世界には腐るほど有名な創業者・経営者がいる。例えば創業者であればビル・ゲイツもいるし、ジョブスもいる。経営者としてなら同じジャック、即ちGEのジャック・ウェルチがいて、IBMのルイス・ガースナーもいる。他にもザッカーバーグもいれば、イーロン・マスクもいる。彼らはそれぞれに有名だが(偶然すべてアメリカ人だ)それらと比べても、個人的にはジャック・マーは、傑物だと感じる。

正直、彼の実務能力はよくわからない(少なくとも英語は孫正義の5000倍くらい上手いが)。ただ英雄は多くの伝説に彩られているべきだと思う。この一点において、ジャックはその資格を持つ。

恐らく一番有名なのは孫正義は彼と5分会って数十億の投資を決めた話だろうけど、他にもすぐ思いつくだけで英語の腕を見込まれて市の依頼で高速道路を売り込みにアメリカに行ってインターネットに出会った話、「十八羅漢(=彼と共にアリババを立ち上げた18人の同志)」を中心としたアリババ立ち上げの困難の話、外資の巨人であるeBayとの戦争、大好きな武侠小説の設定から名前をとった業界シンポジウムを開いたが自分の名前では参加者を集められないのでその作家を担ぎ出してそれをダシに有名企業の社長を釣り出席させた話…まるで彼が大好きな武侠小説のような、聞く者を心躍らせ、引き込む話が数知れず、つきまとう。

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彼の現時点での「伝説」を知りたければ(インターネット上にも腐るほどあるが)日本語であれば「Alibaba アリババの野望(王李芬 李翔/角川書店)」がいいだろう。これはアリババ公式のジャック・マーの半生記である「穿布鞋的马云(布靴を履いたジャック・マー)」の訳ということになっている。

「ということになっている」とわざわざ書いたのは、ぼくの手元には原著も日本語訳もあるが、原著が3人の共著になっているものが日本語訳のほうのクレジットでは2人に減っていたり(「公式本」をうたっているのに減ったのはアリババグループの副総裁でありアリババ研究院院長の高红冰というのが意味深)、中身もよくある圧縮・削減ではなく、日本語だけに付け加えられている部分もかなりあるため、訳書というにはちょっと違う気もするということが理由(追記、後から考えると翻訳時点では完全に訳されたが、後で原著のほうが加筆されただけな気もしてきた)。

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蛇足かもしれないが書いておくと、なぜ日本語訳にもかかわらず中国人に訳させるのだろう?正直良くわからない。2人いる訳者の内おそらく鄭重さんのほうが主な訳者だったんだと思うけれども、他の訳書のプロフィールを読むと85年生まれ、出版当時で30歳。05年来日なので、20歳の頃に来日して10年という計算になる。

国籍がどこの人が翻訳しようが別にどうでもよいのだが、一般的には翻訳は外国語から母語に対して行うほうが精度が高いとされている。この方は専門が文学のようなので普通の人に比べれば相当うまいのだとは思うが、それでも外国人であるかぎり限界があるのが普通だし、別に日常生活であればそれでよくとも、出版物であれば校正の手間が増えるだけで出版社として起用の意味がない(参考まで、身の回りの日本在住10年超の中国人のレベル上限は「電話で話しても気付かないが、『は』と『が』の使い分けはわからない」くらいだ。ちなみに東大の大学院を出て日系の上場企業で中国と関係ない仕事をしている)。
そうした経緯で翻訳に強いオフィス宮崎が協力で(おそらくネイティブチェックとかで)クレジットされているものと思われる。読んだ限りではこなれた日本語になっていて外国人が書いたものとは思えないのはそうした(普通は必要ないと思われる)コストをかけたからだと思われるのだが…謎だ。

ともあれ、それがこの本の中身に何か影響するわけではない。CCTVの元アナウンサー/起業家と雑誌記者、それぞれの視点で書かれたこの本は非常に面白い。またジャックは中国人のアイドルであり誇りでもあるので、もし中国人・中国企業と接する機会があるなら、その生涯について多少でも知識を持っていると喜ばれるだろう。

