7月8〰12日にかけて、アリババの本拠地である中国杭州で造物節(Maker Festival)という大型のイベントが行われている。会場は昨年9月にG20が開催された国際博覧センター。日本をはじめとした各国メディアも招待されていたようだが、特にそれとは関係なく会場を訪れたので、簡単に紹介したい。ちなみに今回で二回目の開催となる。下の動画はプレスリリースより。

108の「メイカー」による個性的な出品が楽しい

イベント全体の雰囲気は規模が大きく豪華なデザインフェスタ、またはワンダーフェスティバルと考えればいい。様々な分野の「メイカー(造物者)」と呼ばれる出展者が自分が日ごろ淘宝に出品している品を紹介するというのが全体の趣旨で、ただデザフェスやワンフェスと違うのは、基本的に販売を目的とはしていないことだ。

期間中のアプリトップページ

全部で108の出展者は売り上げ上位などではなく趣旨に沿った面白さがあるか否かで判断されていて、聞くところによると売上の規模では月に数件〰数億までかなり分散しているそうだ。出展者の種類も幅広く、紙でできた傘を売る「纸伞之家」、日本に留学している中国人が宇宙ガラス???を出店する「武之蔵」やひたすら鉄を打つ音が響き渡り近隣ブースに多大な迷惑をかける「同盛永鉄鍋店」から、爆発的にヒットした「奇葩说」をプロデュースした马东率いる米未传媒(MEWE)やこちらも人気バラエティ番組「火星情報局」のオフィシャルショップ、くまモン(KUMA萌部长)まで、かなり幅広い。逆にちょっとおしゃれな服や小物、程度のものはあまり見かけなかった。どれもかなり「濃い」印象だ。

中央舞台では人気バラエティ「火星情報局」のイベントを開催

入場料は128元(≒2000円)と、決して安くはない。ただチケットは発売後すぐ売り切れ、オークションでは2倍以上の値段がついていた、時には600元以上で落札する入札者もいたようだ。

台湾でも開催

7/7-7/9まで、台湾台北の101でも同時に開催されている。しかしこちらは出展16店舗と、かなり小規模。

アリババの狙いは?
①双十一に続くアリババ第二のアイコン?

アリババはすでに、毎年11月11日に開かれる天猫双十一购物节という買い物のイベントを持っている。この双十一は2016年で開始後1分で売上1億元を越え、最終的に24時間で1200億元(≒2兆円)を超えた化け物イベントだ。しかしこれはあくまでアリババの2つの主力プラットフォームの内、後発であるB2C中心の天猫が中心になっているイベントで、アリババにとって歴史が最も長いC2C中心の淘宝から生まれたわけではない。
そこで,今度は淘宝のアイコンになるようなイベント、しかもあくまで「オンラインで物を買う」イベントである双十一と対を成す「オフラインで体験する」イベントを考えたのではないだろうか、と感じた。ちなみに配布されていた冊子には来年も夏に開催すると予告されている。

アリババの狙いは?
②杭州の地域振興?

会場は広く、作りこまれたブースは出展者によるものとは思えず、おそらく主催者のアリババ側が用意したものだろうと思われる。普通に商品を展示しているだけのブースもあったが、漫画の世界観を立体的に表現したり、商品と全然関係ないアトラクションを設置したりと、本当に力が入っていた。当然入場料収入だけで賄えるはずもなく、アリババにとっては相当の持ち出しになっているはず。
このイベントの狙いは、完全に生活に定着したがゆえに逆にあまりに日常的になりすぎた淘宝を改めて「新しい・面白いものが見つけられる/驚きや発見がある場所」としてアピールし、直接的にはこれらのサイトの滞在時間、検索回数を伸ばすことにあると思われる。

しかし、それだけが目的であれば、別に実際のイベントとして行う必要はない。淘宝には既に多くの訪問者がいるわけで、そのトップページを数日ジャックするだけで目的を達成する事ができるだろう。今回本社が所在する杭州でわざわざこのようなイベントを行った理由(ちなみに第一回にあたる前回は上海の万博跡地のホールで開催)は、杭州という街全体を「メイカーの街」としてブランディングする目的があるのではないだろうか。

杭州はもともと上海の奥座敷であり、また浙江省全体でいっても温州商人と呼ばれる成功者を数多く生んできた。そして近年では「北上広深(北京、上海、広州、深圳)」の内、伝統的に豊かで独自の文化は持つものの新しい産業の成長が弱い広州に取って代わりつつあると言われる。
アリババをはじめとする全国的に著名な大企業の本社を揃える杭州は、しかしムーブメントを生み出す街ではない。逆に深圳はたった25年の内に世界の工場の代表からはじまり、今ではドローンなどのハイテクの創業の街として(実態はともあれ)脚光を浴び、李克強総理も視察に訪れるなど、注目が集まっている。杭州はその深圳と争うために独自のポジショニングとして「メイカー」を選んだのかもしれない。

 

なお、プレスに対する事前予告もなかったようで出会えなかったが、10日には飛び入りでアリババの創始者であるカリスマ経営者ジャック・マーも登場したとのこと。

※なお当日はこうしたメイカー系の展示と同時に、アリババが8月に投入する音声入力デバイス「天猫精灵」のデモンストレーションやAmazon GOと似たコンセプトの無人店舗も出展されていたが、別稿に譲る。

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