SNSマーケティングの定石、热点营销

中国におけるSNSアカウントのマーケティング手法のひとつに、热点营销というものがある。さしづめホットトピックマーケティング、とでも訳すのがいいのだろうか。
その時期にSNS上を賑わす話題を時にはすぐわかる形で、或いはよく考えるとやっと比喩だとわかるような形で表現することでシェアを促すもので、大喜利のようなものと表現するのがわかりやすいだろうか。

中国で広報・PR(中国語では公关)に関わる者の力量はこのホットトピックをどれだけ見つけ、発信できるかにかかっていると言っても過言ではない。逆に言うと、「热点」として取り上げられた話題は、事実その時期の特に若者の興味関心をストレートに反映していると言える。

大喜利の王Durex

日本では主にTwitterにこの「大喜利」がうまい企業アカウントがいる。例えば先ごろ停止してしまったがシャープやタニタ、少し前であればNHK_PRやゼビオなどが代表だろうか。
では中国では?と聞かれた時、おそらく一番最初に名前が挙がるのがコンドームメーカーのDurex(杜蕾斯)だろう。外資にも関わらず、話題作りがとびぬけてうまいと言われている。文章ネタはわかりづらいので少し画像系を紹介すると…

シェアライド大手滴滴打车(Didi)がUber中国を吸収合併すると発表した日の投稿。
iPhone7発表当日の投稿
スターウォーズ新作公開に合わせて。

などなど…大体、热点营销とはどのような概念のものか、わかっていただけただろうか?もちろん実際の手法はもっと多彩で、ここで紹介しているのは日本人でも比較的わかりやすいものだけであることは一応述べておく。

 

加速する閉鎖・削除

さて、前置きが長くなったが、ここからが今日の本題である。先日紹介した「2017、私たちはこのような中国を生きる。」にも表れているように、最近の中国では様々なウェブサービスが停止させられたり、アカウントが凍結されたりといったことが起きている。

以前はアカウントを停止させられるといえば政治的に敏感(=政府にとって不都合)なアカウント、つまりジャーナリストであったり、活動家であったりといった人が多かった。
しかし、最近のターゲットは直接的な政府批判の発言などが原因で停止されているわけではない。いわば今までは「ここまでは許される、ここを越えたらダメ」というある種の暗黙のルールを皆わかっていてそれを超えるのもある種の確信犯だったものが、ルールの境目がどこにあるのかわからなくなってきたということで、皆不安になっているのだ。おそらくそれが先日の文章の筆者、林木木の言う「窒息感」のひとつの原因なのだろうと思う。フーコーの言った「効率の良い監獄」パノプティコンを思い出す。

 

「炎上マーケティング」を越えた「検閲マーケティング」

そのような状況の中で、この「热点」をマーケティングに使うという猛者が現れた。日本にも「炎上マーケティング」という言葉はあるが、それを越えて「検閲され、凍結されることを前提」としたマーケティング手法だ。行ったのは「猎豹清理大师」というアプリの公式アカウントで、このアプリはメモリ掃除や重複画像の削除などの機能を持つ。

彼らが投稿した文章が以下。非常に短い。タイトルは「この文章は、僕たちと北朝鮮人だけが理解できる」。そして、「下記のいくつかはもうなくなったし、将来にわたってもおそらくないだろう」という書き出しで始まり、いくつかの単語が並ぶ。そして最後に書かれているのは「悪くない。我々が消すのは、全部、あなたがいらないものだ」。

ではこの単語は何なのか?実はこの内いくつかは前回の投稿にも出てきている。いずれも検閲か、もしくは運営元の自主的な「努力」により消された言葉、中国語で言う「敏感词」ばかりなのだ(それぞれの単語についてはこの記事の文末で解説)。それが「いらないもの」かどうかは…。

この投稿が面白いのは、要らないデータを消す機能を謳うアプリが、記事が消される事を前提に、過去消された言葉をわざと羅列するというメタ的な方法(少し複雑だが…)。しかも投稿自体にも仕掛けがあり、最後まで読むと最初のほうから徐々に文字が消えていく仕掛けだったという。敏感词を並べるという行為は当局にとっては挑発でしかないわけで、削除されることを見越して投稿していることは間違いない。