ちなみにもっと手軽に読みたければ、「現代中国経営者列伝(高口康太 星海社新書)」でも一章が割かれている。この本は章ごとに有名な中国の経営者8人の伝記を簡単にまとめており、近年の中国における成功者の知識をコンパクトに得ることができる良書である。

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本題に移ろう。いささか旧聞に属した感もあるが、9月8日、アリババは本拠地のある杭州で年会(春節前に行われることが多い、一種の忘年会のような社員大会。アリババは9月9日が創業なのでその創業記念を兼ねて9月に実施したものと思われる)を開催した。メディアではMJの真似をしたとかいうことが取り上げられているが、今日はそこでジャックが語ったアリババの未来についてのスピーチ全文を紹介したい。

企業の18周年というのはパッと聞くと少し中途半端にも聞こえるが、大人になる年齢であること、そして何より上で触れたように「18人からはじまった会社」であることで特別な意味を持つ数字という風にぼくは理解している(しかし、資金のあてもないのにいきなり18人も雇ってしまう辺りがつくづく中国だな、と感じるが)。

なお、この年会の様子は全編録画され、公開されている。この記事の最後に埋め込んでおくので、時間があれば実際にこれを話す様子を聞いてみてほしい。今回取り上げているスピーチは会の締めのスピーチだった模様(3時間14分からが彼のスピーチ部分)。

スピーチ自体結構長いので、お暇な時にでも。

 

アリババ18周年スーパー年会
ジャック・マースピーチ全文:
理想主義者がなすべきこと

出典: 阿里18周年超级年会马云演讲全文:理想主义者的责任和担当(搜狐/微信公众号”格隆汇”より転載 2017/9/9)

图为马云在阿里巴巴18周年年会上出场表演。主办方供图

みなさんこんばんは!

私は先程客席に座り舞台上で発表されているアイディアを聞いて非常に思うところがありました。しかし、今の张勇(訳注:アリババの現任CEO)とEric(訳注:井贤栋 Eric Jing 蚂蚁金服集团総裁)のスピーチを聞いて、もう私が話すべきことはほとんど話されてしまったような気がします。これから私が話すことはそれらと少し重複してしまうかもしれません。そしてさっきまで踊っていた時の気分でちょっと沈んでいるので、私は先程までの今日の話はそこまでいいものにはならないと思います。
思うんですが、なぜ、毎回黄龙(訳注:会場の黄龙体育中心)にきてショーをやるとなんで成功しないんでしょうか?家で練習している時は毎回成功するし、規模が小さい時も特別にいい感じです。なのに、こうして大きな場所に来るとだいたい失敗する。

なので、私はこうした大きな場所で状況をコントロールできる人の行為を見ることを楽しんでいます。私自身はここ10日、次の双11のための自分が比較的得意なプロジェクトのために時間を費やしていたので、この会のために多くの方々が巨大な努力をしているのを見て煩悶として、せめて素敵なパフォーマンスをしたいと思いました。しかしこの10日というものこうしたことをしていませんでしたので、昨晩は夢の中にまで練習の風景が出てきました。しかし一回舞台にあがり音楽がなると、北も南もわからなくなり、全部ぐちゃぐちゃになってしまいます。なので、皆さんには私がいかに沈んだ気持ちでいるかを理解していただきたいと思います。

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我々の18年、アリババの18年に対して私はたくさんの思いがあります。ここに至るまでに様々なものを支払ってきました。しかし得たものは支払ったものより遥かに多いです。我々は時代というものに、インターネットに、中国に対して感謝しなければいけないでしょう!すべての同僚の皆様に感謝したい、以前30分でもいいからアリババで働いたことのある人、多くの力を注いでくれた人、協力してくれるパートナー、彼らの存在なしに今日という日はありませんでした。この感謝の念は永遠に言い終えることが出来ません。逍遥子(CEO张勇の別名)も感謝を述べ、Ericも感謝を述べましたが、私はそれでも重ねて感謝の気持ちを表さずにはいられません。

