイントを通過する、ナイフを購入する、ガソリンスタンドで給油する場合を含め、住民は中国の他の場所よりも広い範囲の状況でIDを提示する必要がある。 IJOPに入力されたデータの一部は、車の現在位置など、秘密でも非公開でもないかもしれないが、さまざまなポイントや種類のデータが集積されると、個人の私的な生活が大きく暴露されることに繋がる。

政府のビッグデータの使用と予防的警察行動は、すでにプライバシーの侵害を広範囲に広げている。 予測アルゴリズムは、正確性を向上させるために、大きなデータセットを必要とする。 より多くの警察部門がクラウドベースの警備システムを構築するにつれて、彼らは自らの監視活動の拡大や民間部門との協力などを通して、より多くの個人情報を収集するようになった。
考えられるように、このような仕組みは、莫大な国家および地域のデータベースが多くの国民のセンシティブ情報を含んだ個人情報を取得することに繋がり、それらは無期限に保存され、未だわからない未来の目的に使われることに繋がる。そのような慣行は、何億人もの、大部分は犯罪の疑いがない人々のプライバシーを侵す。そして 「違法な」行為が疑われる人の多くは、政治的異議や宗教的な意思表明のための行動によってターゲットにされ、彼らは国際人権法の下では保護されているが、中国においては犯罪者となる。

これらによって推定無罪の原則と、結社の自由が直接的に危機にさらされる。 IJOPは当局が関心を持つ行為にフラグを建てるが、それは決して犯罪の構成要件ではない。これらの人々は、 拷問を含む虐待に満ちた司法制度のなすがままになり、一旦被告となると通常の、つまり非政治的犯罪であったとしても告発に異議を申し立てる方法は非常に限られている。 個人的な関係ネットワークに焦点を当てたIJOPのような予防的警備システムは同時に、当局が政治的に脅威と考える個人に関連しているといった理由だけのために、疑惑と監視の下に置くこともできてしまう。

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