そして猎豹清理大师の悪ふざけは、ここに留まらない。その翌日に投稿されたのが、以下だ。

この文章は、僕たちと君たちだけが理解できる(リンクは原文)」という、前日の消された投稿のタイトルと韻を踏んだ形で、アカウント名の横の本来個別の投稿者名を表示する「没被开除的 (まだ解雇されていない)」と表記している上、「昨日の自分は消し去りました。しかしこのような皆様の反応と気持ちは、消してしまうのには忍びないものです」と書き、昨日の投稿についた反応を弾幕風に紹介している(余談だが、ニコニコ動画から興った「弾幕」は若いネットユーザーの間では中国語の語彙に既に取り入れられている)。紹介されているコメントの中には上で紹介したDurexよりすごい!今年の一番いい広告だ!といった反応も見える。

 

そして、この文章は「この世界にはどうしようもないことがたくさんある。しかし君たちが不快に思うすべてを消す手伝いを、ずっと続けて生きたい。君たちがいるから、僕たちがいる。」と締められている(原文は最後にフライドチキンの写真が貼られているが、恐らくネットスラングの加鸡腿、要するにイイネ、もしくはニコニコで言う88888の意味と思われる)。

 

文末おまけ、それぞれの解説

A站影视区、B站电视剧
前回も出てきたようにそれぞれAC Fun、 Bilibiliという動画サイトの事。7/12にドラマやアニメが全面的に見られなくなる、もしくはそもそもそうしたものを扱うコーナー自体が消滅するなどした

卫视频道上的古装剧、偶像剧(衛星放送チャンネルでのアイドル・時代劇)
出版・放送関係を統括する部署である国家新聞出版広電総局(略:広電総局)が7月5日に発した通知。「19大(今年秋に開催される第19回全国代表大会)を成功させ、建軍90年(8月1日が建軍節と呼ばれる記念日)を祝う」ために、この期間中は衛星放送(大雑把には日本の民放)でエンタメ性の強い時代劇やアイドル物(という名前だが、トレンディドラマと思えばよい)を禁止するというものだ。

韩剧(韓国ドラマ)
「限韓令」とも言われ、16年後半より韓国ドラマの輸入や韓流タレントの起用が制限されるようになった。 参考記事

毒舌电影、关八成长协会……
前回も取り上げた最近凍結されたゴシップアカウント。

VPN
つい最近、大手通信3社に向けてVPNを遮断するような指示が下ったとされる。そもそも年初から数回にわたってVPNを規制するという事は話題に上っており、遅かれ早かれ…と心配はしているが、さて。 参考記事

同性恋(同性愛)
知りうる限り最近特別な事件はないが、中国において同性愛は15年ほど前まで流氓罪(チンピラ罪)に該当するとされ検挙の対象だったくらいで、一部の大都会を除き、非常に難しい環境におかれているのは確か(この話題だけで何本か書けるくらい背景は込み入っているが、一人っ子政策であったり、ゲイリヴが有る時期の「唾棄すべき資本主義の象徴」であったり、様々な面で同性愛者の立場は中国では難しい)。ネット上での事件というレベルではなく、社会全体で「敏感な話題」とされている。

不懂球的胖子(球技がわからんデブ)
こちらも前の投稿で出てきた中国の卓球代表総監督で6月に閑職に追いやられた刘国梁を指す言葉で、リオ五輪の時彼がTVに映ったのを見た台湾人が「中国チームの後ろにいるデブはあれはなんだ?役人か?見た感じ卓球の事がわかるとはとても思えないんだが」とBBSに書き込んだことが元ネタ。刘国梁は日本語版のWikipediaの項目にもあるように、偉大な卓球選手。
この項目だけは直接削除された言葉ではなく、削除されたのは6月に彼が監督を辞任させられた際に試合をボイコットした選手が微博に投稿した文章。

建国后成精的动物(建国後の動物は仙人や妖怪になってはならない)
少し古いが、15年初に上でも出てくる広電総局から出された通達のことを指すと思われる(背景はおそらくマルクス主義に則った人の偶像・神格化の禁止)。この種の通達はかなり多いし、その数と不可解さをネタにして「またこんな通達が」と嘘の投稿が話題になることもあるので、注意が必要ではある。この2年前のネタも言葉遣いが面白いからか定期的に復活して話題になっており、調べても出元がはっきりしない。

北电侯亮平
これも前回の記事に出てきた、北京電影学院のセクハラ事件を実名で告発して抹消されたアカウント名。

 

以上。この文章は(おそらく)消えたりしないので、ご心配なく。

出典:猎豹清理大师微信公众号(ただし現在は削除、2017/7/13発表)