18年来の最大の変化は、我々がたった18人から、昨晩時点で54,421人の、70の国家から来た、21の国と地域にオフィスを持つ会社になったことでしょう。湖畔花园で創業した頃は毎日のように社員大会を開いていたものですが、今はこのような社員大会を開くために1年もの準備期間、山あり谷ありが必要です。
しかし、それでも私がこれをアリババの最大の変化の一つだと思います。私は創業当時、18人のチームに、将来のアリババにはたくさんの才気に溢れた人材や美女がいるなんていう可能性を考えたことがあるか?とよくきいていました。しかし。今日のアリババはすでに2.2万人の美女がいて、3万人を越える人材がいるわけです。私はこの点を本当に誇りに思います。

その頃他にもいろいろなことを夢見ました。朝はパリにいて、午後はロンドンにいて、夜はブエノスアイレスでディナーをする。その頃私は英語を勉強していて、思い描ける最大の夢はそんなものでした。しかし今になって思うとこの夢は一種の災厄のようなもので、私はといえば去年1年で870時間もの間空の上で過ごすことになりました。しかし去年アリババのすべての従業員が空の上で過ごした時間を足し合わせると68万時間、つまり77年の時間になるそうです。みなさまの奮闘に感謝したいと思います!

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この18年間の最大の成功は、皆様という、18人から5.4万人に増えた仲間を得たことだと思います。我々の最大の財産はあなたがたです。私自身もアリババの一番自慢できることは5.4万人もの従業員が会社に貢献すべくいつも努力してくれていることだともいます。本当にこのことに感謝をしたいと思います!

しかし今日は18周年とはいえ、なぜ年会を開かなければいけないのでしょう?なぜみなさんが一箇所に集まらなければいけないのでしょう?我々が今日集まったのは成績をアピールするためではありませんし、実力をひけらかすためでもありません。なになにを達成したと自慢するためでもない。それは一度冷静になって未来のことについて深く考える必要があると感じたからです。
なぜって我々は18歳になったじゃないですか!我々は大人になりました。大人になれば、社会や顧客、各界の我々に対する期待もまた変わります。明確に知っておかなければいけないのは、アリババの市場価値は全世界で6番目になったとはいえ、これは実力でTOP10に入ったわけではないということです。あれら偉大な会社と我々の間にはまだ遥かに長い距離があります。我々は他の人々が想像するような強さはありません。他の人が思うような万能の存在ではないのです。

 

未来から見れば、我々はまだ子供です。しかし、湖畔花园で創業した頃に比べれば、まあバカでかくなったと思います。私が今言っているのは私自身の思いです。18歳のアリババは、すべての18歳が犯すような間違いも犯してきました。無知も妄想も、すべてあります。しかし今日集まった皆様に考えていただきたい、変えていっていただきたいのは、未来の挑戦にどう立ち向かっていくかということです。

18年前我々は湖畔花园にあつまり、インターネットを信じ、電子商務を信じ、お互いを信じあうことでともにひとつの機会を掴んでひとつのことをやりとげました。以前聞いた、とある人の話で印象的だったのは「大多数の人は見たものを信じるが、信じたものを見ることができる人はごく少ない」ということです。私はアリババ人はこの18年ずっと成功を信じていたからこそ、今日という日を迎えることが出来たと信じています。

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それから18年後、数万人となった我々は今再び杭州に集まって、何のために事業を行い、なにを持って、何をすべきか、何を堅持するべきか、未来はどこにあり、どこにいけばいいのか、改めて考えなければなりません。先程Ericと逍遥子が多くの問題について明確に話をしたと思います。
18年前私が見たのは機会でした。そして18年後の我々の前にあるのは巨大な挑戦です。この世界の挑戦はどんどん大きくなってきています。今後30年の政治・経済・文化・宗教、様々な衝突、技術の変革、社会の変革はいずれも非常に大きいでしょう。私が常に心を痛めている環境・貧困・疫病・不公平の問題はさらに目立つようになるでしょう。特に技術の変革・発展によって多くの人が職を失い、未来を探さなければならない。アリババは5万人の従業員がいますが、2.5万人はプログラマーや科学者です。我々はすでに高い技術力を持ち、リソースとクライアントを持ち、一定の影響力を得たと言っていいでしょう。

世界の未来の問題、中国の未来の問題、家族の未来の問題について我々自身がなにをすべきか考えなければなりません。なぜなら我々は18年で積み重ねた人材、技術、リソースや影響力、こうした他の人が持っていないものをもっているから、です。これは財産であるだけでなく、責任でもあるのです。

