スマホ普及率60%の国でモバイルペイメントが98%と言われて。

「『社会調査』の嘘(著:谷岡一郎)」という名著は

「社会調査」という名のゴミが氾濫している。そのゴミは新たなゴミを生み出し、大きなうねりとなって腐臭を発し、社会を、民衆を、惑わし続けている(第一章”「社会調査はゴミがいっぱい」”より)

という書き出しで始まる。先だって日銀から発表された「モバイル決済の現状と課題」と題されたレポートは、まさにここで描かれるゴミ…とまで言わないまでも、非常に不注意というか、本筋じゃないからと適当に書いたんだろうな、という代物だ。

これを受けて再生産された意図的なゴミがTech Crunchの「モバイル決済利用率は日本6%、米国5.3%、そして中国では98.3%――日銀レポート」である。そしてこれがソーシャルメディアで「中国は98.3%!日本はたった6%!?」と拡散されるのは地獄絵図以外の何物でもない。

さて、なぜ中国について書くブログでこの話を取り上げるかというと、もちろんその中の中国の要素、”98.3%”が嘘とは断定できないが、少なくともゴミだからである。結論から書くとこの数字はおそらく

  1. Finantial Timesの2016/5/21“Urban China leapfrogs credit cards on route to cashless society”の記事を
  2. 人民日報(中文版)がおそらく紹介
  3. 人民日報(日本語版)が5/25に翻訳
  4. 日銀の決済機構局の橋本崇さんを中心としたチームが3だけを見て利用
  5. Tech Crunchがろくに4の中身も読まずに紹介

となる。有料記事であるので気が引けるのだが、一応批判目的であれば許されたはずなので、元のFTの記事に使われているグラフと前後の文章を以下に紹介する。暇なら読んでほしい。

————-引用ここから————-

In a survey of 1,000 urban consumers conducted by FT Confidential Research, a unit of the Financial Times, 98.3 per cent of respondents said they had used mobile payment platforms over the past three months, with little difference across city tier, age group or income level.

————-引用ここまで————-

注:なお、”conducted by FT Confidential Research”の所にリンクが貼られているが、お粗末なことにNot Foundになるので、本来どんな情報にリンクされていたかは不明。

別に難しい英語ではないが訳しておくと

「FTのユニットであるFT Confidential Researchが1000人の都市部住人を対象に行った調査によると、回答者の内98.3%が3か月以内にモバイルペイのプラットフォームを利用したと答えており、これは都市の級別、年齢、収入において小さな差しかない、比較的一致した結果であった。」

なお回答条件は図の下に小さく書き込まれているように「最大3つまでを選べる複数選択」である。従って全部足したら100%を超える。

さて、チャートと本文を照らして何か感じるだろうか?特にチャートの一番右下が90%である点を考慮した上で、誰か私に98.3%をこの図からどうやって読み取ればいいのか教えてほしい。

…おそらく、AlipayとWechatなどのモバイルペイメントと分類されるものをひとつも選ばなかった人が1.7%(100-98.3)であったという事だと推測はできるが、通常図にない・計算できないことをしれっと書くのは禁じ手のひとつである。要するに、その程度の人が書いた記事なのだ。

そしてその比較対象の「日本が6%」とされているのは日銀が「全国の」20歳以上の男女を対象に実施した「生活意識に関するアンケート調査(pdf)」の中にある「Q27 携帯電話・スマートフォンを読み取り機にタッチして支払いをする機能を使いますか。」という質問に「月3回以上使う」3.4%、「月1、2回程度使う」1.1%、「年に数回使う」1.5%の3つの項目で回答した人の合計と思われる(なお、どうでもいいがこの上に「日常生活で使っている銀行券は汚れていると思いますか。」というこの次の第69回には聞いていない謎の質問がある。しかも千円、五千円、一万円は聞いているのに硬貨については聞いていない)。

話を戻すと、このレポートは冒頭で「日本では店頭でのモバイル決済方法として、バーコード(QRコード)やBluetoothを用いたビーコン方式等でのサービスも提供されているが、これらの市場はなお揺籃期にあり、統計も整備されていないため、ここでは、電子マネー用の決済端末を用いる、FeliCa方式の電子マネー携帯に注目する」とはっきり宣言している。それであれば、この「携帯電話・スマートフォンを読み取り機にタッチして支払いをする機能」についての調査結果を使うこと自体は間違っていないのだ。

要するに、その比較対象として基本的にはQRコードを媒介として行われる中国のモバイルペイメント(しかも読み取れるだけで都市部住民限定、過去三か月の使用経験というアプリが入ってれば「まあ一回は使ったかな…」と思うくらいの数という条件付)を選んでいる事がまず間違いであり、そして次に出典が明らかでないデータを都合がよさそうだからと適当に使ってみたら実際出典もゴミだったという、なんともお粗末で悲しい結論なのでした。なお出典まで明記してあるのにあたかも日銀の調査のように書いているTech Crunchはちょっとあとで体育館の裏に来るといいと思います。

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