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理想主義を持ち続けたことが、アリババを18年間存続させてきた原因だと思っています。逆に私が最も心配しているのは、みなさんがすべてを得たと思い込み、それを忘れてしまうことです。
理想を無くした人の話ほどつまらないものはありません。組織が理想を忘れ、会社が理想を忘れ、毎日金を儲けることだけを考えていたら、我々は金を稼ぐマシーンに成り果ててしまいます。
この世界には我々よりもうまく金を稼げる会社がいくらでもあるでしょう、ビジネスモデルが我々よりも優れている会社もあるでしょう。しかしこの世界においては、一人ひとりが明確に自分が何があり、何が欲しくて何をするのかが明確でなくてはなりません。アリババでは、仮にすべてを失ったとしても理想主義だけは失うわけにはいかないのです。

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今日のアリババは普通の会社ではありません。ひとつの新しい経済体となったといえるでしょう。以前の経済体は…例えば長三角、デルタ、カルフォルニア経済体などなど地理的なものでした。しかし今日インターネット上には新しい形の経済体が生まれようとしています。私はこのような新しい形で私達の準備してきたことを行いたい、すなわち全世界の若者に、全世界の中小企業に「世界中どこでも売れて、買えて、支払えて、運営できて発送できる」ということを提供したい。
もっと多くの発展途上国家、中小企業や若者がグローバル化、自由貿易の恩恵に預かることが出来て、創業やイノベーションを起こすことが出来、技術がもたらすプラスを、マイナスではなくプラスを味わえるようになって欲しい。

したがって、アリババはすでに新しい経済体となりました。規模の上でいえば、世界で21番目に大きな経済体といえます。しかし私の未来の希望は、あと19年後には、世界5番目の規模になるということです。

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このTOP5の経済体というのは規模の話だけではありません。責任があるということも指します。私は全世界に1億の就業の機会を創出したい、20億人の消費者にサービスを提供したい、1000万の中小企業がビジネスをするプラットフォームを提供したいと思います!

この経済体が創造する価値は世界経済が持続的に発展するための貢献であり、世界の健康で豊かな成長を助けるものです。したがって、経済体と普通の企業の違いは、普通の企業は自分の利益を主に考えるところを、経済体であれば社会的な責任を考えなければいけない。これは規模の違いに起因するものではありません。負うべき責任の違いであり、これが主な違いです。本日皆さんに集まっていただいたのも、これを伝えたかったからです。

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将来5~10年は世界経済にとって非常に重要な時期でしょう。中国経済にとってもそうです。当然、世界経済も中国経済もいつでも永遠に重要な時期では有るわけですが、技術の変革という点において、世界は変わらなければいけないでしょうし、この変革は痛みを伴うものであるでしょう。

皆さん御存知の通り、今日の中国は14億もの人がいてその中には多くの違いがあり、変革することは非常に難しい状況です。政府がひとつのお触れを出せばすべて解決という状況ではなく、ビジネスを行う企業としても社会の進歩に向けて負うべき責任があるはずです。改革の途中では市場の力、創業の力、技術の力が必要です。アリババはこれらの面を担わなければなりません。我々は様々な業界の発展進歩を刺激する存在でなければいけません。
18年前、私達の理想は世界に尊敬される中国の会社になることでした。当時、私はやりたいとおもったことをなんでもやることが出来ました。しかし今日はそういうわけにはいきません。時代・国家・社会や世界のことについて考えなければいけないからです。それは我々は他の人が持っていないものをもっているからです。我々は国家や世界、そしてそれぞれの家庭について考えを巡らせなければいけません。それでこそ、我々アリババは尊敬を勝ち得ることができるのです!

将来5~10年で我々は誰を越えるとか、世界のTOP3になるとか、そういったことは必要ありません。我々に必要なのはどのように問題を解決し、中小企業のために、また若者のために、そして「世の中のビジネスをもっと簡単に(訳注:アリババの社是「让天下没有难做的生意」)」という約束を行動に移します。忘れてはならないのは、世界には大きくて潰れないという会社はありません。それはただの幻想です。そこにあるのはいい会社だから潰れない、というそれだけであり、アリババは自分を大きくすることではなく自分を良くしていくべきで、そのもっとも重要な原則とスタンダードは、お客様の我々に対する信頼なのです。

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そしてここで、先程逍遥子と井贤栋(Eric)が強調した部分を再び強調したいと思います。未来のアリババはグローバル化に全力を尽くします。すべてのことはグローバルの視点で見なければいけません。グローバルの能力、グローバルの資源、各方面のリソースを持って社会の、世界の、未来の問題を解決しなければなりません。グローバルの流れは猛烈なものがあるし、我々はそれを止めるべきではありません。アリババはグローバル化を良い形で実現させる責任があります。

我々はまた全力を持って、いかなる対価を払ってでも農村の発展に尽くすべきです。技術の発展は貧富の差を拡大するために使われるべきでなく、むしろ徹底的に、皆がその利益に与れるような、全人類が享受できるようなものであるべきです。したがって、私たちは中国の脱貧困の力になるべきであり、またグローバルの脱貧困の力になるべきであります。我々が貧困の問題を解決することができたなら、アリババは利益を自慢するのではなく、売上を自慢するのではなく、規模を自慢するのでもなく、我々が負う責任と、そこで得られるものをこそ、自慢すべきです。

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我々はさらに新しい技術を投入します。BATの内、ジャックマーが一番技術に暗いという話を聞いたことが有るでしょう。しかし最も技術に明るくない人が最も技術を愛しているというのもよくある話です。今のアリババは2・5万人ものプログラマーやサイエンティストがいます。彼らがアリババのために起こした無数の奇跡に感謝したいと思います。あなた方は世界のために奇跡を起こしてほしいと思います。
技術の投入は資金の問題だけではなく、コミットメントの問題でもあります。我々の約束・使命は、技術の発展で社会、世界に貢献するためです、未来のアリババは新しい市場を勝ち取っていかなければいけないでしょう。それは金額で市場を圧倒することではありません。私たちは世界の何番目だからといって尊敬されるのではなく、売上や利益がすごいからではなく…もちろん売上や利益はすごくなければいけないのですが!そうではなく、世界を、未来を、中国を、そして我々が愛するすべての人達のために価値を創造し、問題を解決することによって尊敬されるべきです。

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最後に、私達の幾つかの関係についてお話したいと思います。まず我々にとっては永遠にお客様が第一です。お客様の信頼と支持無くしてアリババは存在しません。世界で最も貴重なものはお客様の信頼ですが、それは同時にもっとも脆く、しかしそれがあるからこそアリババはここまで来ることが出来たし、更に良くなることが出来た。中小企業に、若者に、女性たちの意見に耳を傾けるということが、我々の未来にもつながります。もちろんパートナーの皆様、インターネットの3W、3つのwin、Win,Win,Winに常に気を払わねばなりません。

最初にWinするのはもちろんお客様である必要があり、ふたつめのWはパートナーであり、3つめは自社の従業員。なので、私は心の底からお客様やパートナーの皆様にいいサービスを提供するべきだと思いますし、アリババはひとつの経済体としてひとつのエコサイクルとして、お客様がいるからこそ、パートナー様がいるからこそ、このエコサイクルが完成し、持続し、そしてひとつの健康、持続可能、シェアラブルな経済体として存続していくのです。

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最後に、私はもっとも貴重な重要な資産でもある、アリババで働く皆様に申し上げたい。アリババはあなた方のことを本当に誇りに思う。しかしここ数年、毎年新入社員には話すのですが、私たちはあなたが財産を築くことを約束しません。あなたの昇進も約束しません、すごい部屋を買えるようになることも約束しません。私達が約束できるのはこの会社で3,5,10年のトレーニングを積んだ人は、最高の自分になることができるということです。この10年、あなたがアリババで経験する、見ること全ては世界でも一番得難い経験であることは保証できます。

私たちはアリババの従業員として、みなさんに最高の自分であってほしい。それでいてこそ部屋を買うこと、車を買うことができる。これらは別の人があなたに与えてくれるものではなく、自分で努力して勝ち取るものです。私たちは同時に、仕事環境の改善に取り組みます。

アリババの文化を情に溢れ、義に溢れたものにする努力が必要です。ずっと情と義のある人たちに意義のあることをしてもらう事に力を尽くしてきました。なので、皆様に特別覚えておいてもらいたいのは、アリババが皆さんに人生における得難い経験を与えるものなのです。

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今しがた、支付宝が愚痴をいう発表を見ました。愚痴をいうのは構いません。ただ、愚痴を言おうが何をしようが、やらなければいけないことはやらなければいけない。
みなさんが会社に対して愚痴を言うことを歓迎します。会社に対して愚痴ることは歓迎します。しかしお客様に対して、社会に対して、環境に対して愚痴を言うべきではありません。なぜならお客様、社会、そして環境なしには我々は何も出来ないからです。皆さんに覚えていただいておいて頂きたいのは、アリババは今日巨大な経済体になったとはいえ、未来から見れば我々はまだ子供だということです。
誇りを持つことは大切です。しかし驕ってはいけません。独善的になることほど危険なことはないのです。このプラットフォームなく、パートナーもおらず、すでに得た信頼もなければ、我々には何も残りません。私が最も耐え難いと思うのは、外で「アリババは調子にのっている、まるで自分たちにできないことなど何もないと思い込んでいるようだ」といったセリフを聞くことです。

私は人々がアリババが大きくなったということを恐れているわけではありません。我々はどこにでもいます。それはそこに利益があるからではなく、そこにもっとうまくやれる隙間があるからです。アリババはいかなる領域にも進出します。我々はその領域において変革者、推進者、そしてその領域に衝撃と変化を与える存在でありたいと持っています。我々がいるからこそ、この業界には変化が起こったのだと。

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我々は謙遜の心を持たなければなりません。アリババはすごい企業にならなくてはなりませんが、そのためには我々従業員一人一人がすごい従業員になる必要があります。アリババは謙遜の心を持った企業であるためには、ひとりひとりが謙遜の心を保つ必要があります。アリババが世界の未来を担う会社であるためには、ひとりひとりが自らを担い、家庭を担い、地域を担い、組織としての責任を担わなければいけません。

「私は普通の会社員です、会社全体のことを考える必要はなくて、自分が担当する部分だけをちゃんとやれば、会社としてはうまくいくでしょう」という人がいます。
私は皆さんに感謝したいですが、同時にお願いしたいと思います。我々は努力して、その見返りを得ました。しかし絶対的多数の人はその努力を図ったところで、見返りがあるわけではないことを考えれば、それはある意味でラッキーだといえるでしょう。
ただ逆に我々が不運なのは、我々はいつも残業しなければならない、不当な扱いを受けることもある。別の人から責めたてられることもある。
この18年というものずっとアリババは批判に晒されてきました。しかし不当な扱い、残念な扱いはあなたがアリババの人であるからで、あなたが自分でアリババに入ると決めたからには、自分で払わなければいけない代価です。私はここで、アリババ人の家族の方々に特別な感謝を申し上げたいと思います。あなた方の信頼、サポートがあるからこそ優秀な社員の彼らがあります。この先10年においても、アリババ人の努力が尊重され、そして最後には見返りを得ることがあることを望んでいます。

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最後に、みなさんとアリババの運営の思想について共有したいと思います。真剣な人生、楽しい仕事、理想を持ち続けること。我々と他の人々との違いは、我々は誰と比べても自分の人生について真摯に考えることです。
人生はただ一度しかありません。リハーサルもありません。あなたが人生について真面目に取り組まなければ、人生もまた、あなたに真面目に向き合おうとはしないでしょう。仕事は楽しくなければいけません。多くの怨嗟、苦情、愚痴…あなたがもし楽しんでいないのならば、誰がそこにとどまりたいと思うでしょう。学ぶことも楽しまなければいけません。自分が満足しなければならないのです。アリババという環境の中では、みな左手が右手を温め、余裕があるときはそうやって備え、困難な時にそのエネルギーを使ってほしいのです。

最も、最も皆さんに望むのは理想主義者でありつづけてほしいということです。理想があるからこそ、我々は他と違った存在になることができるのです!理想があるからこそ、未来の84年の道を走り続けることができるのです!ありがとうございます。